表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
速さが俺の生き甲斐~光を目指して~  作者: どらべん
第一章
6/27

第五話

 まるで俺達を祝福するかのように、大きな鐘の音が鳴り響く。ギルドマスターから手渡された白を基調とした制服に身を包みながら、俺は学園の門の前でガウェインを待っていた。にしても、普段来ている服よりも圧倒的に良い素材なのが肌触りが非常に良い。そのせいでとても落ち着かない。


「やぁ、そんなにそわそわしていてどうしたんだい?」

「ガウェイン!」


 声に釣られて顔を上げれば、そこには何処かの国の王子とでも言わんばかりの男が居た。彼の気高さを更に際立たせる制服は、少なくとも俺なんかよりも圧倒的にお似合いだ。服に着られているのではなく、しっかりと自分のモノにしているのは流石貴族というべきか……。その時、やけに黄色い声が耳に届く。そちらに目を向ければ、茶髪の男子生徒が男女問わず数多くの生徒に言い寄られているのが確認出来る。


「アーサー、彼に話し掛けてきなよ」

「え、なんで急に?」

「いいから、ほら。彼も困っているみたいだ、顔が割れている俺が行けば騒ぎが余計に煩くなるかもしれないからね」


 そういうガウェインは、いかにも何かを企んでいると言わんばかりの表情だが、確かにあれではあの男子生徒は身動きが取れないし、門の前に人だかりが出来て通行の邪魔になってしまう。とは言え、あの中に向かうのは少しばかし気が引けるが……まぁいい、ハンターは度胸。


「あー、ごめんなさい。ちょっといいかな?」


 その瞬間、ギルドの酒場で向けられた時と同じように視線の嵐が襲い掛かる。なんだお前はと言わんばかりに敵意が突き刺さる女子生徒の視線、そして、誰だという疑問の視線が男子生徒達から襲い掛かる。


「此処であまり固まると通行の邪魔になってしまいますから、ね? あー、その、まぁそういう事です」

「らしいです、皆さん、お話は後程……向こうに知り合いが居るので、失礼しますね」


 そう言って、囲まれていた男子生徒は機を得たと言わんばかりに囲いから抜け出していく。落胆する女子生徒達から再度睨まれたが、そこは勘弁して欲しい。一方の男子生徒達はと言えば、彼も気になるが女子生徒も目当てだったのだろう。俺に気にせず、別の女子生徒へと話し掛けて会話を広げている様子だ。貴族って逞しいな。


「ん? あれ?」


 さて、ガウェインに言われるがままミッションをこなして戻って来たわけだが、どういう訳か先ほどの囲まれていた男子生徒が立っていた。どういう事だ?


「どうだい? 言った通りだろう?」

「確かに、彼はとても純粋だ。ガウェインが好みそうな人だね」

「えっと、ガウェイン?」


 どういう事だという気持ちを込めて視線を向ければ、小さく笑いながら口を開いた。


「ごめんごめん、彼が昨日言っていた、心当たりのある人物だよ。君の事を話したら興味を示した様でね」

「改めて自己紹介を。私はガルハッド・カルラディア、ガウェインとは幼い頃からの友人でね。美辞麗句では人を信用しないガウェインが、たった一日で一目惚れした相手がどんな人なのか気になったが、確かにガウェインが好きそうだ。裏表がない」

「だろう? 今までは言葉だけは綺麗な人間は幾らでも見たが、彼と居ると気を張らなくて良いんだ。それに、何というか、何処か人を惹き付ける雰囲気があると思わないか?」


 俺はそうは思わないけどな。農村出身の何処にでもいる平民だぞ。風呂に入ったおかげで多少は小奇麗になったけど、その程度だ。むしろ下地も全てガウェインとガルハッドに負けている。くそう、この美男共め。


「おっと、そろそろ中に入るとしよう。また人が集まって来た」


 言われて周囲を見れば、こちらを窺う多数の生徒の数。これは非常に居辛い。二人に並んで、向かった先は学院の大講堂。非常に広く、既に料理や酒の類がテーブルの上に所狭しと並べられている。それに、この中に居る者全てが容姿端麗だ、そういうのも幼い頃からの下積みのお陰なんだろう。なんか悔しくなってきた。特に、少し離れた所に居る蒼髪の生徒なんて如何にも女子生徒受けしそうな顔だ。実際、囲まれてはいないものの、交流会が始まったら真っ先に駆けつけようと殺気立っている女子生徒が数多い。


