ヴァンパイアの佐嶋さん
「よ、吉田さん。これはいったいどういう事なんですかね?」
「……わからねぇ。ただこいつはヤヴァイ事だぜ」
「ええ。明日俺、歯医者の予約あるんですけれど」
「……」
俺は歯医者の予約を気にしながら。吉田さんと見知らぬ土地を歩いている。
ゴブリンの吉田さんは、モンスター丸出しの見た目とは裏腹に意外に気さくな中身だった。
明らかに高校生の俺よりは年上だろう。
……オッサンかもしれない。
「佐嶋氏は、いくつよ? おれリアル32歳 派遣社員だ」
やっぱりオッサンだ。
「自分は、16です。射撃部です」
「射撃部? サバゲ―とかするの?」
ゴブリンの吉田さんが不思議そうな顔で俺を見上げた。
32歳の吉田さんは、身長140センチくらいの猿体型とでも言うのか。
妙な体型の緑色のゴブリン。
ゴブリンと比較した感じだと俺の身長はどうやら175センチくらいかな。
「いえいえ。ビームライフルで動かないターゲットとか撃ってます」
「ビームライフル? マジで?」
ビームライフルという単語に強く反応するゴブリンの吉田さん。
実は、歩き出して気がついたが。
俺は地上20センチくらいをフワフワ浮いて移動できる。
練習を兼ねて、浮遊移動しているのだが実に心もとない動きだ。
「ビームライフルって言ってもビームが出るわけでは無くて。いや、ビームは出るんですが」
「ほう?」
「見えない光線が的に当たったか判定するので、すげー地味っスよ。射的部とかの方がイメージ的確かもしれないです」
年上のゴブリンの吉田さんと話していると、なんとなく部活の顧問と話している時の口調になってしまう。
「それにしても佐嶋氏よ、俺たちはなんだか異世界に本当に来ちまったが。俺TUEEEは無しだなコレ」
「うーん。吉田さんは見た目ゴブリンですけど、実は強いのかも?」
「だと、良いんだが……ハーレムも無理そうだな。異世界でもボッチかよ」
ため息をつくゴブリン。でも、吉田さんはメスのゴブリンにモテるかも知れないと思ったが口にはしなかった。
「……俺は、本当にヴァンパイアなんスかね? 牙とか確かにあるし」
そう。俺の口の中にちょっと長い犬歯。いわゆる吸血鬼の牙みたいな存在の感触がある。
気になっていた虫歯の穴は無く。
どうやら明日の歯医者は不要のようだった。
しかしヴァンパイアとか……吸血衝動とかもあるんだろうか?
不安だ……。
「ゲームみたいに、ステータス画面とか出てこないですかね?」
「知力3とかHP5とか、レベルとかランクとか見れる奴か?」
「ええ。そんな感じの……」
「そういうのあれば。俺や吉田さんがこの世界で生き残れるかとかわかりやすくなるじゃないですか……」
「まぁ、俺はこのナリだから期待できねーから。ステータスとかいらねーけどな。だが佐嶋氏はTUEEEとかハーレム楽勝な気がする」
「そうスか?」
「いや、マジでイケメンというか。リアルでも見たことないレベル。そういうのはなんか能力とかも優遇されてそうだぜ」
吉田さんは心底羨ましそうな声で言った。
「そう言えば俺、ここ来てから自分の顔まだ見たことないです」
「俺の瞳をのぞき込むと、映るかもよ」
と、ニンマリ笑う吉田さんのゴブリンの瞳は赤く濁っていてなにかが写り込みそうには思えなかった。
「いや、いいス」
それにしても。
周りは見渡す限りの砂漠のような感じで空には星も太陽もない。
そのクセなんだか、ぼんやりと明るい。白夜って奴はこんな感じなのかな。
その砂漠には、なぜか綺麗な道が用意されていて。そのアニメなどにありがちな、妙に整備されているような気がする道を俺たちは歩いていた。
「吉田さん、この道は何処まで続くんですかね……」
「さぁな。佐嶋氏は空とか飛べるじゃないか? そのフワフワってやつでもっと上空へいって偵察できないか?」
「ちょ、ちょっと怖いけれど試して見ます」
「おう。ゆっくりと気を付けてな。頼むぜ」
おっかなびっくり俺はゆっくりと浮かんでいる高度を上げてみようとしてみた。
ちょっと目線を上げて、そこに向かおうとする意識を取ると。どういう理屈なのか、高度が上がっていく。
こ、これはちょっと気持ちいい!
俺は調子にのってスピードを上げてみようと思と、スルスルと移動速度も上がっていく。
速度が上がれば、空気抵抗とか音とかを感じるはずなのに。そういう抵抗感は一切ない。
スゲー。
これは、素直にスゲー。
「ぉ~ぃ」
調子に乗って飛びすぎたので、気がつくと大声て叫んでいるような感じの吉田さんの声が小さく聞こえるくらいの距離になっていた。
そうそう道の先を偵察しないと……。
そして。どのくらい離れているのか今の俺にはちょっと判断できないが。
かなり道なりの先の方に、なんだかフランスの凱旋門のような物があることに俺は気がついた。
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