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速さが俺の生き甲斐~光を目指して~  作者: どらべん
第一章
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第二話

「でっけぇ……」


 門を潜れば、思わずそんな声が漏れ出した。それを聞かれたのか、通りすがりの人の何人かが俺を見て笑っているのを見てしまい、思わず顔が赤くなった。まず目指すのは宿屋だ。夕暮れ時ながらも人で路地は溢れかえっており、そこら中に宿屋が並んでいる程だ。


「安いよ安いよ! 夕食朝食付きで青銅貨3枚! ご利用の際は是非ウチの宿屋で!」


 思わず、耳にした言葉に釣られてそこへと向かう。若い女性の声というのはやはり釣られるのか、俺以外にも数人ほど男の人が同じ方向へと向かっているのが分かる。そして、そのどれもが強そうな雰囲気をしていた。立派な鎧だったり、肩当だったり、武器だったり。恐らくはハンターなのだろう、それを見ていると、俺も負けていられないという気分にもなる。


「どうした坊主、何か用か?」

「えっ、いや、あの」


 すると、この人混みだというのに、グルリと俺へと振り向いたおよそ三十代くらいの男性と目があった。


「すいません、立派な装備だなぁって」

「おっ、わかるか? 実はな、つい最近新調した大剣でよ、ダマスカス鋼を使った逸品でロックゴーレムくらいなら両断するくらいの切れ味なんだぜ?」

「ロックゴーレムを両断?! すげー!!」


 ロックゴーレムは主に鉱山地帯に出現する魔物で、出現位置が鉱山というのもあり、地質に含まれる鉱石によっては途轍もなく硬い個体が出来上がる事も多く、打撃武器を持たない剣士からすれば相手にしたくない魔物の一つだ。硬ければ硬い程良質な鉱石を含むのだが、武器の耐久値も下がる為に非常に厄介なのだ。それを両断するという時点で、男の実力と大剣の切れ味が理解出来る。


「坊主、見た所王都の人間って身形じゃねぇな。農村出か?」

「はい! ハンターに憧れて王都に来ました!」

「そうか。宿はそこで取るつもりなんだろう? だったら、ギルドまでの案内は必要かい?」

「いいんですか?」

「なれるかどうかは別として、未来の新人ってのは大事にするべきだ。俺たちもそうして教わったのさ、ま、一杯ばかしエールを提供してくれると嬉しいがな?」


 抜け目ないが、これは非常にありがたい。ギルドは朝昼晩常に開いているが、夜更けに出歩けば人が多い王都だ、物盗りなんかにせっかくの銀貨を取られるなんて堪ったもんじゃない。それがエールで、実質護衛を雇えるというのならむしろ安い方だと言える。


「是非お願いします!」

「そうかい。じゃあ何にしても宿に向かわねぇとな、ギルドは酒場も兼ねてるからよ。久々の酒が楽しみだ」


 そして俺は、ハンターのおじさんであるブラッシュさんと共に、夕食抜きで青銅貨二枚となる宿の部屋を借りて、そのままギルドへと向かう。あ、もちろん部屋は別々だ。


「お前さん、ハンターになるって事は何かしら腕に自信があるんだろ?」


 ふと、歩いている最中にブラッシュさんから尋ねられた。


「そうですね。腕というよりは、速さには自信があります!」

「速さ?」

「はい!」

「あ~……まぁ、頑張れ」

「???」


 どうして言葉を濁されたのかよくわからない。速い事は良い事だと思うんだ。双剣なんかを持って縦横無尽に切り裂き駆け回るのを想像するだけでも俺としてはとてもテンションが上がるのだが。


「さて、此処だ。基本的に王都は四つの方角の門があるが、真っ直ぐ向かえば必ず中央広場の此処に着く。んで、あの建物がギルドだ」

「でっか」


 促された先は、貴族の屋敷か何かと言わんばかりの二階建ての建物だ。見た目はそれなりに一般的で酒場の様な雰囲気はあるものの、外まで聞こえる喧騒がなければ思わず入るのを躊躇う程だ。キィ、と心地良い軋みを挙げるスイングドアを開いた瞬間、一斉に視線を向けられた。思わず固まってしまうが、ブラッシュさんに肩を叩かれると同時に、その視線の嵐は即座に無くなった。