「っ!」


 その時、唯一彼の隣に立っていた赤い髪の女子生徒に思い切り睨まれた。怖い怖い、彼女のお陰で回りに誰も近寄れないのか。どうやら彼女と蒼髪の男子生徒は知り合い同士だ。近づかない方が良いな、自分から噛み付かれにいく理由は無い。


「おっと、始まったみたいだ」


 点々と置かれているテーブル席の内、余り目立たない様に壁際の後方で待っていた俺たちだが、他に誰も近寄る事は無かった。見てみれば、特定のグループが既に出来上がっているようで、この時点からパーティメンバーの固定化が確認出来る。まぁそうだろう、ガウェインとガルハッドの様に、知り合い同士で組んだ方がどう考えても気が楽だ。時折、こちらを睨んでくる男子生徒が居るのだが、たぶんガウェインに言い寄っていた貴族の息子とやらがそうなんだろう。ざまぁみろ、お前達にガウェインを使い潰させてたまるか。


「そう殺気立つものじゃないよアーサー、学院長の言葉に耳を傾けないと」


 小声でガウェインに促され、慌ててステージの方へと視線を移す。魔石を用いた魔道具なのだろう、声が大きく反響していた。


「学園長であるミュルグレス・ヴォーダンである、こう見えてもSS級ハンターとしてまだ現役で活動させてもらっている」


 SS級! 古龍などの災害クラスの魔物を討伐した者のみが到達出来る特殊なランクだ。その割に威圧感を感じないのはそれを上手く隠しているからなのだろう。だが、そのランクを聞いた瞬間の学園長の『深み』が理解出来る。覗けば覗く程に押し寄せる強者の風格、ガウェインやガルハッドも同じなのか、頬に小さく冷や汗を流していた。



「まずは御入学おめでとう。しかし、君たちが踏み出したのはまだ最初の一歩でしかない。この先、様々な知識を得て、経験を積み重ね、その中でかけがえのない仲間を得るだろう。そして時には、心を引き裂かれんばかりの悲劇と別れに遭遇する事もある。ハンターとは遊びではない、臣民や国から依頼された物を完遂し、その生活を守る為の礎である。自らの命を張る事も多いだろう、だからこそ、遊び気分の者は自分だけでなく仲間をも殺す事になる。覚悟を持たぬ者は即刻、この場から立ち去ると良い。それも与えられた権利だ…………よろしい、君たちの覚悟は見せて貰った。まずはハンターとしての第一歩、良き友を良き仲間を見つける為の交流会の宣誓をすると同時に、入学祝いの言葉を贈らせてもらう」


 最初は疎らに、そして瞬時に大きな拍手へと変わる。実際にSS級ハンターを目の当たりにしたが、あれはやばい。圧が違う、圧倒的という言葉がまさにそのまま当てはまるような人物だ。


「凄まじいね」

「あぁ。かなり抑えては居た様子でいらっしゃったが、それでも底知れない覇気を感じたよ」

「いやぁ、学園では馬鹿な事は出来ないな」


 当たり前だろう、と笑われたが、実際にこの確認は非常に大事だ。何せ貴族の集まりだ、今では数百年前と違ってお家同士のいがみ合いは激減したとはいえ、それでも腹に一物抱えた貴族はしぶとく残っている筈だ。つい最近も王国中に、賄賂を手渡して国に提供されるドラゴンの魔石を横流しにしようとした貴族が捕まったとお触れが回ったくらいだ。警戒するに越したことはないが、流石に学園内では大丈夫そうだ。


 さて、そして始まった交流会。テーブルに酒は置かれているが、料理は別の場所から取り分ける必要があるそうだ。ガウェインとガルハッドが動けばまた先ほど見たいに騒がしくなりそうなので俺が向かう事にする。その際、頭に翡翠の恋羽根を挿すのも忘れない。前回は刺しちゃったからな。


 というのも、ブラッシュさんからアドバイスを貰ったからだ。質の良い翡翠の恋羽根を無加工で持っているという事は自力で手に入れた証拠、そしてソニックイーグルの手強さは国民誰しもが理解している。だからこそ、時期外れにそれを持っていれば自分の実力がどれ程の物かを周囲に知らしめる事も出来るし、身の程知らずの馬鹿をあしらうには良い材料だ、と言っていた。


