開かれた転移門
……森山さんが小人に見える。
と、言うくらいかなりの高度の夜空を俺は飛んでいる。
俺の眼下では、森山さんが逃げ惑うゴブリンに間を平然とのしのしと歩いている。
そして俺の人生初のお姫様抱っこのお相手は、ゴブリン吉田さん(32)なのだ。
以前の俺。
そう、森山さんと愛し合って、何かを卒業するまでの俺ならば。
このまま抱えているオッサンを即座に空中に放り出していたかもしれない。いや、していただろう。
「……佐嶋氏、俺を放り投げたりしないでくれよ」
「だ、大丈夫ですよ!」
吉田さんは、ひょっとして超能力者か?
第六感で身の危険を感じたのか、吉田さんは振り落とされまいと抱き着いてくる!
「わわ! 吉田さん! しがみ付かないでください! キモイ!」
うぉおおお。吉田さんの顔が、ちかいちかいちかい。
無理無理無理無理無理。
「あっ!?」
反射的に手を放し、オッサンを放り出そうとする俺。
捨てられないように必死にしがみ付くオッサンであるところの吉田さん。
「うぉお!?」
本能的には激しく拒絶しているが、慌てて俺は理性を総動員して吉田さんが落ちないように抱きしめた……。
奇麗な月夜。
空中でお姫様抱っこから体位を変えて、正面から抱き合う俺と吉田さん……。
「……」「……」
俺は、もう耐えきれなくなって。
スルスルと高度を下げはじめた。こんな拷問にあうなら、もう近づくゴブリンたちを覚悟を決めて皆殺しにした方がマシかもしれない……。
「あれ? どうしたの佐嶋君?」
空から降りてきた俺たちを見て森山さんは不思議そうにしている。
見てわかるでしょ! 無理だよ、男同士で抱擁しながら空の散歩とか!
「なに? あなたたち、ゲイに転向したわけ?」
森山さんは兜ヘルムの奥から赤く輝く瞳を細め、意地悪な声を出す。
「からかわないでくださいよ! マジ無理でした。コレ」
「佐嶋氏、コレはないだろ!」
俺にしがみ付きながら、吉田さんが言う。
って言うか。地上についたんだから、もう離れて欲しい。
……しかし。
ついさっきまであれほど積極的に攻撃してきたゴブリンたちも、どういう訳か俺たちに目もくれず走っていく。
「なんか、さっきゴブリンを一匹捕まえて聞いてみたらさ。なんかゴブリンの皇帝が死んだみたいで」
「はい?」
「それで、ゴブリン帝国がいま崩壊している感じみたいだよ」
……森山さんの言う事がその通りなら。
俺たちは、何もせずミッションクリアなんじゃね?
そんなことを俺が思ったが、森山さんがちょっと困ったように続けた。
「それがさー。どうやらゴブリン皇帝倒した連中だと思う強めが連中が。私たち所に一直線で接近中……」
えー?
森山さんが相手を強いって言うくらいだから、相当な相手だと思うけれど……戦いにならないといいな。
などチキンな思いを心に浮かべる俺。
「……なんとか逃げられない?」
「もう無理、速い動き。もう来るよっ!」
「佐嶋氏。落ち着いて銃を用意だ、戦闘になるかも知れねぇ」
余裕な声で吉田さんがリーダー的に指示するが、吉田さんが即死とかしないで欲しいな……。
とか考えながらも俺は吉田さんの言う通りに魔銃を用意した。
……そして、ほどなく。
「見つけたっ!!」
という声とともに、気持ち悪い高速で白く輝く鎧を着たイケメンが俺たちの前に現れる。
……なんだ、いま。鎧を着たままスゲー勢いで走ってきたのに音がほとんどしない!
イケメン君のイケメン具合は。
……男の容姿をあれこれ描写するのは好きではないので。
便宜上。
胸キュンせざるをえない! おすすめアニメのイケメンランキング10! とかあればランクイン
しているかもしれないレベルだ。髪はプラチナ色っていうのか? 銀色に輝くアニメ超、瞳は薄紫色に揺らいでいる。
この、イケメンは。俺たちを「見つけた!」と言うからには。探していたのだ。
では、なぜ?
……お友達になろっ! って雰囲気ではなかった。
そしてイケメン、ゆっくりと。そう、なにか見せつけるように腰に佩いていた剣を抜いていく。
……ああ。お約束ようにイケメン君の広刃の剣は光り輝く。
そう、邪悪を打ち払う魔法の聖剣ですよ! とでもいわんばかりに。
俺たちの戦闘のエース。森山さんは大剣を抜かず相変わらず。
腕組みして仁王立ち。
……しかし、なんだろう。森山さんの立ち方は。俺にはいつもの立ち方と違うような気がしたが。
戦闘素人の俺には森山さんから感じる微妙な変化が具体的になにかを表すことが出来ない。
「……どちら様ですか?」
「見つけたぞ!!」
……それは、もういいって。しかも、ガン無視かよ!
