会談
霧を抜けた俺が目にしたのは巨大な樹とその枝に乗った小屋群、どうも敵のど真ん中、エルフの集落にまで入ってしまったようだ。
俺が追いかけてきた3人を含め大勢のエルフがこちらを見ている。
女子供ばかり20人くらいか。
なんとかなるかと思い武器を構えお互いに動こうとした瞬間、女性の声が響き渡った。
「そこまでです」
その声と共に俺の目の前に1人のエルフが現われた。
武器を構えていたエルフたちが女王と呼びながら駆け寄り彼女の前を守るように前に出るがそれを制し俺に向き直る。
「コモンの戦士よ、何故我らの同胞を殺戮しまたこの里まで攻め入った。返答次第では我々の全力を持って相手をします」
そう言って持っていた杖の先に魔力を集めている。
確かに先程まで闘っていた連中より強い力を感じるが一撃でどうにかなるほどではない。
ほかのエルフも同様に攻撃できる態勢に入った。
「なぜだと、仕掛けてきたのはそっちだろ。俺は商人を襲う賊を討伐しにきただけだ。そっちに文句を言われる筋合いじゃないね」
「なっ?」
俺の返答に驚いたのか俺の目を見つめる女王。
少し間を置いて女王は逃げてきたエルフに尋ねる。
「どういうことですレキサス、この者の言うことは真実なのですか」
少なくともいきなり戦闘とはならないようだ。
レキサスと呼ばれたエルフが慌てて女王に釈明しはじめる。
「お、俺はただこの森に入ってくるニンゲンを退治していただけです。まさかニンゲンなどがここまでやるとは思わず」
「あなたは採取中に襲われ同胞が3人殺された、だから救援を出して欲しいと言いましたね。私はコモンには関わるなと掟を定めたはずです。あなたは掟を破りわざわざ外のものと争いを起こし、今この里を危機に晒したのですね」
「ニンゲンがこの森を荒らすことが許せなかっただけです! 俺は「レキサス!」」
そう言うと女王はレキサスに向けて魔法を放った。
こちらの想像以上の強さがあるのかレキサスは膝から崩れ落ち息も絶え絶えに地面に這いつくばった。
さっきから女王とレキサスで俺たちの呼び方が違うのだがこれは両者でどう思っているかが伺える。
コモンというのは普通の人族のことでニンゲンというのは他種族が使う分には差別用語だ。
つまり女王は同胞を殺しまくった俺にも一定の敬意を払っており、レキサスはコモンに対して差別的な嫌悪を持っていることが判る。
「申し訳ありません、コモンの戦士よ。私共の不手際でした、どうかその矛を収めてはいけないでしょうか」
「まずは周りの連中をどうにかしろ。この状況で警戒が解けるわけないだろ。それとまだ外にいる連中がいるなら戦闘を中止させろ、俺の仲間がまだ闘っているはずだ」
敵地だからかどうも語気が荒くなる。
今だ、俺はこの里中のエルフから敵意の篭った視線を向けられている。
「分かりました。――――、外に出ている者達を停戦させました、あなたの仲間もこの里へと案内させたのでじきに着くでしょう」
女王がそう言い杖を掲げなにやら小声で呪文を唱えるとエルフたちは不承不承武器を下げて女王の周りに集まってきた。
それを見て俺も構えを解く。
警戒しないわけでもないがこのまま睨み合いを続ける気もない。
それからしばらくして数人のエルフと共にサラとミゥもやってきた。
「ダイチ! 無事か!」
ミゥが抱きついてくる。
「そっちこそ怪我はない様だな」
「まあね、あたしを誰だと思ってんのよ」
ボロボロの様相でサラは胸を張って答える。服装はともかく身体には傷はない。ここに来るまでに傷は直したのだろう。とりあえず一安心だ。
「それでは宜しいでしょうか」
「ああ、じゃあ話をしようか」
全員集まったところで女王が話を始める。
大樹の下にテーブルと俺たちと女王の椅子が用意されたためそこで改めて話をすることになった。
ほかのエルフたちは全員まだ女王の後ろで立っている。
話はまず俺が依頼の発端である盗賊の襲撃からの今までの経緯を話し、それについて女王が当事者であるレキサスに詰問しながら確認するという形で進められた。
実行犯で生き残ったのがレキサスだけのため話は彼の主観だけであるが、彼によるとニンゲンは森を殺す破壊者でありこれが自分たちの森に我が物顔で進入するのが許せなかった。
掟で禁じられていたがニンゲンなど大したことがなく恐れることはないと駆除して回っていた。
実際、今回俺たちに反撃に会うまでほかの者は逃げるか立ち向かってもあっさり死んでいたという。
まああの弓は情報がなければ熟練の戦士でも危ないだろうしレベル100越えの俺だって装備を整えて何とかといったところだったのだからそう思ってもしょうがないだろう。
だが結果として討伐のための冒険者が雇われ彼らのみならずこの里の戦士のほとんどを死傷させてしまった。
この場に居るのが里の全住人だとすれば生き残った戦士はレキサスを含めて5人、あとは子供やあまり戦闘向きには見えないものが20人ほどである。
「私の管理が行き届かなかったばかりにこのようなことになってしまい申し訳ありませんでした。私に出来る限りのことはさせていただきますがその上で一つだけお願いがあります」
「ん、なんだ?」
「この里のことを秘密にしては頂けないでしょうか。もはや我々に闘う力はなく今欲に囚われれた者たちが大挙すればなすすべなく滅びを迎えるでしょう」
向こうが仕掛けたこととはいえ元々少人数の集落だったのが俺たちとの戦いでほぼ壊滅状態になったのだ。
その程度なら別にいいだろう。
こちらだって全滅させるまでやる気もない。
「俺たちを信用すると?」
「はい、あなた方は敵対するものには容赦されませんでしたがこうして私との会談に応じてくれました。それにあなた方がその気になれば私共などどうとでもなりましょう。私はあなた方の善性に縋るよりないのです」
「話は判った。再びコモンやほかの種族に対して襲撃しないと誓うならこの里のことは忘れよう、2人ともいいな」
サラたちも頷く。
「俺たちはそいつを引き渡して貰えればすぐに出て行く。ただしほかの実行犯の死体だけはこちらで回収させてもらう。遺品とかが必要ならそれぐらいは渡すから言ってくれ」
「ありがとうございます。それでは……」
「お待ちください!」
話が纏まろうとしたところで1人のエルフが割り込んできた。
エルフの女王が下手に出てるのは自分達に非があったこともそうですが、自らが死ぬのが怖いというより里の全滅を恐れてのことです。彼女の目的は種の存続、そのためなら同族を殺した相手に降るのもやむなしという考えです。