大惨事接近遭遇
1999年盛大に予言を外してノストラダムスは死んだ。
そして2015年、UFOは死んだ。
「ちっげーし、ノストラダムスが死んだのは1566年だから馬鹿。だいたいUFOが死んだってどういうことだよ」
男がぽつりと突っ込んだ。
「馬鹿っていうな!雰囲気の話をしてるんだよ!そんなこともわかんねーのか馬鹿!」
乱暴な口調で少女は怒鳴り返した。この少女、むやみに頑固で強気であった。
タクシーは真夜中の山道を走る。夜の雨に紛れて密やかに疾走する。
照明灯の光が入る度に彼等の顔が照らされて、ベリーショートの少女、海藻のような長い髪を揺らす男、額に汗を滲ませて神妙な顔つきでタクシーを走らせる中年の顔が交互に闇のなかへと浮かび上がっていく。
「へーー、そーですね、このクソガキ」
「クソクソうるせーよ、女子がいるんだぞクソヤロウ」
「あ、お前なんか女子じゃねーよ。男女だ、男女。あしゅら男爵だ、ハーフマンだよ」
「あたしが常日頃から気にしてることを言いやがったな!ついでに小学校の頃のあだ名まで掘り出しやがって!このクソホームレスが!!」
何かのトラウマに触れたらしい。この少女、難儀である。ホームレスはうまくあしらうモードに突入しているのか、どこか勝ち誇った様子である。
こうなると何を言っても負け惜しみ感が出てきて、勝ち目がなくなる。理屈をこねまわして正当性を証明したとしても『うん。まあ。君の言ってることは正しいよ。俺もわかってる』みたいに流されてしまう。
年長者らしい、勝利のためなら手段を選ばない非情な男であった。
「常日頃から気にしてんなら、常日頃から直すよう心掛けろばーか。ていうかお前いじめられてたのかよ!!」
「っちっげーっし! 誇ってたしあしゅら男爵、誇らしすぎてマジ胸が高鳴りまくってたし!………ハーフマンってなんだよ!!!!!!!!」
「んじゃハーフガール」
「何と何の愛の子なんだよ!!」
「うまいこというな」
「あのう、ちょっとシート壊れちゃいますんで…」
タクシーの運転手が申し訳なさそうに言った。後部座席のシートで取っ組み合いになっていた二人は中央の席を空けて端端の席に座りなおす。
「すいません」
「あたしは謝らないからな、お前が悪い」
「ったくどういう理論だよ……」
「この辺でいいですかね」
口数の少なくなった面々の駆るタクシーはアスファルトの道を外れ、林の中へと進んでいく。固い人工物から雨から濡れてぬかるんだ土へ。
獣道を進む車輪は先ほどまでの安定走行を忘れたように地面の凹凸に合わせて飛び跳ねる。
やがてタクシーは踊っているのをやめて道の小脇に停車した。フロントライトをつけたまま彼らは車から降りるとトランクからあるものを取り出した。
冷たい雨が騒がしく木々を揺らす。厚い雲のせいか、星は一つも見えない。
はたから見れば、とてつもなく奇妙な取り合わせだろう。
どうみても女子高生にしか見えない、制服の女。
どうみてもホームレスにしか見えない、髭面の男。
どうみてもタクシー運転手にしか見えない、中年の男。
何のつながりがあって、何のメンバーなのか。 なんの目的で、なぜ森の奥へ。
ひたすらに土を掘り返す音が響く。濡れた土砂にスコップが突き刺さるたびに、ライトに照らされた彼らの表情が見える。
いや、表情が見える、というのはうそだ。彼らに表情はない。
みな固く口を結んで、一心不乱に土を掘り返す。
―――――死人のような無表情で。
雨なのか、汗なのか。涙なのか。
とにかく、男と女と男が誰もいないはずの真夜中の森で土を掘り返しながら頭から足先までぐっしょりと濡れている。
いよいよ大降りになってきた雨のせいだったのだろう。彼らがその場に近づいてくるもう一人の存在に気が付いたのはそれが鋭い怒声を上げたその瞬間であった。
「あ、あなたたち!何をしてるの!? 動かないで!下手な動きを見せたら撃つわ!……って…うおおおおおおああああああああああああああ!!!ひ…ひーっひひひひひ ひいいいいい!…ひいいいいいい!!」
なぜこんな所に人がいるのか、なぜ銃を持っているのか。
四人はほぼ無表情であった。第三者に見つかったという衝撃が脳を経由して次にどうした感情を表せばよいか、真っ白になった思考が脳内に膨れ上がって表情筋がオーバーフローを起こしているに違いない。ただ一人の無表情が意味しているのは意味合いが違った。精神の喪失ではなく、生命の喪失なのであった。
