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おかあさんのかわいいタローである

「あなた、おかあさんをさがしているの?」


 おかあさんをぎゅうぎゅう抱きしめたらまわりがうるさくなったけど、おかあさんがそれを抑えてくれた。

 おかあさんはまっすぐおれを見ながら、おれの話を聞いてくれた。


 ほんとの親のきおくも、自分の名前も、おれにはなにもないこと。

 アリス様をずっとまっていたこと。

 でもアリス様をまっていたのは、アリス様がみんなのおかあさんだったからで、アリス様がおれのおかあさんだったからで―――だから今、ほんとのおかあさんに会えて、とってもうれしいってこと。


 おかあさんは、うんうんうなずきながら、おれのぐちゃぐちゃな話をさいごまで聞いてくれた。

 それから、ちょっと困ったような、うれしいような顔をして、おれのあたまをなでた。


「わたしがおかあさんでいいの?」

「おがあざん、が、いい」


 「シスカ」って怒ったみたいな公爵の声がして、おかあさんは公爵に向けて「ごめんなさいね」って笑った。


「わたし、つよいひとをさがしていたの。ずっとそばにいて、どんなこわいものからもまもってくれるひとを」


 ずっとそばにいて、守る。

 それは、おれがなりたかった騎士そのものだった。


「あなたなら、きっとみんなをまもってくれる。ねえ、あなた、おにいちゃんに――騎士になってくれないかしら」


 おにいちゃん?おれが、おにいちゃん。

 おかあさん。かぞく。

 おれがずっとほしかったもの。


 きし。騎士。

 おれがずっとなりたかったもの。


 ああ、やっぱりこの人がおれのおかあさんだ。

 おれを迎えに来てくれた、おれの、おれだけのおかあさん!


「な、る!おれ、ぎじ、おにいぢゃ、なる!!」


 おかあさんの足元にひざまずいて、その顔を見上げる。頭の上のシャンデリアがきらきら光って、絵の中のアリス様より、おかあさんの方が―――おれのおかあさんの方が、ずっとずっときれいだった。


 おかあさんがおれを見つけてくれたあの日から、おれのすべてはおかあさんのもの。


 おかあさんは、けいやくきんも、毎月のきゅうりょうも、全部自分で払ってくれてる。普通の子供のこづかいで払える額じゃないけど、おかあさんは「ヘソクリよ」って笑ってばっかで、くわしくは教えてくれない。

 おれは、きゅうりょうなんてなくてもかぞくのこと守るけど「これでタローの好きなもの、たくさん買ってね」って笑うおかあさんがかわいいから、とりあえず貯金してる。

 おれが好きなのはおかあさんだけ。だから、おかあさんと結婚するとき、この金を使ってごうかな結婚式する。おかあさんが養子にしてくれたから、身分もきちんとあるし。


 そう、おかあさんはおれに「タロー」って名前と、「クーデンベルク」の家名をくれた。おれを養子にしてくれたんだ。

 タローは強い男につける名前らしい。おかあさんがおれの強さを信じてくれたことがとってもうれしかった。

 家名は、学園に通うために必要だって言ってた。「がくれきしゃかいはこわいのよ」って言ったおかあさんは真剣で、おれは少し泣きそうになった。おかあさんは、ほんとにおれのこと考えてくれてる。おかあさんのとなりに立ってもはずかしくない、りっぱな男になろうと思った。


 けど、おれがおかあさんのとなりに立つためにはじゃまなやつがいる。

 ヴィンセント=シアン=エンシェルト。このエンシェルト国の第一王子だ。


 うちは貴族の中でも、特に王族に近い家らしい。おかあさんのおかあさんも、もとは王族のお姫様だったんだって。ほんとは同じ家が続けて王族と繋がるのあんまりよくない?らしいけど、王子がどうしてもってワガママ言ったらしい。

 それはそうだ。おかあさんはこの世界でいちばんきれいないきものなんだから、好きにならないはずがない。だから、婚約者になるのはしょうがない。


 でも、あの王子はだめだ。おかあさんのことが好きすぎる。

 そして、おかあさんのことを知りすぎている。


 おかあさんが自室でぽつりと言った食べたい菓子を、偶然を装って買ってきたり。

 お気に入りのカップを割ってしまった翌日に、同じカップが贈られてきたり。


 ぜったい、なんか仕掛けてる。一日中、監視してる。はんざいしゃだ。

 でも屋敷になにかされてるなら、あの公爵が気づかないはずがない。王子はきっと、公爵とうらとりひきしてるんだ。きたない。さすが王子、きたない。


 おれがおかあさんと結婚するまでの間なんて、べつにだれが婚約者でもいいけど、あの王子はだめだ。殺しづらい。あの王城とかいうすみかにもぐりこむのもめんどくさそうだし、あいつの騎士……護衛?側仕え?も、あいつ自身もめんどくさい。あの王子、いつもにやにや笑っててきもちわるいんだ。

 だからあいつとの婚約は解消してほしいんだけど、おかあさんは王子を気に入っている。よく「かわいい猫ちゃんね」ってくすくす笑う。あの腹黒、おかあさんの前でだけ猫かぶりやがって。おれのほうが絶対かわいい。


 王子は気に入らないけど、でも、おかあさんが気に入っているおもちゃなら壊すことはできない。

 おれはおかあさんを守る。おかあさんの大切なものを守って、おかあさんの敵を殺す。


 おれのすべてはおかあさんのもの。足の爪先から髪の毛の一本まで、ぜんぶぜんぶおかあさんだけのもの。

 だからおれは、おれのすべてを使って、おかあさんを守る。おかあさんの大切なものを守る。


 おかあさんのいのちを守ること。おかあさんの笑顔を守ること。


 それだけが、おれの生きる意味なんだ。

三月うさぎがきしのまねごと

つるぎをたずさえいさましく


けれども かれは三月うさぎ

くるくるくるったあたまでもって

じぶんのむねにつるぎをぐさり

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