 どうやらこの恋羽根、貴重ではあるが、ドラゴンの鱗の様な武具の素材になる訳でもないのでブラッシュさんからの興味は薄く、どうせなら自分で持って大事にしておけ、と先ほどのアドバイスと同時に言われたのでその通りにする。正直、タイ留めに使えればいいのだが、未加工なので他にどうしようもない。うん、相当に間抜けだろうけど仕方ない。胸ポケットに入れて、誰かとぶつかったり押し込められた時に羽根が潰れるのは頂けない。


 目的地である料理が並ぶテーブルの前まで来たのだが、会話するだけで誰も手に取ろうとしないのは何故なんだろうか。取り敢えず、トレイに乗せた皿に料理を適当に切り分けていく。ローストビーフに、サラダに、パスタ料理。パリパリに表面が焼けた鳥の肉、トマトとチーズが挟まれた奴に、後は適当に白パンを乗せていく。のだが、何でこんなに見られるんだろうか。そこまで注目を浴びる理由は無いと思うんだが。


「失礼、少々宜しいだろうか?」

「えっ、はい?」


 振り向いた先には美人が居た。黒いストレートの髪をポニーテールにしており、瞳も黒と恐らくは東出身の女子生徒。だが纏う雰囲気は凛々しく力強い、それに油断すれば即座に捻じ伏せられそうな、強者の気配も感じる。


「実は、こういった場の経験が無くてな……料理の取り分けなどやった事が無くて様子を窺っていたのだが誰も前に出なかったのだ。なので、やり方を教えて欲しいのだが、良いだろうか?」

「えぇ、まぁ。というかそんな気にしなくても、別に手順とかは何もないですよ。好きな物を必要な分だけ皿に取り分けていくのがこのビュッフェ方式ですし。庶民だとコースで出すよりもこういった形式の方が主流ですよ」

「何? そうだったのか……済まない、何分平民の暮らしには学が無くてな……あぁいや! 君を馬鹿にしているつもりはないんだ、ただ単に自分の知識不足が恥ずかしい」


 良かった、この人はどうやら悪い人では無さそうだ。話し方も貴族らしく、それでいて武人らしい雰囲気を纏っていた。口調は固いが声色は穏やかだった。


「えっと、そちらの方もよければ自分がやりましょうか?」

「えっ?」


 そして、先ほどからこちらのやり取りを窺っている女子生徒がもう一人。背中の真ん中まで届く銀髪はこの人混みの中でも目立つし、雰囲気が深窓の令嬢という雰囲気がして触れば砕けそうな程に儚い。これからの動きを察するに、どうやら誰かのやり方を真似ようと皆が動きを止めていたとしよう。俺が居なくなれば全員が一斉に動くとして、彼女は人の波に揉まれてそれだけで死んでしまいそうな雰囲気がする。主観だけど。


「宜しいのですか?」

「別に手間でもないですからね。どれが良いですか? お二方」

「私は肉が好きなのでな! 量は気にしなくても良いぞ」

「私はそちらの皿にあるトマト料理が……」


 成程。取り敢えず黒髪の人には先ほどチョイスした料理に加えて、ミートボールがこれでもかと転がっているトマトソースの煮込みを深皿に取り分けた。銀髪の人は料理は少なく、小さく色々と取り分けた方がいいだろう。コンソメスープやサラダ、クアイエットダックと呼ばれる、家畜としても育てられている魔物の肉を使った香草料理を取り分ければ、まぁコース料理風にはなったかな。


「どうせだったら席を一緒にしても宜しいだろうか? 実は、テーブルに座ったが誰も近寄っては来なくてな……一人で食事をするのもそれはそれで寂しい」

「そちらは? 既にお知り合いが居るのでしたらそちらまでトレイを運びますよ?」

「い、いえ……私も同じですので……」


 おかしいな、普通ならどちらも放っては置かれない見た目をしているのに。まぁでも、近寄りがたい雰囲気というのはなんとなく理解出来る。黒髪の方は男勝りな雰囲気もあるし、下手に話し掛けると口説いていると思われて追い返されるだろう。逆に、銀髪の方は怯えられそうだ。この人混みが既に嫌なのか、表情を顰めている。


 結局、大きなトレイ三つで料理を運ぶ事になり、一つは黒髪の人に手伝って貰い、俺たちは元のテーブルへと戻る。背後で人が一斉に動いた気配もあるし、どうやら離れるタイミングとしてはバッチリだった。


