【side フレイロード】
「……ここでレオナさんが倒れたのですね」
細い声をクレシャが絞りだす。
厚めの粘板岩を敷き詰めた暗灰色の床には、血液と肉片が乾いて出来た赤黒い血だまりの跡がいくつかみられた。
賢者クレイカノーンからの依頼内容を聖騎士クレシャから受けて冒険者パーティ『フレイロード』は即時に動き出している。
「……レオナ」
クレイカノーンの声が痛々しい。
魔神狩りの準備を進めていたフレイロードの三人は、その準備をそのまま獅子姫レオナの回収依頼に変更すると賢者クレイカノーンと合流した。
彼とレオナの念話交信から割り出せていたので、クレイカノーンの展開した転移門でフレイロードと賢者はレオナ最後の地となった使われなくなったエングラノスト帝国の古い要塞に来ている。
「ここでレオナは近隣のゴブリンたちを操っていました。私の指示でゴブリンたちを争わせるようにして数を減らすように……」
「繁殖期でしたからね……ゴブリンの間引き目的ですか?」
「はい……。魔王を刺激しない程度で行動するようにレオナには言ったのですが……。レオナは何かをやり過ぎてしまったようで。しかし、まさかこんなことになるとは」
「……魔王マリスカレンか」
「魔王の転移門の発動が感じられたので、レオナには安全策を取るように伝えたのですが。魔王が直接来たのではないと判断したレオナはとりあえず戦ってみる気になってしまったようです」
「たしかに魔王が直接来ならば、一瞬で周囲は夜になるのでわかりますよね……」
魔王マリスカレン。この世界を形作った9体の古き神の一柱でもあり、千変万化の魔女とも言われる大いなる存在。そしてこの数百年間は人族の誰もが目にしたことが無い魔王。
その存在は多く語られるが。誰も姿や実態をつかむことが出来ていない魔神。
「……」
クレイカノーンと聖騎士のショウ・ナイトストークスの会話がひと段落ついたところを見計らってエリエリが声を出した。
「……んじゃ、過去視つかうヨ……」
エリエリが気乗りしない感じで宣言すると。無詠唱で術を行使する。
空間に残る情報で、過去の状況を推察する方法は種族によりさまざまで。
身近なところであると犬など、嗅覚の発達した生物は過去にその空間にどんな生物が何頭いたかなど把握できる。
過去視は空間に残る出来事が残したすべての情報を術者が立っている位置からの視点として脳裏に再現映像として映じる。
人間の嗅覚が何も感じる事ができない空間でも、犬は臭いを判別するように。
過去視の術は空間からの情報をさかのぼって収集しはじめた。
エリエリの脳裏には過去視の発動からの過去の映像が高速で再生されている。
記録映像の巻き戻しのような具合なのだが。情報の劣化などが原因で、目的の過去にたどり着けない場合も多々あるのだ。
「どうだ?」
ショウ・ナイトストークが心配そうに確認を入れる。
過去の現象を再現すると。当然予期しないような映像も見えてしまう。
心の脆さもあるエリエリには酷な映像がふいに現れても耐えられるように、邪魔にならない程度にショウはエリエリに声をかけて現在とのつながりを確保させる。
「……ん…きた。……見えてきた……ゆっくり遡るヨ」
薄目を開きながらエリエリが脳内の画像を調整し始めたのだろうと察して。ショウは口をつぐむ。
ショウほどエリエリとの連携がとれないクレシャとクレイカノーンは黙って二人を見守っている。
「けど……酷いな。レオナさん南無」
軽く額に汗をにじませて、エリエリが苦し気につぶやく。
残された血痕の大きさなどから皆が予測をしていたが。どうやらレオナの最後は無残な形であったらしい。
「……むむむ。オワタ。完了」
ふうっ。と、ため息をつくとエリエリは座り込んで頭を抱える。
かなりの精神的な疲労があったようだ。
「どうでした? エリエリさん……レオナは」
「う~ん。どうしたもんかな。困るヨ」
クレイカノーンの問いに、エリエリは答えを言いよどむ。
