腐乱死亞
「ちがうちがう! ちがうってみんなっ! 上だよー、上っ!」
デスナイト森山さんが闇の夜空を指差す。
「なんだよ? どこだよ?」
吉田さんが目をすがめて森山さんの指差す夜空を見ようとする。
月も無い夜なので暗視持ちの俺やゴブリン吉田さんでも森山さんの言う『タクシー』というモノが見当たらない。
しかし、森山さんには見えているらしいので。デスナイトの感覚だと感知できるのか? それとも俺たちより長距離まで見えるのだろうか?
森山さんだけが見える幻覚とかいうオチは止めて欲しい……。
「ん? あれか? あの黒い染み?」
お? 吉田さんにもなにか見えたらしい。
「そそ! あれあれ! うーんとあれだよ! 昔のギリシアローマとかの戦争のパッパカパッパカゴロゴロって馬でひっぱる戦車!」
「はぁ? 俺には黒い染みにしか見えないが……森山氏は目が良いな」
「ふふん! 私は視力2.0以上だもんね!」
「マジか?」
なんだか二人に取り残された感じがするが。俺には見えないが、どうやら古代の戦車っぽいのが近づいているらしい。
そして……。
「その戦車に魔王が乗ってるよーーー! きっとタクシーだよ! 私たちを運んでくれるんだよ!」
「なぬ? マリスカレン様が!?」
とたん喜色あらわに声をあげる吉田さん。俺も魔王さまのナイスバディが拝めるのは嬉しいかも。
……しかし。視力が人並みな俺には、まだ皆が見えているものが見えないのだった。
「……あれ? なんか? 妙にたくさんいねーか?」
「あ? 吉田さんにも見えてきた? なんか魔王のほかにもゾロゾロいるよね? なんだろう?」
吉田さんと森山さんがそんなことを言っている間に。ようやく俺にも見えて来た。
闇夜に流れる雲のの間から、何かの一団が塊でこちらに向かってきているようだ。
その先頭に、たしかに魔王マリスカレンがいるように俺には感じられたが。識別できるほど良くは見えない。しかし、何かの騎馬集団のように俺には見えるが。
たぶん細かいところまで認識できている森山さんには。戦車に乗った魔王が見えるのだろう。
「佐嶋君も見えた?」
「はい。なんだか騎馬の集団みたいなのが空飛んでますよね?」
「そそ! けっこういるよね? 私たち運ぶからかな?」
期待した声で森山さんは言う。よっぽど歩きたくないのだろう……。
やがて、俺れにもハッキリと本来なら土煙をあげて近づいてくるはず戦車の一団はが闇夜を滑るように近づいてくる様子がうかがえた。
確かに先頭には魔王マリスカレンの姿がある!
しかし……。
なんだろう。魔王はいつものビキニアーマーではなく。もっと重装備で、あきらかに武装した感じだ。
周りにいる戦車にも武装した黒衣の騎士たちが槍を持って搭乗している。
数は100騎くらいなのか? それとも戦車は100台とか言うのか?
ともかく。この集団を見つけて。タクシーという発想は森山ワールドなのか……普通の感覚ではない気もするが、なんだか俺も嬉しくなってきた。
「……」
やがて魔王率いる戦車の一団は高度を落としはじめ、俺たちに近づいてきた。
はっきり見えるようになると。凄まじい集団だった。
まず戦車を引いている馬が普通ではない。
体高2メートル以上の巨大な馬が二頭で引いている。
馬の身体は青黒く、なんだか青白い人魂みたいなオーラ―に包まれていた。
悪夢のような馬が虚空を蹄で打ち付けるたびに一瞬、青白い炎がはぜるように輝く。
その馬が引く戦車には馬と同じように青黒く輝く鎧に身を包んだ騎士たちが、槍や弓で武装して騎乗している。
神々しい邪悪さ……とで言うような雰囲気を騎士たちは纏っている気さえした。
「……」「……」「……」
姿を認識してから、俺たちのいる場所への接近があまりにも速く、そして静かであったので。なにかあっけにとられるように俺たちは黙ってしまっていた。
そしてそんな俺たちに。あかるく魔王さんが声をなげかけてくる。
「良い夜を! 良い狩りを! 天使狩りの途中だが。この近くにお前たちがいることを思い出してな。顔を見に来たぞ!」
「よ、良い夜を」
この世界での夜の挨拶なのだろうか。
とっさに魔王に返礼するのが俺の精一杯だった。
それにしても。天使狩りってなんだろう……。




