まほうのれんしゅう
「ダイチ、もういいぞ!」
俺が食堂で本を読んでいると部屋からミゥの呼ぶ声がする。
部屋で身体を拭いていたため俺が追い出されたのだ。
ガーフォークの宿には風呂がついてたんだけどここはないのでタライにお湯を張って身体を拭く程度しかできない。
「ダイチ様何を読んでらっしゃったんですか?」
部屋に戻ると俺が持っていた本が気になるのかフォルテが尋ねてきた。
「ちょっとこいつをね」
特に隠すことではないので背表紙を見せる。
魔道聖典、追い出されたついでに近くの教会からレンタルしてきた魔法のアンチョコでレンタル料として1日金貨1枚も取られる。
この世界の魔法は魔力を図形のように編み込むことで発動させる。
そのやり方が書いてあるんだがどうも俺は物覚えが悪いようで本を見ながらならともかく何もなしに魔法を発動させることはできないだろう。
それで暇な時にはこの手の本を借りてきてはチョコチョコ写しを作っていると言うわけだ。
「アンタまだ気にしてるの? 仕方がなかったんだからウジウジするのやめなさいよ」
「まあそうなんだけどどうしても、ね」
この間の依頼で生き残った少年に事の顛末を説明したときに「人殺し」だの「ほかに方法はなかったのか」だの散々なじられたのは少々堪えた。
俺がトドメを刺した少女は彼の幼馴染だったそうで手がつけられないくらいの暴れようだった。
結局彼は冒険者を続けることができず故郷へと帰っていった。
流石にこういうのを目の当たりにしてしまうと何もしないのは、という気にもなる。次は仲間の誰かかもしれないのだから。
「ってかアンタ魔法使えたの?」
「失敬な、普段はマジックアイテムの起動ぐらいにしか魔力は使ってないけど本を見ながらなら基本的な魔法は使えるぞ」
俺の魔力はレベル差もあってまだサラよりも大きい。
メモを見ながらなら拳大の火の玉を出したり傷を治したりはできるのだ。
ただ実戦には向かないしサラと組むようになって必要性を感じなくなっていったので今更勉強するのもしんどかったので避けていたのだがいい機会だと思いちょっとやる気になっていたのだ。
いたのだがサラが水を差す。
「それって実戦では役に立たないってことじゃない」
「だから練習してんだよ」
「ミゥ、ダイチの魔法見てみたい!」
「私もダイチ様がどのくらいの実力か判かればなにかアドバイスできるかと思います」
「よし、せっかくだし見てもらうか。【シールド】!」
部屋の中なので安全なものを本から選び発動方法を見ながら魔力を練る。
魔力を編んでいく。
魔力を編んでいく……。
魔力を編んでいく…………。
「ところでこれからどうする?」
「?」
「いや、ここの依頼って報酬ショボイじゃない? いっそお金になるモンスター倒したほうが良いかと思って」
「そうですね、ある程度実力を示せばいい仕事が入るかもしれないですし」
「おお、ミゥ狩り好きだぞ」
……飽きやがったな。くそう。
女3人がひとしきり話を終えた頃、俺の魔法が完成する。
魔力で出来た大盾だ。魔力を限界ギリギリまでつぎ込んだからちょっとやそっとじゃ壊れないぞ。
「おおっ、ミゥが殴ってもビクともしないぞ」
「強度は十分、かなり強力な魔法にも耐えられそうですね。ですが……」
「確かに魔法は使えたのね、悪かったわ。まあ……」
「分かってるよ! 遅いってんだろ、お前らがひと相談終えるまで掛かったもんな」
実戦には使えない。まあ分かってはいたが改めて人から言われると腹が立つ。
「だからアンタ、マジックアイテムたくさん持ってるのね。その槍もそうだし」
「ダイチ様、1年ほどみっちり勉強すれば実用レベルにはなりますが……」
「いいよ、悪かった! ちょっと意地になっただけだよ」
【シールド】は割と初級の魔法だ。
俺がやったように使用する魔力量や質によって強度が変わるし前にサラがやったように仲間全体を包むといったアレンジも効くので駆け出しからベテランまでよく使われる。
ただ駆け出しでも数秒、実用レベルなら瞬間的に展開しなければ役には立たない。
じゃあ回復魔法はどうかと言えば俺のようにちんたらやるくらいなら軽傷は薬で手当てをしたほうが早いし重傷では手遅れになる。
「あたしたちだってそのうち色々使えるようになるから気を落とさないでさ!」
サラがポンと肩を叩く。
「そうですね、私ももっと皆様のお役に立てるよう頑張ります」
2人に励まされてはいつまでも落ち込んではいられない。
「そうだな、頼りにしてるよ。明日は大将にこの辺りのモンスターのことを聞いてみるか」
方針も新たにし、俺たちは明日に備えて就寝した。魔法使いたかったんだけどな……




