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リシュエル=クーデンベルクは

 頭脳明晰、品行方正。

 日焼け知らずの真っ白な肌に、ぴんと張りつめた背筋。

 白銀の髪と赤い瞳、右目にかけた金のモノクルがよく映える。

 中等部風紀委員長として規則違反に目を光らせ、その容赦ない取り締まりから「違反者の背後に白ウサギ」と都市伝説さながらに恐れられ、遠巻きにされていた。その厳しさは、中等部卒業前に高等部の風紀委員長から直々に風紀委員加入の勧誘を受けるほど。


 彼の名はリシュエル=クーデンベルク。

 クーデンベルク家長男であり、リシュカ=クーデンベルクの腹違いの弟である。




「ねえさま」

「どうかしましたか、エル」


 幼い頃、彼は姉が好きだった。

 姉にも好かれているのだと、愚かにも信じきっていた。


「ねえさま、ぼく、ねえさまのことがだいすきです」


(だからきらわないで。いっしょにいて。ぼくのこともっとすきになって)


 冷たい指先を握りしめれば、ゆるりと握り返される。


「…わたくしも、です」


 微笑む姉は美しくて、その言葉が嬉しくて。

 姉さえいてくれるなら、もうなにもいらなかった。

 事実、彼の世界は姉によってのみ構成されていたのだ。


 貸し腹から産まれた身に母はなく、父は興味の欠片も見せない。彼を彼個人として認識し、反応してくれるのは唯一、姉だけだった。姉さえ彼を愛してくれるなら、彼はそれだけで幸福だった。


 それだけで、幸福だったのに。




「リシュエルなんて、だいきらいですわ」


 その言葉を聞いてしまったのは、偶然だった。

 父である男に用があって、部屋の扉をノックしようとした瞬間のことだ。聞き違えるはずもない愛しい声が、彼の心臓を貫いた。


「そう?仲が良さそうに見えるけどね」

「それは…ひとのめがあるからです。きょうだいのなかがわるかったら、おいえのひょうばんがおちてしまいますもの」

「本当かなあ。ねえ、どれくらい嫌い?」

「…とっても、いっぱい…、たくさんですわ」

「とっても、いっぱい、たくさん――すごく、大嫌い?」

「……ええ」

「じゃあ、リシュカが好きなのは誰?」

「わたくしがすきなのは、おとうさまだけですわ。ですから――」


 それ以上は、とても聞いていられなかった。

 突き立てられた言葉が信じられなくて、信じたくなくて、彼は用があったのも忘れて自室に逃げ帰った。


 うそだ。うそだ。うそだ。

 (でも確かに聞こえた)

 だってねえさま、だいすきっていってくれたのに。

 (でも大嫌いって言ってた)

 うそだ。

 (大嫌いって)

 うそ。

 (好きなのはあの男だけだって)

 うそ。うそ。

 (うそだったんだ)

 (すきだなんてうそだったんだ)

 (うそだ、ぜんぶ、ひどい、うそつきうそつきうそつき)


 ねえさまは、うそつきだった!




 幼い頃、彼は姉が好きだった。


 遠い遠い、過去の話だ。

白いうさぎが泣いている

赤いひとみで泣いている

赤の女王は真っ赤がお好き

首に赤バラ、真っ赤なウソ!

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