世界のペンと消しゴム
結果から言うと。
ゴブリン吉田さんは消滅した。
魔銃の競技ライフル並みに軽い引金をひくと。
アニメなどで見る極太ビームや、枝分かれして目標を追尾する謎の光線などは出なかった。
反動も無かった。
ドッキューーーーン! とかアニメのビーム兵器にお約束の謎の効果音も無かった。
魔銃の初めての射撃結果は、ビジュアルとしては恐ろしく地味だった。
しかし。
吉田さんが消えた……。
「え? 俺は……吉田さんに当ててないのに?」
俺の方がビビる。まさか殺っちまったのか? 吉田さんを?
「命中だ。サジマ! さすがに上手いな」
とんでもない事を魔王さんは言う。そしてなぜか嬉しそうにバチバチ拍手する森山さんと、謎の騎士たち。
「サジマよ。これがファインベルクの基本能力『消滅』だ!」
「いやいやいやいや。魔王さん、それは良いのですが。吉田さんはどーーぉなったんですか?」
まさかの吉田さん退場?
つか、マジで俺が吉田さんを撃っちゃったの!?
「ん? あ、ヨシダか? 死んでないぞ。消滅しただけだ」
「ええええ?」
魔王さんの言葉が理解できず、俺は動揺して硬直した。
そんな俺を見て、魔王さんは優しく微笑む。
「……サジマは優しいな。ヨシダなぞを気に掛けるとは。安心しろ、次はファインベルクのもう一つの能力である『発生』を使え」
「発生?」
「そうだ。サジマよ、ファインベルクは消滅させたり発生させたり出来るのだ。もちろんサジマが望めば武器のように弾丸や魔力を放出できるぞ!」
「ま、まぁ。とにかく吉田さんを元に戻したいです!」
「そうか。それならば今度はヨシダの姿や構成要素を想念内で再生しながらファインベルクを虚空に撃つがいい」
「いやいやいやいや。俺は、吉田さんのことそんなに詳しくないというか。ゴブリンの構成とか知りませんよ!」
ゴブリンに人間のような肝臓や胃腸があるのかも知らんのだ。
ムチャ言うな。
「まぁ、そんな難しく考えるな。できるだろ? だいたいで良い。所詮ゴブリンだ」
いやいや。魔王さんとか実は全知全能とかの生き物だったらそういう事が可能なのかも知れないけれど。俺はそんな計測不能の頭脳とか持ってないし。
「ええええ? って……あれ?」
ん?
「……あの。『発生』って」
「どうしたサジマ?」
「それって、元の吉田さんではないのでは?」
魔王さん。ここでちょっと考える表情になる。
え? どういうこと?
「……さぁ、それは。……ともかくやってみろ! サジマ。 私は設定を決めただけで結果は良くわからん」
「……」
呆然と立ち尽くす俺に、森山さんが提案してきた。
「まぁ、佐嶋君。とにかく撃ってみたら? 吉田さん消えただけで。尺長すぎだよー」
思い切り人命軽視的な発言の森山さん。
まぁ、ともかく。そうだ、撃ってみよう!
俺はありったけの吉田さんのデータを脳内に思い浮かべながら引金を引いた。
届けっ! 俺の思い! 復活してくれー。吉田さーーーん!
……そして。
相変わらず反動や音は無かったが。
一瞬なにかフラッシュした。白い閃光が消えるとそこには……。
……ゴブリン吉田さん
ではなく。
「ヨウ! サジマ! オレ ゴブリンヨシダ コンゴトモ ヨロシク!」
とか機械的に発言する。吉田さんっぽいゴブリンめいた生き物が立っていた。
本物の吉田さんとは、ちょっと色味が違うし。顔も微妙に違う。身長も微妙に高い気がする。
何より、付けていた『吉田』と書いてある首輪もない。
「これは……失敗だよね?」
「……」
森山さんが確認しながら。謎の生き物に大剣を撃ち落とし縦に真っ二つにすると。
吉田さんモドキは塵になって消えた。
「あれ? 死体とか残らないんだ?」
ためらいなく大剣を打ち込みながら、森山さんはぼんやり発言する。
「召喚などで魔法的に発生した命は仮初のモノ。もともと存在しないのだ、跡も残らん」
「……魔王さん解説はありがたいのですが。吉田さんを本気で何とかしてください!」
いくら温厚な俺でも。まぁ、責任の大部分は引金を引いた俺にあるとしても。
魔王さんにはここは是が非でもなんとか吉田さんを元通りにして貰わないと困る!
「うーん。そう、責めるなよサジマ。わかった、ヨシダは元に戻すからちょっと待て」
そして魔王さんは時間を一部巻き戻すとか言いはじめると……。
「……グラドルとデキ婚の夢とかまだだから死ぬの無理っ! ……って? あれ?」
……即座に消滅前の吉田さんを元の位置に復活させた。
「あー。吉田さん、もどってきたんだー」
気のない声で向かえる森山さん。
「……うう。良かった」
「な、なんだよぅ? 佐嶋氏! 危ないから銃口を人に向けるな!」
「うう。ゴメンなさい吉田さん」
どうやら吉田さんは一度消えた事を覚えていないというか。時間が巻き度されたとかなら、その事実が無かったことになるのか?
ちょっと俺には良くわからないが。
とにかく。
良かった。ほっとした。
俺は泣きはしなかったが。
……本当に良かった。たしかに吉田さんだ。
しかし、さすがに魔王とか言うだけあって。
マリスカレンさん、無茶苦茶だな。
なんなんだ? 時間を戻すとか?
これから狩るとか言う天使とかもそういう連中なのか?
俺はふと思った。
そういうムチャ同士が戦うと、どうなってしまうのか?




