ファーストキスは、ゴブリンの村で
「……えっと、彼女はいないですよ」
「そう。ありがとう」
暗闇に浮かぶ森山さんの頭部は、美しくはあったが……。
首から下って、どうなっているんだろう……。
森山さんは、自分の鎧の中でなら身体の一部を実体化できるような感じらしい。
真っ暗闇に、ぽっかりと青白く光る森山さんは伏し目がちに言葉を続ける。
「……最初、佐嶋君と出会ったときには。凄い美形な男の子みたいに思ったけれど」
俺は森山さんが嫌いとか、苦手とかそういうのは一切無い。
森山さんは、俺の見た目を褒めてくれるが。俺はこの世界に来てから自分の顔を見たことが無い。リアルでは見た目でアレコレ言われた記憶はない。
「ヴァンパイアだし……そのうち色んな女の子とかに噛みついては捨てて、噛みついては捨て……」
ちょーっと吉田さんに厳しいかな? ってなくらいの感じである。
「そういう、リアルの遊び人みたいな男の人になるのかなー。とか思っていたから、あまり私も意識していなかったんだけれど……」
しかし女性としてと言うか。
恋愛とかの可能性については、初対面から今の今までグラムも考えたことは無かった。
「なんだか。さっきから佐嶋君の事ばっかり考えちゃってて……」
デスナイトの森山さんは身長は250センチの全身鎧の身体。
中身は異界に通じているような謎の空洞で。
「私も、変だなと思ったけれど」
横幅も胸当て部分だけでも俺が楽に潜り込めるくらいサイズだ。
「私、佐嶋君の事が……」
無理だろ……
とか思ったが、ジワジワジワ森山さんの顔が近づいてくる。
あれ?
これって俺。襲われる?
「私……頭だけとか。胸だけとか。お尻だけとかならば鎧の中で形作れるから」
「ええええ?」
「……ダメっかな?」
何が駄目なのか。そして、意外にそれならイケちゃうんではないか?
とか考えている俺がいたりもした。
「ちょちょ、森山さん落ち着い――」
森山さんの生首が、俺に喰らいつくような口付けをしてくる。
ああ……俺のファーストキス。
あ、でもなんか。
これはこれで、イイか? も?
「ハァ……しちゃったね」
ちょっとイタズラっぽく、森山さんは笑う。
うう、こう見ると森山さんもカワイイ。
デスナイトだけれど……。
でも。なぜに、森山さんが俺を?
いままで、そんなそぶりはお互いにミリも無かった……のに。
まぁ、恋は突然にとか言うし。
部分的にでも、実体化できるとかなら……。
まぁ、何とか俺たちは上手くやっていけるのかも知れない。
「森山さん……俺も……いま…」
「ごめんね佐嶋君。いきなりこんな事って……魔王からもらったアイテムを身につけてから私、なんだか……おかしくて……」
……それだろ
「も、森山さん。その拡張スロットの中身を、ちょーっと見せてもらえないですか?」
「え? ……うん、良いけれど」
「ゴメンね、俺たちの大事なときにそんなこと言って」
森山さんはどこからか、手のひらサイズの金属製カードホルダーのような物をとりだしてきて、俺の目の前に浮かべてくれる。
「スロットに入っているカードを見て良いですか森山さん」
「いいわよ……」
そして、スロットに差し込まれているカードを抜いてみる。
なんかピンク色の怪しげなカードが出てくる。
なんだか見たことない装飾多寡ともいえる文字が書かれていて、でかいハートマークが描かれている。
不思議と俺は、その文字を読むことが出来た。
(サジマ君 大好きカード!!)
「……」
こ、これがデスナイトの恋の原因か……。
魔王の、報酬の中にあった拡張スロットに刺さっていたオマケのカードの正体だった。
でも、これを抜いちゃえば。もう森山さんは、元通りだね!
良かった。
……と、思ったのだが。
な、なにか冷気というか霊気のような冷たさをヒシヒシと感じる。
ちょっーと横目で、森山さんの表情を伺おうとすると。
「……私の中で、何しているの? 佐嶋君?」
凍り付くような森山さんの声……。
え?
俺の目の前に、ホラー映画のワンシーンのような表情の森山さんの顔が浮かんでいた……。




