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俺の最愛の姉様は

「国外追放された後、どうやってお金を稼いだらいいかしら」


 麗らかな昼下がり、スコーン片手にティータイム。

 そんな平和なひと時をぶち壊す発言に、俺は危うく紅茶をぶちまけそうになった。


「…姉様」

「なあに?」


 一見冷たい表情で、俺と自身の従者を交互に見る、凛とした美貌の少女。

 国の中枢を担う大貴族の長女であり、俺の最愛の姉様、リシュカ=クーデンベルク。


「また、夢でご覧になったのですか」


 俺の姉様は、狂った未来を夢に見る。


 姉様曰くその夢は「定められた未来」らしい。

 姉様の未来は、ぱらめーたやら、るーとやら、姉様自身にさえよくわからないものによって定められているそうだ。その未来を、まるで物語のページをめくるように夢に見る。


 悪夢は今も不定期に、姉様を襲っているようだ。


「ええ。だからね、国外追放された後の生活を考えようと思って。なにかいい案はない?」

「国外追放されるのは確定事項なのですか」

「たぶん?」


 小首を傾げる姉様は、見た目だけならまるで冷酷な女王様のようだ。薔薇のように咲き誇る深紅のドレス。黒のきついつり目とストレートの長い黒髪が、冷酷な印象を与える。

 けれどその実、発言はふわっふわしている。姉様は、神経質そうな見た目にそぐわず楽天家なのだ。そうでなければ、こんなにあっさりと国外追放なんて口にできまい。少なくとも、俺にはとても無理だ。同じソファの右隣にいるはずの姉様が、ひどく遠く感じた。


 どうすることもできず、向かいのソファに座る、姉様の従者ことタローに視線で意見を求める。


 訂正、求めたかった。


 あいつはだめだ。視線が姉様に固定されたままさっぱり俺と目が合わない。通常運転だ。

 タローは基本的に、姉様以外を視界に入れない。その見事なまでの狂信者ぶりはいっそ感心するが、姉様に悪影響を及ぼしかねないので可及的速やかに辞職してほしい。

 ともあれ、タローは先の姉様の発言に全く動揺していないようだ。見習いたい、その図太さ。


「どう思う?エル」


 答に窮して黙っていると、追い打ちをかけられてしまった。

 姉様の夜色の瞳が、真っ直ぐに俺を射抜く。目の下の痛ましい薄い隈を差し引いても、姉様は今日も美しい。美しいが、発言は電波だ。しかし、ああ、俺の姉様ちょうかわいい。


「姉様、申し訳ありませんが、順を追ってお話しいただけませんか。恐ろしい夢は、人に話すと実現しないと言いますでしょう」


 話せば実現しないだか話さなければ実現しないだかはどちらも聞くが、俺はその時々に都合のいい方を信じることにしている。どちらにしろ、姉様が国外追放されるような夢が現実になることは有り得ない。


「どうか、貴女のエルにお話しください」


 姉様に触れたい欲がこらえきれず、姉様の痛ましい隈を指先でそっとなぞった。薄かろうが、隈は隈だ。姉様の愛らしい目元にあるというだけで、濃度など関係なく痛ましい。

 くすぐったいと笑う姉様はきっと、隈があることなど気づいてはいないだろう。姉様は、自分自身への関心があまりにも薄い。姉様が自身をおざなりにする分、俺がすべてお世話して差し上げたい。姉様が指ひとつ動かさずとも日々を過ごせるように。俺がいなければ、生きていけないように。

 

 そんなことを考えていると、姉様の鋭いつり目が、真っ直ぐに俺を見つめた。紅など塗らずとも赤く色づく唇が、静かに開かれる。


「夢の中の私は、タローにヒロインの暗殺を命じたの」


 ――首をはねよ


 いつか姉様と読んだ童話の女王。

 その姿が、ふいに姉様と重なって見えた。

あの小鳥はしんでしまったよ

女王が首をはねたからさ

あの小鳥はしんでしまったよ

きみが首をはねたからさ

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