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おれのだいすきなおかあさんは

「国外追放された後、どうやってお金を稼いだらいいかしら」


 ものを食べて、飲んで、呼吸をする、おかあさんの真っ赤なくちびる。

 つやつやおいしそうなそれが、くるくる動いて、そんな言葉を吐いた。


 こくが、いつい、ほう。

 こくがいついほう、こくがい――国外追放――――当エンシェルト国における国外追放とは国民また在留者に対し全財産及び身分を剥奪した上で出国を強制しかつ再入国を永遠に禁止する刑罰を指す出国命令が執行されれば魔術刻印を持って再入国禁止の印が捺される死刑が廃止されて以降最重刑罰の一つとなった過去に執行された事例としては―――ああ、たぶんこれのことだ。


 奴隷だった頃なら呪文みたいに聞こえただろうけど、学園に通わせてもらえてるおかげで、むずかしいことばをたくさん知った。おれはよく寝ちゃうけど、おかあさんの息子として恥ずかしくないようにきちんと勉強してる。でも、夜間の警備の方が重要だから、やっぱり昼間は寝ちゃう。


 こくがいついほうは、中等部の授業で習った。

 王様の暗殺を実行したやつとか、国の半分が死んだテロを起こしたやつとか、国の一大事を引き起こしたわるいやつらへの罰だ。百年くらいは出てない、すっごく重い罰。


 おかあさんは、王様を殺したいのかな。それとも、たくさん殺したいのかな。

 どっちだろう。どっちでもいい。どっちでも、おれが必ず、おかあさんの望みを叶えてみせる。


「なあに?」


 おかあさんは、弟を見て、おれを見て、また弟を見た。

 おかあさんが顔を動かすたびに真っ黒な長い髪が揺れる。おれのもさもさした髪と違う、まっすぐで、細くて、きれいな黒髪。

 教会のアリス様は金髪だったけど、おれのおかあさんの黒髪のほうがきれいだ。おかあさんに会ってから、そう思うようになった。


「ええ。だからね、国外追放された後の生活を考えようと思って。なにかいい案はない?」


 ちょこっと首を曲げるおかあさんはとってもかわいいけど、弟ばかり構ってもらっているのがとてもさびしい。頭をつかうのはあまり得意じゃないけど、おかあさんのためなら、おれだって、ちゃんと考えられるのに。


 おれは騎士になりたかったけど、周りはおれに従者になれって言う。その方が、ずっとおかあさんのそばにいられるって。だから、やれって言われたこと、なんでもした。おかあさんのそばにいるためだと思えば、ぜんぶ覚えられた。紅茶なんて淹れたことなかったけど、今じゃ気温や湿度に合わせて銘柄も淹れ方も調整できる。


「どう思う?エル」


 だから、おねがい、おかあさん。

 おれを頼って。

 おれを求めて。


 おれだけを見て。


 願いを込めて、おかあさんをじっと見つめる。いつだって、おれはおかあさんを見てるけど。いつだって、おれだけを見てほしいし、おかあさんだけを見ていたい。


 そんなことを考えていたら、弟が、おかあさんの目元にある薄いくまをさわった。なにしてんだあいつ。

 弟は、ちょっとおかあさんが好きすぎると思う。弟みたいなやつのこと、シスコンっていうんだって。公爵が言ってた。


 姉のことが好きすぎる弟。


 おかあさんを一番に考えるのはいいことだと思うけど、たまに目がヤバいときがある。おれは正直、ほんとに姉として好きなのか、かなり疑ってる。もしおかあさんに手を出そうとするなら、こいつも敵だ。


 おかあさんの敵は殺す。誰ひとり逃さず、おれがみんな殺してみせる。


「夢の中の私は、タローにヒロインの暗殺を命じたの」


 ――首をはねよ


 いつかおかあさんと読んだ絵本の女王。

 似ても似つかないはずなのに、どこかおかあさんと重なって胸が高鳴った。


 おかあさんが絶対にくれない、おかあさんの敵を殺す命令。

 それはおれにとって、願ってもない天啓だった。

三月うさぎはとびはねる

今か今かととびはねる

まだよ まだよ まだだめよ

六時の茶会は終わらない

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