僕は、四つの嘘をついている。
防波堤に二人腰掛けながら、波打つ海の水面に視線を送る。
向こうの、遠くの遠くの水平線を眺めていると彼が不意に問い掛けてきた。
「僕は、四つの嘘をついている。さあ、何でしょう?」
へらへらとにやけながら、彼は私に言ってきた。嘘をついていると告白しながらも、何の嘘をついているかをクイズ形式にしてくるあたりが、何とも彼らしかった。
「へえ、四つも私に嘘をついてるんだ。……泥棒の始まりね」
「……そう、僕はとんでもないものを盗んで行きました。貴女のこ━━」
「━━いわせねーよ?」
彼の台詞を私は自分の言葉で遮る。それに彼は満足そうに、歯を見せて笑ってからもう一度口を開く。
「今日はノリが良いね」
「そうかな? でも言われてみれば、最近君との下らないやり取りにも慣れてきたよ」
「うわぁ、何だか嬉しいな。僕も君からのツッコミに快感を得ることが増えた気がするよ。出来れば、今度から罵る感じに責めてくれないかな?」
「この豚野郎が」
「……」
「……」
「ごめん、やっぱりなんか違う」
「何だったのよ、いったい」
「ところで話戻すけど、僕はどんな嘘をついてると思う?」
私は二度目のその質問に首を捻る。少しだけ考えてみるが、答えは出てこなかった。
「いや、心当たり無いけど……。ヒントは?」
「うーん、そうだな。……なら、僕らの出会いから今までの出来事と僕の性格を考えてみるといいよ」
彼は悩んだ風に目を閉じ、腕を組んでからそう答えた。
「君の性格? 君が変人だってことなら、それは紛れもない事実だと思うけど……」
「心外だな、きみのパンツを拝見しようと日々努力を続ける、こんな健全な僕の何が変だって言うんだ」
「確信犯じゃないの」
「……僕への好感度が無くなる前に話のよりを戻そうか」
「私が君に抱いている好感度が既にゼロになったことにも気付かずにね」
しかし、彼から貰ったヒントのおかげで答えには大分近付くことが出来た。
まず、一つ目の嘘。
「君が初めて私に声をかけてきた理由が、「一目惚れしたから」だったよね」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、多分それかな……嘘」
私の答えに彼は微笑んで小さく頷いた。
そして、二つ目の嘘。
「君は私のことが好きだからと言って、その時付き合っていた彼女さんと別れた。……それが二つ目」
またも、彼は表情を変えずに首肯する。
次に、三つ目の嘘。
「……さっき、君は私に告白をしたよね。その言葉も、嘘だろうね。ほら、もう三つだ」
私がそう口にすると、ようやく彼の顔から笑顔が消えて、彼は黙ったままゆっくりと私を抱き寄せた。
最後に、四つ目の嘘。
その嘘は本当に、下らなくて、遠回しで、彼らしくて、優しいものだった。
「……私が今言ったこと、全部が嘘。ほら、これで四つの嘘が揃いました」
「……うん」
「簡単すぎ、アホらしい、馬鹿げてる」
「知ってるでしょ。僕って回りくどいの大好きなんだよ」
「……知ってるよ」
私は呟いて、彼の背中に手を回した。
「……私も、嘘でもつこうかな」
彼の耳元で、ぼそりと言うと、彼は「どうぞ」と言って私の言葉を待つ。
あまりの可笑しさに、つい口から吐息が溢れてしまう。
改めて考えてみると、本当に、嘘って便利なものだな。
━━私は、君のことが大嫌いだ。
どうやら私は、嘘をつくのが得意みたい。
友人から、「このタイトルで書いてくれ」と言われ、暇潰し程度に書いてみました。
本当、頭悪そうな日本語たくさん使って申し訳ありませんでした。