女子高生。ホームレス。タクシードライバー。そして、あなのなかの死体。
「ああああああああああああ……」
ぴっちりとスーツを着込んで偉そうに決めている女が、情けない悲鳴をあげているのも無理もない。
彼女はかのメンインブラックのような格好をしている。おそらくそういう機関の人間なのだろう。
だがそんな人間でもこれほどそれらしいシチュエーションでわかりやすく、死体を埋めている男たちに出くわすとは思いもよらなかっただろう。
だがそれ以上に彼女にとってその死体こそが最大の恐怖対象なのであった。
喪服のようなまっ黒な服を来た女は三人と穴の中の死体に交互にペンライトを当てて口をぱくぱくとさせ。目玉をはっきり見開いて、飛び出んばかりの形相で叫ぶ。
それはあなから体を半分ほど覗かせている真緑の肌をした人間。
「…エ エイリアンを埋めてるぅううううううううう!!!!!!」
~五時間前~
「ちょっと清二くん!!!私と加奈子どっちが本当に好きなの?愛はどこなの?どこから来てどっちへ行くの!?南武線なの!?それとも小田急!?」
夕闇が落ちかけている公園で一組のカップルがもめていた。どうにも痴情のもつれらしい。
「ねぇ答えて!京浜東北線でいいの!?どっちでもいいなら私、東海道でいっちゃうよ!?町田ちゃん!?ちょっと!町田とは別れたって…は!?JR!?女子留学生!?どういうことなの!?」
なにやら怪しげな呪文で激昂する女子高校生をなんとかいさめようとする男子高校生。
だが愛がヒステリックな怒りに昇華された状態では女は止まることができない。まず男は言い訳せずに黙って受け止めてやらねばならないのである、理不尽だ。
だが男子高校生は若い。猛牛を捌くマタドール的立ち回りでひらりと身をかわそうとして、逆にそのマント捌きが女子高校生をたきつけてしまっていた。
「ま、まってまって 志乃ちゃんおちついて…」
とそのときよけきれずによろめいた男子高校生の肩がホームレスの男に触れ、男が手にしていた一万円札が二枚排水溝へとすべりおちていった。
「ふざけんなよ!おれが何日働いたと思ってる!!!かえせ!!!俺の昼飯を返せ!!!贅沢中華フルコースを返せ!!」
ホームレスのくせに二万円の飯とはあまりに分不相応ではないか。おそらく男子高校生が一般社会的感性を持つものなら抱いたであろう疑問を男に提起しようとした瞬間である。
二人に掴み掛られた男子高校生は手すりにもたれかかった。これがすべての悲しみの始まり。
老朽化していた手すりはちょうど男子高校生の体重がかかったところで割れ、割れた板がピンボールのように彼だけをうまく崖の向こうへと送り出してしまったのである。
ぼす ぼすっと物体が致命的な速度で壁面に二度ほどぶつかった音がした後に、さらに大きなドン という音がしてそれからあたりは静かになった。
男と女子高校生はまっさおになって壊れた手すりを見つめていた。
「あああああ、あんた…!?あんたがやったんだからね…!?」
「え!?…いやいやお前が押したんだろ!?」
なんとも醜い争いである。愛とはいずこ、現代社会の闇である。
お互いにわけもわからず罪を擦り付けあっていると、崖の下で耳をつんざくようなタイヤスリップと車が何かと接触する衝撃が聞こえた。そして、中年男性の野太い悲鳴。
大惨事だ。
そして叫び声。
「う、うちゅうじんだああああああああああああ」
緑色の肌。灰色の瞳はダチョウの卵ほどのサイズで顔の半分以上を占めていた。
指は三本、人間よりもはるかに細長いそれは触手のようでもあった。
そして全身から吹き出す血液とおぼしき真っ白い液体。
そこにあったのは崖から突き飛ばされ、車にオーバーキルされた男子高校生の変わり果てた姿であった。
その時、女子高生は初めて知ったのである。己の愛する男が、「宇宙人」だったということを。
そして三人は困った。
過失とはいえ、人殺しは許されないことだ。しかし、宇宙人なら…?宇宙人殺しだったなら…どうなるのだろうか。
いっそテレビ局に持ち込んだら…いやそんな発想には行き着かなかったのだろう。殺宇宙人からくる罪悪感がそうさせたのかもしれない。
もしこれが地球を征服しようとしている宇宙人だったのなら天誅だ。しかし、友好的な宇宙人だったとしたら?
