ワイルドハント!
今夜は月が奇麗だった。
フランシアには千年ほども前に出来たという月が一つある。
地球の月とそっくりだ。
しかし、月ってホイホイ後付けで発生するのだろうか……。
ちょっと気になった俺の気持ちは、吉田さんの趣味の話で遮られた。
「……っていう訳で。声優の嫁をもらって毎日がアニメ声なんだよ!? すげーじゃん!」
「……ああ、そっスね」
「え? え、何そのリアクション。 佐嶋氏は声優とか嫌いとか?」
「いえー。声優さんの好きとか嫌いとかより。よく知らないっス。声は可愛いですよね、アニメとか見てると」
「だろ? アニメ画像でアフレコの真似事してみ! 声優様の偉大さがわかるぜ!」
「……うーん。まぁ、そうでしょうけれど」
森山さんは、俺たちのそんな会話を黙って聞きながら歩いている。
いや。興味ないので聞いていないかも知れない。
ともかく。
俺たちは今、吉田さんの夢なのか欲望なのかよくわからない話を聞きながら狩りをしている。
正直、戦闘に関してはまったくの素人である俺の練習みたいなものだのだが……。
「また、きたよー。 今度は30匹ぐらいかな。佐嶋君。今度は二、三匹は生かしておいて」
森山さんが緊張感なく俺たちに伝える。
特定の生命の反応(殺して狩ることによって生命力吸引出来る相手)を感知できる。
デスナイトとしての能力はレーダーのように素晴らしい。
俺たちは魔王さんの天使狩りに少し参加させてもらったあと、森山さんの希望どおりにゴブリン帝国への転移門を出してもらい。今俺たちは、ミッションの目的地であるゴブリン帝国のど真ん中にいる。
「もう。ゴブリンの相手とか面倒だから直接ゴブリンの王様を殺しちゃって終わりにしようよ! 早くもっと強い天使とか狩ろうよ!」
……という森山さんの要求に合わせて俺たちはやみくもにゴブリン帝国の中心部にあるという。ゴブリンたちの言う所の『宮殿』を目指していた。
夜道の先を見ると、月明かりに照らされて武装したゴブリンにしては大柄な体格の連中がこちらに向かってきているのが見える。
ホブゴブリンという奴らで、身長は160~170センチくらいのがっちりとした体格だ姿勢もゴブリンと比べるとしっかりしていて動きも機敏だ。
うーん、高校の部活で言うと野球部の生徒がゴブリンのコスプレして武器を持って襲ってくるみたいな感じかな?
そんな元気ハツラツな相手だ。
ちょっと先の丘から、武器を構えたなだれ込むように俺たちをめがけて走ってくる。
距離は50メートルくらいかな。
俺は、魔銃を構えると射撃を開始した。
実際のライフル射撃では、動き回る目標には予測射撃と呼ばれるテクニックが必要で。
弾丸の着弾までのタイムラグの間に目標がどう動くかを予測して、その予想位置を狙って射撃するのだが。このくらいの距離だとあまり考えなくてもいい。
そもそもファインベルクは感覚で撃つ感じで命中してくれるので非常に楽だ。
こんど暇なときに、長距離射撃ってどうするのか試して見よう。
そんな事を考えながら照準しているあいだに、もうホブゴブリンは表情がわかるくらいに接近している。
とりあえず、無理せず照準器から視野に入る10匹ほどを大雑把に確認した後で、俺は引金を引いた。
銃口から青黒い閃光が爆ぜると、いくつも枝分かれするように放射状に広がる。
……拡散レーザーって感じだろうか。
その光条の一つ一つが、俺の破壊への意志を乗せてホブゴブリンの頭部をとらえていく。
十数体のホブゴブリンの頭部が、かき消えるように消滅する。
……なんか、効果音が欲しいな。
頭部を失ったホブゴブリンは、勢いをつけて走り込んでいたのでスライディングするように音を立てて崩れ落ちた。
ファインベルクの『消滅』の力は、いまいち使い勝手がわからない上に。一度消してしまうと元に戻すに一苦労な現状の俺は極力使わず。
もっぱら『発生』の力を使って、なんちゃってビームライフル的な使い方をしている。
ファインベルクから、殺傷力のある光線などをイメージしてトリガーを引けばその通りになるのでこれは俺でも楽に出来た。
「!? っガ!?」
いきなり半数近くを失ったホブゴブリンの集団は動きを止めてしまう。
たぶん死んだホブゴブリンの中にリーダーが居たのだろう。一瞬の混乱が見て取れる。
俺は構わず射撃を続けた。
引金を引くたびに消えていくホブゴブリンの命。
死体が残るので、彼らはフランシアで産まれ育った命だ。
そしてこの地でその命が消えていく……。
我々に出会わなければ、死ぬことも無かったのに……。
俺は、そんな事を考えながらホブゴブリンの死体を眺めていた。
「……佐嶋君。二、三匹はどうするんだっけ?」
あっ! ヤバイ。
……全部、倒しちゃった!