所が、よくなかったのだ。イケメンのその声と共に。イケメン君の周りに次々となんだか、ファンタジックな戦闘装備の女子たちが転移してくる。
ゴテゴテと飾り付けられた謎の杖を持った、紫色の長衣の魔法使いチックな女子は、85点
イケメンとお揃いチックな鎧に、見るからに高級そうな大剣を背負った鎧のお姉さんは、90点!
「なかなか。やるじゃない……」
意味も無く俺はニヤリと笑ってしまった。
が、しかし!
え? これってもしかして。
いきなり戦闘ってやつ?
俺はファンタジー異世界での戦闘って、まずお互いに名乗り合ったり関係を確かめ合ったりしてから。
さぁ! バトル! みたいな感じだと思っていた。
え? なんか問答無用に俺たちに攻撃してくるの!?
俺たちは単なる、倒すべき魔物って感じ? なの?
「エリエリっ! 曲を! ヴァンパイアの視線には念のため注意!」
イケメン君が向こうの三人のリーダなのか。
奴はそう叫ぶと、直立不動で武器も構えていない森山さんをターゲットにしたのか。
右手で輝く広刃の剣を構え。距離を詰めていく。
なんだ? イケメンの手ぶらの左手から白く輝く光が集まり盾のような形を作る。
魔法って奴か? ……厄介だな。知識にない技術は。
「戦曲はー。『殺戮のエチュード』要求で~す!」
そして、鎧のお姉さん
ええ? なんだ鎧のお姉さんは。
見た目はシャープな戦闘系っぽい容姿なのだが。
声は、なんだか眠たげな緊張感のないものだった。
しかし。これはこれでアリだぜ!
鎧のお姉さんは、ご自身の身長に近い大剣を両手で構えると、魔法使いの女の子を守るような位置を取る。……盾役か。
って言う事は。魔法使いさんは、攻撃してくるのか?
なんだ? 曲って?
「なに? 殺戮のエチュードだと?」
吉田さんが、なんか反応する。
なんか知ってるのか?
「こーんなモンス! 4分23秒で倒してやる!」
宣言するように魔法使いさんが言うと。音が……そう、これはピアノの音が。
なんだ? なんだ?
ピアノの激しい旋律が聞こえてくる!
これも、魔法なのか?
なんか、意味あるのかこの曲……。今の俺には、なにがなんだかわからない。
……そして。
おおおおおお?
そして魔法使いさんが、杖を天空に突き出すと。
杖の先に……紫色の焔の塊が即座に現れる。見る見るうちにその焔は直径3メートルほどに膨らんだ。
やばいやばいやばい!?
なんか、本格的な魔法攻撃がくるのか?
「も、森山さん! たすけてーーー!」
恐怖に駆られ。
つい、俺は叫んでしまった。
「大丈夫、佐嶋君。こいつらは多分素人さん。瞬殺できる」
「「はっ?」」
……森山さんの発言に、思わず動きを止める俺と、鎧のイケメン君。
「言うじゃないか! この化け物が!」
イケメン君の怒声が終わる前に、森山さんが黒い影のように動いた。
正直、森山さんの動きは。イケメン君の動きより遅いように俺には見えた。
しかし! イケメンが振りかぶった剣が森山さんに振り下ろされる前に、スッと森山さんはイケメン君の懐に潜り込み、左手で振り下ろされる途中の前のイケメンの剣をはじき飛ばし。右手でイケメンを殴りつけた。
イケメンは、かろうじて森山さんの右の拳を光の盾で受け止めるがそのまま後ろに吹き飛ばされ、地面にすっ転がる。
森山さんはそのまま左手で、肩から大剣を抜き払うと。そのまま魔法使いさんが溜めていた紫の焔の塊に向かって大剣を投げつけた!
――ヴォオオオオオオン!!
「キャァア!?」 「わーお!?」
森山さんの大剣で刺し貫かれた紫焔の塊は、魔法使いさんと、鎧のお姉さんの上空で爆散して彼女たちを地面にたたきつける。
投げつけた大剣はどういう仕組みか森山さんの手元に転移してくる。
そう言えば、森山さんの大剣は飛んだり戻ったりできるんだった。
「ふふふ。当身の威力……すごい強化されてる! これは面白い」
剣を掴むと、一人で満足気に語る森山さん。なんだかわからないけど……強い。
「クソっ……予言通りって奴か。……撤収」
ようやく起き上がったイケメン君がそういうと。連中は、どこかへ転移でもしたのか瞬時に掻き消えた……
……ん? 戦闘終了?
俺たち助かった?
「……」
「……なんだったのかね? あの連中は?」
吉田さんが。ぼんやりと言う。
そうこうしていると俺たちの前に転移門が現れた。
「あれ?」
「……社長が迎えに来たんじゃない? 私たちのやること無くなった感じだし」
そうかも知れない。俺も、そんな気がしてきた。




