社内見学
モンスターハウスからエコースさんを呼び出すにはいくつか方法があって。
大声で「エコースさ~~~ん!!」と呼ぶ方法。
それかデスク上にある、ファミレスにあるピンポンボタンのような物を押すとエコースさんの都合のいいときはエコースさんが。都合が悪いときには代理のメイドさんだかが来るらしい。
それと最新の呼び方はレオナさんにお願いすることだ。
どうやら魔王城内でのレオナさんの監督はエコースさんもしているらしく。レオナさんは念話でエコースさんと話せるらしい。
こうしてみると、なかなかエコースさんも大変そうなのだが。
モンスターハウスでゆっくりと休めるなんてことは、ここに来てからほとんどなかったので。実際にエコースさんを呼び出したことは俺は無い。
吉田さんはすでに何度か試したらしいが、吉田さんの呼びかけはほとんど無視されていたので。今では、エコースさんがモンスターハウスに来た時についでに要件を伝えているようだ。
だれが呼び出したのかわかるのか……。吉田さんは俺たちのリーダーだから、軽んじないで欲しいとお伝えしたのに。なんだか微妙にディスられているな。
まぁ、いいか。
森山さんは視線を、テーブルの上のファミレスピンポンに向けて押したそうにしているが。
なんだか躊躇している。
「どしたの? 森山さん?」
「私は、そのボタン押そうとするとなんか壊れそうな気がする。佐嶋君が押して」
「ホイホイ。ポチっとな!」
という訳で、俺がポチっと押してみる。
「……」
爆発はしなかったが、ファミレスのように『ピンボ~ン♪』とは鳴らなかった。
念のため、もう一度押してみたが、同じである。
「押した?」
「押したよ。ちょと様子を見よう」
俺と森山さんは、テーブルの上のボタンを眺めたり。突いたり……。
そんな事をしているとテーブルの端で息絶えていた吉田さんがピクピク動き始めた。
やっぱり気絶していたらしい。死んでいなくて良かった。
「……? ん?」
「吉田さん。いい夢見れた?」
意地悪そうな声で森山さんが言う。
「あれ? 森山氏に佐嶋氏どうした?」
「私と佐嶋君で、これからちょっと出かけてくるから。吉田さんはモンハウを守ってて」
森山さんの言う、モンハウとはモンスターハウスの略らしい。
「なんだ? デートか?」
「まぁ、そういう事でもいいわ」
ちょっと嬉しそうな感じで森山さんが言うと。なんだか、俺もそんな気になってきた。
なんかセレブな熟年カップルとかヨーロッパ古城の旅とかしてるイメージなので。今回はそれの真似事とかして見るのも良いかもしれない。
俺は、ちょっと浮遊して森山さんと手をつないでみた。
死の騎士の大きくてゴツイ造りの籠手全体を俺の手のひらで握ることは出来なかった。
……森山さんの親指を握るとちょうどいいくらいかな。
「……佐嶋君」
森山さんの声が近いなと思ったら。森山さんは胸甲をちょっと開いていた。
その鎧の中の深淵から、森山さんが顔半分ほどをのぞかせてこちらを見ている。
「手を繋いで」
少し開いた胸甲の隙間から、森山さんの本体(?)の白い手が伸びて来たので。俺はその手を握り、手をつないだ。
そんな俺たちを、吉田さんが不思議そうに見ている。
まぁ、死の騎士の鎧から女性の白い手が伸びていて、それを浮遊している俺が握っているのだ。普通のカップルの手のつなぎ方ではないだろう。
「……なんか。……いや、何でもない」
言及すると、命の危険があると判断したのか。吉田さんは言葉を止めた。
賢明である。
そんな事をしてしてると、いつの間にかモンハウの中央あたりに転移門が開いていて。
その前でレオナさんが俺たちに微笑んでいた。
「サジマ様。お呼びでございますか?」
「いや。エコースさんに、ちょっとこのお城の中を案内してもらおうかなーって思って」
「そうなの。私たち入社したけど。会社の事ぜんぜん知らないじゃない? それで、私と佐嶋君でウロウロしたいかなーって」
ちなみに。
ここまで森山さんの社長とか会社とか入社とかの発言には、一切誰もツッコミを入れていない。
表現の自由はかなり保証されているのか。
「なるほど。そういう事ですか。いまエコース様は、夢魔王様の御用がありますので代わりに私が許される範囲でご案内させていただきます」
ニッコリと笑顔で俺たちを転移門に誘うレオナさんに連れられて。
俺たちはヨーロッパ古城巡りごっこをスタートさせた。