「遅かったね? …………以外だな、アーサーは節操無しだったのか」

「違うって! 相席の人が居ないみたいだから、どうせだからって誘ったんだ」


 黒髪の人と目があったが、此処は任せて欲しいという意思を込めて短く見返してから、再び口を開く。男子生徒が近寄ってこない、それはある意味で女性貴族からすれば面目丸つぶれも良い所だと思ったからだ。父さんや母さんから聞いた話では、ダンスパーティや社交界では孤立した女性は恥とされると聞いた事があった。別に彼女達は顔が悪いとかでもない、単純に近寄りがたい雰囲気を持ってしまっているだけだ。知り合ってしまった以上、こっそりとその点の陰口を囁かれたりするのを聞いても気分は良くはない。


「成程、ね。どうぞ、お嬢様方。我々で良ければご一緒に」

「……済まない。御一緒させて頂く」


 それに、取り繕っては見たがガウェインにもガルハッドにもバレているみたいだ。小さく笑われてしまった。取り敢えず、取り分けた料理を二人の前に並べ、全員が席に座る。ついでなのでワイングラスにも赤ワインを注いでおいた。


「君は給仕の経験でもあるのかい?」

「そんな高尚な仕事なんてやった事ないって、最後に立ってるんだから、俺がやった方が手間がないだろ? 一々座っている人にボトルを手渡していくのも、行儀が悪いかなって思ったんだけど余計だったかな」

「いや、その気遣いはとても素晴らしい物だと思う。本来は一番立場が低い物が言わずともやるべき行為ともされている」


 ワインを注いで回っていた時、黒髪の人からそんな声が上がった。その瞬間、ガウェインとガルハッドの雰囲気が硬くなった様に感じた。銀髪の女性も、僅かにだが不愉快そうにしている。


「……レディ、それは私の友人が格下だというつもりですか?」

「あぁいや、違うんだ! ……済まない、どうにも私の言い方は人を誤解させてしまう。そういった役割を嫌な顔をせずに出来るのは、単純に素晴らしい気遣いだと思ったんだ。済まない、気分を害してしまっただろうか?」

「いや、俺は貴族社会のしがらみとかそういう暗黙の了解とか知らないんで、別に気にしなくていいですよ。というか、実際平民ですし」

「いいえ、納得出来ない事というのはございます。貴方様の気遣いは認められこそすれど、侮蔑される意味合いは無いというもの。知らずとも、人が嫌がる役割を淡々とこなす、これから我々は貴族社会から飛び出し一般市民として暮らすのです、そういったしがらみを持っている事こそが間違いなのでしょう。故にこの形式での交流会なのでしょう」


 銀髪の人が、先ほどとは打って変わり毅然とした態度で口にした。ガウェインも、ガルハッドも、黒髪の人も賛同する様に頷いていた。


「ご紹介が遅れましたわ。私、イゾルデ・トリストラムと申します。そちらにいらっしゃるのは名高きグワルフ家の長男のガウェイン卿に、カルラディア家の次男のガルハッド卿で違いありませんか?」

「あぁ、その通りだ。でも少なくともこれからは家の事は抜きにしていただきたい、イゾルデ嬢」

「私としても、ガウェインと同じく」


 あぁ、二人の雰囲気がまた硬くなった。ダメだな、こういうのは余り好きじゃない。貴族としてのしがらみを捨てたいって言ってるのに、今この場のやり取りはまさに『家』同士の駆け引きだ。


「……おぉ、ガウェイン、このローストビーフ美味いぞ。ワインもあまり飲んだ事無いけど、美味いんだな」

「……あぁ、そうか。そうだな、こういうのは止めにしよう! それで? そちらの黒髪の方は?」

「あぁ、私はベディヴィア・パラミティーズだ。私も特に畏まった対応は必要ない、気軽に話しかけられた方が気が楽でいいな!」


 そう言って、彼女も仮面を脱ぎ捨てたのか、目の前の料理に向き合った。


「おぉ、確かにこのローストビーフは美味いな! オニオンが細かく刻まれた、東国風味のソースは私も好きだ! 料理の取り分けを頼んで良かった! ……あー、えっと、そういえば名前を聞くのを忘れていた」