「あのー。クレイカノーンさん。私の見たありのままを感覚共有で確認しますです? それともありのままを私なりに語った方がショック少ないカモ?」
「……それは」
「申し訳ないけれどー。レオナさんは普通に倒されたんじゃナイのヨ……」
「そ、それでは。まず、エリエリさんの言葉で説明していただいて。どうしてもと言う時は感覚共有をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん。……気になるよね。わかったよ。いいヨ。映像で確認したいときは言ってネ」
あまり他人に気を使わないエリエリが気遣いを見せるほど、レオナの死に様は普通ではないのであろうことをエリエリ以外の全員が察した。
「じゃ、話すヨ……」
「……」
皆はエリエリに注目しながらその声を待ち。魔導兵のマルコもおとなしくエリエリの周りをゆっくり旋回する。
「まず。この部屋の入り口から死の騎士が一匹侵入してきたんだヨ……」
「デスナイト? レオナさんなら一体程度なら問題なく対処できる相手では~?」
「うん。クレシャその通りなんだけど。そのデスナイトは普通じゃなかったのだヨ」
「ほう?」
「たぶんレオナさんがアイテムで召喚したんだ思うゴブリンの投擲槍兵が入り口のまえに陣取って投擲槍投げたのヨ」
自らが見た事が不思議だったのか。エリエリは首をかしげながら続けた。
「そしたら。そのデスナイトは投擲槍を切り払って撃ち落としたのだヨ」
「あ! それは不思議ですよね。普通のデスナイトは回避行動しませんから~」
デスナイトとの戦闘経験のあるクレシャにはすぐに理解できた。
デスナイトは先制攻撃の技能や鎧貫通の技能など攻撃よりの技を多く持ち。自身は通常武器無効の能力や生命力吸引があるために一切の回避行動や防御行動をしない。
それゆえに高品質の魔法の武器や祝福された武器の所有者には良いカモなのだ。
獅子姫レオナも高位冒険者に匹敵する実力の格闘家として、当然のように魔法で強化された護拳を装備している。
防御しないデスナイトが相手ならば。いいように殴り倒せたはずだ。
「デスナイの攻撃の打ち込みが偶然撃ち落としたとかの可能性は?」
「んー、投擲槍兵は三匹いて三本の投擲槍を一発で撃ち落としたヨ」
「うーん。そういう事も……ある。かも?」
ショウの疑問を払うように。エリエリはデスナイトの動きを声に出した。
「うん。では偶然だとしても。そのあとデスナイトが大剣を両手で構えて……そう剣道みたいに。そしてデスナイトの胸の鎧が外れて中からヴァンパイアみたいなのがレオナさんに飛び掛かったのだヨ」
「……なんだ、それは」
「すいません。ちょっと、意味がわからないのですが」
混乱するショウやクレイカノーンにどう伝えていいのか。
もどかし気にエリエリは座りながら身もだえする。
「あーーっ! もう。みんなも見て見る? その時の状況。あきらかにオカシイのだヨ!」
その後、エリエリとの感覚共有で全員がレオナの死とその原因の全容を把握することなる。
作戦と思われるが不可解なヴァンパイアの行動。
その結果から導かれた、感情無き亡霊騎士であるはずのデスナイトの怒りの姿。
レオナを襲った目を覆う殺戮……。
突然現れた、高位のサキュバスと思われる存在と。デスナイトが何かを語り合っているような光景。
回収されるレオナの遺体と倒れ伏すヴァンパイア。
……そして、なぜか戻ってきたデスナイトと復活したヴァンパイアが、怒り狂うゴブリンをなだめながら魔王の転移門に消えていく姿……。
フレイロードたちは感覚共有で得た情報を帝都に持ち帰り。
魔王側に転生者が現れた可能性を検討することにした。
「続きが気になる!」「面白かった!」「付き合ってやる」と思ったなら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価お願いいたします!
面白かったら星5つ、いまいちなら星1つでも大変ありがたいです!
ブックマークもいただけると、励みとなりますのどうかよろしくお願いいたします!