地球人による宇宙人殺害。下手をすれば宇宙戦争かも。
全人類を巻き込んだ壮大な戦争の発端となった三人は果たしてまともな法律で裁かれるだろうか?
彼らは悩んだ。出会い頭だというのにかなり突っ込んだところまでお互いの倫理観を確かめ合った。
各々の心中を吐き出しきったのである。
女子高校生は処女だった。
ホームレスは銭湯に通い、身なりも意外に綺麗でそんなに臭わなかった。
タクシー運転手は美女の座った後のシートを嗅いでいた。
壮絶な舌戦の後、彼らが導き出した結論こそ、「んじゃ、バレる前に隠して埋めちゃお★」だった。
叫び声をあげる黒服の女をなんとかしなくてはと思ったのか、ホームレスは穴を跨ぎ超えて腰を抜かしている女の口を土まみれの手でふさごうとする。が、すんでのところで黒服の女は身をかわした。
上手く避けきれずにぬかるんだ土に足を取られて黒服は転倒し、手からこぼれた銃が穴の目の前に落ちる。
夜よりも冷たい鉄を拾い上げることができたのはホームレスの黒ずんだ手でも、黒服の白い手袋でもなかった。
月明かりに照らされるその銃口をゆっくりと女へと突きつけると、女子高校生は口の端だけ釣り上げると往年のジャック・ニコルソンを彷彿とさせる狂気の笑みで高らかに勝利を宣言した。
「じゃあね…。あの世で彼によろしく」
「いやいや殺すなよ」
ホームレスがツッコミを入れる。
「あああああ、あんたたち… ななな何をしたかわかってるの!?地球に潜んでいた宇宙人を殺害したのよ!!!宇宙戦争よ!!!ハルマゲドンよ!!!!!!¦スカイフォールよ!!!!!!もうおわりよー!」
「ならその前にてめぇを犯してやるよ!!」
今までに見たこと無い速さでおじさんがメンインブラックの女に覆い被さる。あまりに唐突だったので女子高生もホームレスも状況を把握できなかった。
「ヒャッハーーーー、汚物は消毒!!ジャンプは講読だぁぁぁぁぁ」
「ちょっ なんなのその決めゼリフ… いやっ きゃあああああああ」
「…タクシーのおじさん!?!?」
「なにやってるんだ!やめろ!」
「うおお!我慢できねぇぜ!!そんな誘ってる格好!!!ジャンプだぁぁぁぁぁジャンプは講読だぁぁぁぁぁ!」
「決めゼリフの省略の仕方が危ないよ!!??ていうか省略するの汚物のほうなんだ!?」
「ふへ……お、 おれァよぉ…パンツルックの女にしか興奮しねぇたちでな…一見油断も隙もないフォーマルな格好から、ふと漏れ落ちて繰り出される一瞬のエロスが俺のジャンプだ!!」
「まって!!意味わかんないです!!ていうか説明しながらズボン脱がないでください!!」
黒服が悲鳴を挙げる。
先ほどまでの草食系な表情は消え、おじさんは少年マガジンの雑魚不良を彷彿とさせる悪人面になっていた。黒服の両肩を押さえつけると、べろりと舌なめずり。完全に目がイッてしまっている。
「おっ おとなしくしろよ~ 痛くしねぇからよ」
「いやっやめて!!ちょっとどこさわっとんの!!!やだ… ほんと助けて!!だれか!!おかーさーーーんん!!!!!」
その場にいる当事者以外の全員が絶句である。