「怖がらせたかい?」

「少し驚きました」

「まぁ、気にするな。中には飛び入りの緊急依頼なんかもあってな、そういうのは早い者勝ちになる。だから酒場の入り口に入ると誰だろうとこうなるのさ」


 成程、そういう事だったのか。中を見渡すが、やはり広い。テーブルが数多く並んでおり、その席には料理の乗った皿やらエールが入ったジョッキが多く並んで各自が飲み食いを行っていた。カウンターは三つあり、まず入って真っ直ぐの所に窓口が三つのカウンター。そこから離れた位置、厨房に繋がるカウンターは恐らく料理を注文する場所なのだろう。


 そして最後のカウンターは窓口が一つで、綺麗なお姉さんが立っており視線を向けた瞬間目があった。ニコリと微笑まれ、思わず見入ってしまう。


「お前さんが向かうのが今見てる依頼受付のカウンターだ。俺ぁ向こうのカウンターにいるから、まぁ終わったらこっちに来な。エール一杯分は出してもらうが、飯代くらいなら祝いの門出に出してやらぁ」

「ありがとうございます! ブラッシュさん!」


 掌を軽く振るって、ブラッシュさんはそのまま離れて行った。少しだけ呼吸を整えて、向かった先は受付カウンターだ。


「いらっしゃいませ、ギルドへの依頼でしょうか?」

「いえ、ハンター登録をしたいと」

「他のギルド支部からの推薦状はお持ちですか?」

「い、いいえ。持っていないとなれないんですか?」

「いえ、単純に活動場所を変える際に必要となるだけですので大丈夫ですよ。それではハンター登録との事ですが……まず一つ、ハンターになる際は血を一滴頂き、そちらの水晶へと押し付けて頂きます」


 手で案内されたのは、怪しい雰囲気を放つ水晶だった。所謂、アルテミス様から加護を受ける際に使う儀式の道具という事だろう。


「はい」

「そして、これが大事な事ですが、必ずしもハンターになれるとは限りません。もしなれなかったとしてもこちらでは一切の責任を負う事は出来ませんのでそちらもご了承ください」

「覚悟は、出来ています」


 そう、泣いても笑ってもこれでダメならどうしようもないのだ。曰く、アルテミス様は非常に気まぐれで、それでいて激情家な神様だそうだ。なら、少しでもアピールした方が良いかもしれない。幸いにも、先ほどのソニックイーグルの羽根がある。それを取り出して頭に突き刺した。先端が軽く刺さったせいで微妙に痛いがまぁいい。受付のお姉さんが驚いた顔をしているが、意を決する。


 カウンターに置かれていた、土台付きの針に指先を軽く押し付ける。痺れる様な鋭い痛みが走り、少しだけ指先を挟んで力を入れれば血が少しだけ浮きあがる。お願いします、アルテミス様。


『あら、面白い子が現れたわ』

「っ?! えっ!?」


 突如、聞きなれない声が耳元で囁かれた。だが、周囲を見ても誰も居ない。目の前のお姉さんを見てみるが、何故かこちらを見ようともせず、静かに目を閉じていた。先ほどまで騒がしかった酒場も、何故か今ではとても静かになっている。


『ねぇ貴方、風は好き?』

「は、はい。俺は速くなるのが目標なんです。誰よりも速く」

『そう。それで、そういう事なのね。随分と愛されたのね、貴方は。ならその思い、決して忘れてはダメよ?』


 ふと、水晶が強く輝いた。その光は雫の様に一つとなり、受付のお姉さんが手元に置いていた羊皮紙に染み渡る様に広がっていく。


「おめでとうございます、アルテミス様は貴方に加護を授けてくださいました。今日からハンターの一人です、ようこそハンターギルドへ!」

「新たなハンターに、乾杯!!!」


 受付のお姉さんの笑顔と同時に、誰かが言い放ったその一言と同時にジョッキがぶつけられる音が鳴り響き、再び喧騒に包まれる。


「い、今のは?」

「ハンターになれる人間というのは限られています、女神アルテミス様が加護を授けるのですから当然です。だからこそ、認められた方へは祝福を、同じ信徒として、新たな仲間を歓迎する為に行われるしきたりの様な物です」

「成程、そうだったんですね」


 茫然としていたが、それを聞くと胸の内が熱くなる。ハンターになれたのだという実感が強く湧いて出て来る。やったぞ父さん、俺はハンターになれたんだ!


