突撃!隣の国の宿屋さん
ガーフォークを夜逃げするように出立して3日、ようやく来ました翠稜皇国。
まあ、関所とか国境線があるわけでもないのでここはその支配下にある町ってだけなんだけど。
この国、国名がそうであるように一部漢字が使われている。
もしかしたら過去に俺と同じ世界から来た人間が伝えたのかも知れない。
「じゃあ今日はもう宿をとって明日から仕事にしない?」
町に入ると開口一番、サラが休みを提案した。
「らしくないな。いつもならこのまま冒険者の店に行こう、くらい言い出しそうなのに」
「この3日ずっと納屋じゃない。疲れが取れないのよ、贅沢に慣れすぎたのね」
サラの言うようにこの三日間、寝る時は途中の村の納屋を借りていたのだ。
一緒に旅をしてきた仲間であるミゥとフォルテも特に異論はないのか特に何も言ってこない。
俺たちは比較的造りがしっかりしてそうな宿に止まることにした。
「すみませーん」
「おや、いらっしゃい旅の方かい?」
奥から恰幅のいいオバちゃんが出てきた。
「ええ、西のほうから。4人なんだが部屋はあるかい?」
「もちろんだとも、中部屋が食事つきで銅貨200枚になるよ」
愛想良く答えてくれたがこの規模の宿にしては高ぇな。
疲れてたので交渉はせず代金を払って部屋に案内してもらう。
「みなさんお疲れのご様子なので少しお食事は早めにしましょうか?」
夕食には少し早い気もしたが皆了承し、食事を摂って今日は早く寝ることにした。
3日ぶりの暖かい食事を食べ過ぎたのか皆暗くなる前にベッドに入った。
そして……
「……さま、ダイチ様」
「!」
目の前に美人のアップ、フォルテだ。
まさか夜這いか!?いや確かに僕になるとは言ってたけどまさかこんなに積極的だとは……
横にサラもミゥもいるのに。
起き上がろうとすると彼女は俺の口に手を当てこう言った。
「静かに、部屋の外に気配がします。物取りのようです」
「なに?」
「いかが致しましょう」
勘違いに顔を赤くしながらもどうするか考える。
「そうだな、じゃあ【消音】を掛けてから2人も起こしてくれ」
「済みませんお2人は眠りが深いようで起こすのは難しいです」
随分眠いと思っていたが一服盛られていたのか。
「なら【消音】、そのあと壁側に移動するから【隠れ身】を掛けてくれ」
「分かりました」
フォルテはサラほど強力な魔法は使えないが使える魔法の種類が多い。
【消音】は一定空間の音を外も内も消失させ、【隠れ身】の魔法は対象が動かない場合に限ってその名の通り姿を消すことができる。
どちらも待ち伏せにはうってつけの魔法だが2重がけはできないので【消音】で音が聞こえないうちに急いで準備を整え、【隠れ身】で姿を消し気配を殺して盗人を待つ。
しばらくすると3人の盗人が入って来た。
「おい、男がいないぞ!?」
「エルフもだ!」
「なんだと!?」
「男が居たらどうするんだ?」
「そりゃこいつでグサリ……って誰だ!?」
ノリいいなコイツ。
どうやら盗人ではなく強盗のようだ。俺を殺して他の仲間は売り飛ばそうとでもしたのだろう。
俺は隙が出来た3人を手斧の柄で殴り倒した。
「殺さないのですか?」
不思議そうな顔でフォルテが尋ねてくる。
「いや、毎回そんなことしてたら町に住めなくなるよ!」
「そうなのですか」
「とりあえずこいつら縛るから手伝って」
強盗を縛り終え、俺は調理場で酒を飲んでいた女将に近づいていく。
「随分遅かったね、まさか手を出したんじゃないだろうね」
そう言って振り向いた女将の顔が俺を見た途端、一気に青ざめていく。
「どうしました、まるで死人にでも逢った顔をして」
皮肉を込めてそう言ってやった。
失敗を悟ったのか女将は慌てて逃走を図ったがあっさりと捕縛、フォルテに呼んで貰った衛兵に引き渡した。
どうやらこの宿、いままでも冒険者や他所から来た旅人に対して睡眠薬で眠らせて男は殺して装備を奪ったり女は売り払ったりしていたそうだ。
床下から被害者の死体が大量に出てきた。
うへぇ、こんなところで寝泊りしててよく平気だな。
衛兵にこのあとどうします、と尋ねられたんだが正直ここで眠ろうとは思わない。
思わないんだが2人は眠っているしこんな夜更けでは今から別の宿を探すのも無理なので仕方なく部屋へと戻ることにした。
あれっフォルテは寝ちゃうの? ベットに入っちゃったよ。
思い直して俺も自分のベッドで毛布を被るが完全に目が冴えちゃって眠れない。
結局そのままで毛布を被ったまま一睡もできずに朝を迎えた。
一夜明け翌朝、夕べ起こったことを2人に説明した。
「いやー危ないところだったわね、フォルテ助かったわ」
「ミゥも暴れたかった」
2人はあまり危なかったという自覚はなく、朝食はどうしようかという話題でフォルテと盛り上がっていた。
いいけどね、別に。
「そういうわけであんま寝てないんだよ、別の宿探さない?」
「何言ってんのよ、フォルテはしっかり睡眠取ってたじゃない。寝てないのはアンタの勝手でしょ」
冒険者的に正しいかもしれないけど俺らが何もしなかったら君ら売り飛ばされてたんだよ。
もっとこう、感謝しろとまでは言わないけど労わりとかなんかないのかなあ……
俺の意見は却下され、近くの店で朝食を食べた後詰め所に向かった。
簡単な事情聴取を受け、宿代の返金をしてもらう。
今回犯罪者を捕まえた訳だが賞金が掛かっていたわけでもないため収入はない。
「じゃあここにいてもしょうがないからこのまま王都を目指しましょうか」
「えっ」
「よし、行くぞダイチ!」
「俺眠い……」
「多数決ですので」
みんなとっとと行ってしまった。
ここは俺のためにもう一泊するところじゃないかな?
あれっマジで行っちゃうの?
「ちょっ待てよ~」
慌てて俺は追いかけるのだった。
お久しぶりになりますが翠稜皇国編開始です。
本章終了までの約2週間、毎日更新致しますのでよろしくお願いします。
また誤字脱字の報告とかでもいいのでご感想などもお待ちしております。