「あたしスカートで本当によかったわ~」
「なんかもう人間信じられなくなるな」
「…ちょっとぉ!!あなたたちたすけて!! お願いします!なんでもしますんで!見てないでたすけて!!!」
「…しょうがないな、そこまで言われちゃ」
女子高生は銃を構えると
「おじさん、それ以上やるなら撃っちゃ…」
「ガぺッ」
銃撃のショックで女子高生の手から拳銃がこぼれ落ちる。
高速の銃弾がおじさんの頭を打ち抜いた。
「おい!なに撃ってるんだよ!!」
「あっ あああ おじさ… いや違っ… 手が滑って…ごめん」
「…ごめんじゃねーよ…おじさん死んだぞ!!あんな優しそうなおじさんがすごい形相で死んでるよ!!!お前が殺したせいで死んだんだよ!!!」
「あああ、おじさんごめん…ごめんなさい…」
「…いや、コイツレイパーですよ」
「…正当防衛だな」
「あー よいっしょ」
かつて穴を掘っていた━━━あ、おじさんはパンツルックの女性の穴を無断で掘っていたらしいのだが、それとは関係ない話である━━━者がその穴へと落とされる。
ひき殺してしまったエイリアンとともに。
黒服、女子高生、ホームレス。
新たな三人が穴を掘って埋める。
二つの罪を土の中に封印するために。
はたしてそれは贖罪なのだろうか、逃避だだったのか。たぶんもうあんまり細かいことは考えていないに違いない。
「とりあえずあなたたちの事情はわかったわ。これで平気よ。私が後日絶対に見つからないところに移動させておくわ」
「結局、この宇宙人はなんだったんだ?」
「分からないわ。この星に宇宙人は移住してはならないってことになってるんだけど、どうにも不法密航者が絶えなくてね…」
「…うう清二くん…」
「おいおい、いまさらなくんじゃねーよ。泣きたいのはこっちのほうだぜ」
「さぁ他のメンインブラックに連絡しないといけないからあなたたちはさっさと帰りなさい」
「お姉さん、サンキューな」
「お姉さん、ありがとうございました」
「礼には及ばないわ」
「…あっ チッ クソ…」
「クソいうなってんだろ」
おじさんの残したタクシーはゆっくりと明るんでいく早朝の空気の中を軽快に走る。
ぬるっとした湿気が窓からながれこむ。
「煙草落としてきちまった、多分あの穴の中だ…」
「…忘れなよ…もう今日みたいな悪夢はさ」
「そうだな……」
本当に色々あった。殺人、遺体遺棄、強姦未遂、ひどい日だった。
「忘れられるかよ」
「そうね」
少女はスカートの中からどうやったのか黒光りするブツを取り出す。
「あ?!その宇宙銃!?」
「もって来ちゃった…♪」
「おまえなぁ…これどうすんだ?」
「ねぇ、私たち宇宙人を殺した奴らなんだよ?フツーじゃない」
「確かにな、まともじゃねぇや…」
「それならさ…… もっとすごいこと出来ると思わない? …今日のことは本当に悪い夢みたいな1日だったけど結構悪くなかったよ。だからさ、あたしとあんた、あとこの銃があればなんでも出来ると思わない?」
そこにいるのは本当に女子高生だったのか?悪魔か天使の変装ではないのか?