「ステータスの記載もどうやら終わったみたいですね。こちらが貴方のステータス……に……」

「ん?」


 受付のお姉さんの声が尻すぼみになる。一体どうしたというのだ。


「少々お待ちください」

「えっ」


 すると、受付のお姉さんは突如として裏口へと去って行った。えっ、俺置いて行かれた? 一体何があったというのか。すると、ブラッシュさんがカウンターからこちらに近づいて来る。


「良かったな、坊主。新たな仲間の一人として、心の底から祝福させて貰うよ」

「あ、ありがとうございます」

「まぁ最初は下積みからだろうが、これも何かの縁だ。困ったら相談しろよ? …………ん? ちょっと待て、坊主、頭に刺してる羽根、ソニックイーグルの羽根か?」

「あぁ、はい。実は王都に向かう最中に遭遇しまして。競争したら勝ったご褒美にこれをくれたんですよ」


 すると、ブラッシュさんは茫然とした顔でこちらを見ている。ふと、周囲を見れば近くの席の人達も俺の手に持つ羽根をまじまじと見ていた。確かに碧玉の様な透き通る緑はとても美しい。光の加減で七色に輝くとされるソニックイーグルの羽根は愛好家にも人気で、羽根ペンなんかに使われているとも聞いた。


「どうかしたんですか?」

「ちょっとばかし見せてくれるか? 取りはしない、もし傷つけたらギルドで取引されている値で弁償する。どうだ?」

「見るだけなら別に大丈夫ですよ」


 そして、羽根をブラッシュさんに手渡す。周囲のハンター達もジョッキを片手に近寄って眺めていた。時折、天井の照明の光に当てたりなど、その雰囲気や顔つきは熟練そのものだ。


「坊主、もし金に困ったらコイツを売るといい。それまで大事に取っておきな、よっぽど困った時じゃない限りは手放さない方がいいぞ」

「どういう事ですか?」


 それだけ貴重な品なのだろうか。確かにソニックイーグルを狩猟するシーズンは限られてはいるが、だからといって物珍しいかと言われればそうではない筈だが。


「こいつはな、ソニックイーグルから採れる羽根の中でもかなり貴重な奴でな。翡翠の恋羽根って呼ばれる品だ。繁殖期になると相手を誘う為に出来る羽根だが、此処まで質の良いモノはそうそうお目に掛かれないぞ。しかも、人間相手に渡したって事は飼育可能な個体って事だ。本来ソニックイーグルは繁殖期以外では手を出す事は禁じられている、となると繁殖期に暴れ回る個体を相手にしなきゃいけない上に、翡翠の恋羽根が人間に奪われると恐ろしい程に怒り狂うんだ。何せ愛情の証だからな、手に入れたとしても傷物だったりで部位を切り落とす必要がある。貴重さが理解出来たか?」

「……因みに市場価格はおいくらほどで」

「通常のモノを取引するならギルドの買値で金貨十枚、これだけの質だ、ギルドだけじゃなく貴族や商会自体が取引を求める場合もある。とてもじゃないが値を決められん、ギルド側の立場にするなら儲けを考慮して金貨四十枚って所か?」

「よんじゅっ?!」


 いや、五十は超えるんじゃないか、とか、三十五枚じゃないか? などと相場を言い合うハンター達ではあるが、想像以上の品物にドン引きだ。そこまで来ると逆に恐ろしくて貴重だとかそういうのを手抜きにさっさと手放したくなる。


「因みに、貴重品はギルドに預入が出来るからそれをオススメする。個人で持つのは非常にマズイ」


 その言葉には周囲の人たちも同意なのか頷いている。そうだろうな、こんな品、もし持っている事が良からぬ人間に知れたらそりゃあ奪いに来るだろう。


「ギルドに預け入れれば担保として金貨一枚が手渡される。紛失及び欠損した場合は勿論本来の価格で賠償されるし、預入担保の金貨も貴重品に限り信頼の証として、実際はプレゼントみたいなもんだ。その貴重な品を手に入れる事が可能な人間が居るっていう宣伝にもなるからな。まぁ、この品に関しては別だが、少なくとも国から依頼が回るかもしれんな。…………にしてもミレージュの奴遅いな、新人放り出して何やってんだ?」


 とんでもない話をしている一同はさておき、ジョッキのエールを飲み干したブラッシュさんががら空きのカウンターを見ながら呟いて近くの席へと腰を落ち着けた。確かに、戻って来るのが遅いが一体どうしたんだろうか。

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