それはまるで夜逃げのように
「またややこしいのを連れて来やがって」
とは詰め所の隊長の弁である。
俺たちは森でエルフの死体回収を手伝ったあと犯人の死体を詰め所まで運び込んだ。
それだけなら意外な犯人だったなで済むんだが、一緒についてきたのが犯人と同じエルフのフォルテ。
誰がどう見ても犯人一味の仲間と思うだろう。
純粋なエルフはガーフォークでは珍しく俺もあの戦闘で見たのが初めてだ。
それを山賊の正体はエルフでした、あとたまたまエルフを見つけたので仲間にしましたでは通らないだろう。
エルフの里のことは話さない約束の手前、フォルテは山賊に仲間になるのを拒んだため監禁されていたところを俺たちに発見されたというストーリーを作っては見たがやっぱ置いてくりゃよかったかな。
「おい!」
「は、はい、何でしょう」
「お前さんとはそろそろ1年ほどの付き合いになる。その間お前さんは俺たちに手の負えない強力なモンスターを退治したり、受け手のいない依頼を受けてくれたりと随分助けてくれたな。だからこそ獣人の嬢ちゃんの件ではお前を信頼して城にも証言してやった」
「その件では本当に助かりました」
「だが!流石にこれは通らんだろ! お前が持ってきた遺体はすべてエルフ、これはほかの被害者の遺体や遺留物から見て間違いないだろう。問題はその娘だ! エルフがエルフに捕まっていた? もう少しマシな嘘を吐け、どの道城で真偽判定されれば終わりだぞ、いいのか!」
「あ」
ミゥの件もそうだが今回のような被害者が権力に近い場合、事件は城のほうで裁かれることが多い。
その場合は供述に嘘がないよう魔法で真偽を確認されるのを忘れてた。
「ったく、それでこの娘は一体何なんだ?」
「あの、私は……」
「お前には聞いとらん! 俺はダイチに話してるんだ」
フォルテは自分が弟の代わりに来たことを話そうとでもしたのだろうか。
彼女にも事前に話したがあくまでそれは俺たちとエルフの里との間の話であってほかのコモンには関係がない。
実行犯のレキサスが生きていることが判れば再度、討伐依頼が出されることになるだろう。
このまま行くと犯人隠匿とかで共犯者にされそうなんだよな。
共犯者にされるのは避けたいが、さりとて約束は守りたい。
いい案が浮かぶまでギリギリ粘るか。
「彼女は山賊の仲間ではないし、連中はすべて死んだからもう襲われることはない」
隊長が俺の眼を真っ直ぐ見つめる。
ここは眼を逸らしてはいけない場面だ。
「……」
「犯人はすべて死んだ、もう襲撃は起こらない、信じていいな」
「はい」
「いいだろう、俺はそれで納得してやる」
おおっマジで!
「ただし」
やっぱそう上手くはいかないか。
「上はそうはいかんぞ、どうする気だ」
「え、それは……」
いや、まだいい考えはないけど。
「ったく世話が焼けるな。どの道このまま嬢ちゃん連れてたら街中の商人の心象最悪になるぞ。お前、その譲ちゃんを見捨てる気がないならこの街を出て行け!」
「え?」
「犯人全員死亡、冒険者は報酬を貰って帰っていった、あとで事情を聞こうとしたが連絡先を聞き忘れた」
「え?」
「そういうことにしてやるって言ってるんだ。明日の朝には城から調査官が来る、さっさと決めろ」
フォルテを連れて冒険者をするなら逃げろってことか。
「え、あ、はい。サラ、ミゥ、フォルテ!」
「聞いてた、良いじゃない他所の国でガッポリ儲けましょ」
「ミゥはずっと一緒、ダイチに着いてくぞ」
「皆様、私のせいでご迷惑をお掛けします」
「決まりだ。よし荷物を纏めるから一旦宿に戻る、ミゥとフォルテはここで待っててくれ、サラ行くぞ」
皆に指示をして詰め所を出る。
っとその前に
「隊長、ありがとうございます。でもいいんですか、ばれたら問題になるんじゃ?」
「まあ多少のお小言は貰うかも知れんがそれ以上大したことにはならんよ。お前さんがいなきゃ俺らの同僚が借り出された事案だ。その礼だよ気にすんな」
一礼して詰め所を出る。
旅の準備と知り合いに別れを告げて合流した俺たちはなるべく目立たぬよう門を出る。
何度も通った場所だが当分見納めかと思うと感慨深い。
きっとこれからもこういうことはあるのだろう。
と、感傷に耽って立ち尽くしていても仕方がない。
「とりあえず東の翠稜皇国へ行ってみるか」
夕焼けを背に4人の冒険者は王都を後にした。
次話で一区切り、書き貯め分は終了です。次の投稿がどの位先になるか分かりませんがそのときはまた宜しくお願いします。