「ん? あぁ、俺はアーサー。まぁそういうのは良いから取りあえず飯を食おうよ。あ、ガルハッド、そのトマトの奴、めっちゃ美味いぞ」

「フッ、どうやら、ガウェインの見る目は間違っていなかったようだ。君は私から見ても非常に好ましい性格だ…………確かに、このトマトとチーズの組み合わせはシンプルだが美味い」


 よし、誘導には成功したようだ。テーブルの雰囲気も硬さが抜けて柔らかい空気になった。ところで、先ほどからイゾルデさんに途轍もなく凝視されているのだが、理由がわからない。惚れられた? ……いや、それは有り得ない。俺が欠伸でドラゴンを吹き飛ばすくらい有り得ない話だった。自分で言って恥ずかしくなる。だが、気になるので交流がてらに質問する事にしよう。


「あの、何か? もしかしてテーブルマナーがなってなくて不愉快にさせたとかですかね?」

「……っ、あぁ、いえ! 違うのです、その、頭に挿している羽根は……翡翠の恋羽根でしょうか?」


 あぁ、そういう事か。確かにお嬢様でもあったイゾルデさんからすれば、それなりに興味を引く品には間違いないだろう。絶対にあげないけど。


「これですか? いやぁ、実は王都には馬車を使わずに走って来たんですけれど、その途中でソニックイーグルと出くわしまして」

「走って? 馬車も使わずかい?」

「あぁ、そういやガウェインにも言ってなかったか。まぁ、今言った通り村から王都まで突っ走って来た」

「村の名前は?」

「ブリトン村」

「何日掛けて王都に?」

「早朝から一日中突っ走って、夕方には着いたな」


 ガウェインには思い切り呆れられた。なんだよ、良いじゃないか別に。こっちは思う存分走れてむしろ良い旅路だったんだけどな。


「まぁ、ソニックイーグルに競争を仕掛けられる時点で馬車を使うよりも移動効率が良いのは確か、か。まったく、後でステータスを見せて貰うからな?」

「あぁ、別に良いよ。パーティだしな」

「……見つけましたわ」

「えっ」


 静かに、しかしハッキリと耳に届いた。食事に集中していたベディヴィアも顔を上げる程だ。余りにも唐突な変貌に茫然としたが、イゾルデさんがこちらにグルリと首を向けた瞬間、思わずフォークとナイフを落としそうになった。


「つい二日前ほどでしょうか。学院街へと近づいたある日、馬車の護衛の者が背後から何かが近づいて来ると警告を出したのです。窓から覗いた際、馬車を揺らすほど熾烈に、まるで風と一体になってソニックイーグルと並んで掛けるあの姿……学院で落ち着いた頃に情報収集の依頼を出そうと思っていましたが、まさか此処で出会えるとは!」


 そして、身を乗り出してくるイゾルデさん。やだ、怖い。とても怖い。


「私、あの姿に一目惚れしましたわ。屋敷に居た頃は自由を許されず、近くを馬で回るか、既に追いやられた獲物を追い掛ける狩りごっこばかり。空を自在に飛び回るソニックイーグルに強く憧れていましたの。そしてまさか、それと並び立って駆け抜ける殿方が居るなんて! 私感激ですわ! それほど自由な方と共に居られるのであれば、私はもっと広い世界を見る事が出来る。そうは思いませんか?! えぇ思うでしょう! ですのでアーサー様、私とパーティを組みましょう。是非ともそうしましょう」

「……イゾルデ、と言ったか。流石にそれは度が過ぎる行為だぞ。パーティを組もうと提案するのは良い、だがそれを了承するかどうかはアーサー次第ではないのか? 自分の願望を叶える為に他者に自分の行動理念を押し付けるなどおこがましいぞ」

「何か? 今は私がアーサー様にパーティを組んでいただけるかどうかを聞いているのです、部外者はお静かにお願い致しますわ」

「部外者か、そう来るか。ならば私も捨ておけん、それに少しばかしそちらから目を離せない理由が出来た。同じ女として、それは止めさせて貰おう」


 ……俺の意思とかそういうのを放って、勝手にヒートアップする二人。怖いのでガウェインとガルハッドの隣に避難しながら小さくなるしかない。


「随分と人気だね、アーサー」

「冗談は止してくれ、ベディヴィアは善意で止めてくれてるけど、イゾルデさんのは冗談抜きで本気だよ。流石に怖いぞ」


 軽く酒が入ったのも原因なのか、止まる様子は一切ない。あぁ、どうしてこうなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