「…本気でいってんのか?」
「現代版『俺達に明日はない』ね」
既に雨は上がっていた。うっすら青白く浮かび上がっていく街並みに男は現実感を持てなかった。
まだ冷たい日の出前の風をすいこんで、肺を浸す。
「いいぜ、やるか」
「決まりね!きゃっほーー!ガンガン稼ごうよ!」
「まずはコンビニに行って煙草だな」
「あ、逃げないでよ」
「大丈夫だよ。心配なら車のキーはお前が持っていろ。お前が怖じ気づいて逃げたりしないよう、俺は銃を預かるけどな。ほらよカギだ」
「うん。了解!」
この少女が見せていたしかめっ面と攻撃性はもはやない。はれやかな笑顔で少女は微笑んだ。
女子高生が車を降り立った瞬間、ガチャリと音を立てて車はエンジンを再起動した。
「なん… あ!銃!!」
「わるいな。それ、俺んちのカギだ。」
「ひどいよ…」
「悪いことは言わないお前は昨日を忘れた方がいい人生おくれる」
「そんなこと、わかんないよ!!」
「いーや、オレには分かる。たったいま俺は思い出したんだ。メンインブラックの一人だったことをさ」
「え…」
「おそらくこの銃が、キーだったんだ。ホームレスも偽装で俺自身の記憶を処理していた…おれの生活は証人保護プログラムの一環だったらしい…そんなおれがいうんだ。宇宙人に関わらない方が幸せになる」
そういって彼はタクシーを発信させた。
誰もいない駐車場で、女子高生は力なくへたり込んでひとしきり泣いた後に、山に向かって「クソヤロウ」と叫んだ。
「ふー 今回は疲れたわ、っていつまでも寝てないでよ!私に雨の中でこんな格好させて!」
森の中、女は一人でさけぶ。
掘り返されたばかりの土が割れて、僕は起き上がった。そう、僕、エイリアンである。
「いやぁ志乃ちゃんと銃の行方を記録してたんだけど、どうやらあのホームレスがうまく処理してくれそうだ」
「は?どういうことなんですか?」
「あのホームレス本物のメンインブラックらしい。キミが回収し忘れたコスモガンを然るべきところ…例の機関に返却してくれそうだ」
「ええ!?本物のメンインブラック!?」
「やー、下手なタイミングで記憶が戻ってたらバレちゃってたね、危なかった」
「まったく、遊びがすぎるんですよ!いくらあなたが死を擬態できるベノム星人だって長時間の擬死は危険なんですからね。おかげで私が出張るハメに… 私、本来はただの家政婦なんですけどね!んもう!…だいたい最初から死んだふりなんかせずにあの三人の記憶を消して逃げちゃえばよかったのに…」
「まぁ抜け出すタイミングはあったんだけどね。あのホームレスの事を知る必要があったんだ、ホラこれ」
僕は小さな小箱を女に投げ渡した。
「!?なんですかこれ! なんて…濃度… これほど超高濃度のジェデラザニウンが地球にあったなんて!」
「いやぁ僕も探したよ… なにしろ名前も変わってたし、外見もデータと違う、半分ほど使われているようだが、だが間違い無くこれだよ」
「…これさえあれば…」
「ああ、僕らの星を救う研究は完成する」
「それにしても、なんというエネルギー…これほどの内在数値見たことありません」
「それ、コンビニに売ってるらしいよ」
「は?!」
「あー、ようやく僕の任務も終了だ。メンインブラックに見つかる前にそのジェデラザニウン発生物質を出来るだけ手にして帰ろう」
「……この地球という国…恐ろしい技術と先見性ですね、ジェデラザニウンは宇宙最新のエネルギーだというのに…」
「ああ、…彼ら、未開拓地の猿かと思えばなかなかどうして末恐ろしい。おそらく彼らは…このエネルギーの意味に気がついているんだ。でなければこれにこっそり数学者の名前なんてつけないよ」
僕は小箱からとりだした長細い棒をまじまじと眺める。これ一本で惑星一つの電力を一年まかなえるだろう。なんというエネルギーだ。僕は小箱の中に慎重に棒を戻す。そして、小箱に描かれた文字を読み取った。
「メビウス いや、三十年前のデータではこうだったね… マイルドセブン…と」