ミゥル
「ミゥはミゥル・ラウファークス、森の王ホンヤーラオ・ラウファークスの娘だ」
獣人少女改めミゥルが言葉が通じるようになってまず話してくれたのは自らの素性だった。
彼女の話によるとどうも俺と同じ異世界から来たようだ。
彼女は大きな部族の族長の娘で成人の儀式をしていた際に『窓』を通ってしまい気がつくとこの森に居たそうだ。
辺りを調べても仲間はおらず、一人で狩りをしながら暮らしていたそうだ。
その獲物の一つがここを通る商人の荷物で今回の俺たちの依頼に繋がったわけだ。
ちなみに人を殺さなかったのは「食べる分しか仕留めない」との掟を「殺した分だけ食べなければならない」と解釈していたので極力殺傷は控えていたようである。
「で、依頼はどうすんの?」
「街に連れて行くしかないよな。最悪タダ働きになるかもしれないから覚悟しとけよ」
「げ」
「?」
ミゥを放っていくことも、まして今更退治するわけにもいかないのでお上の判断に任せることにした。
「あ~やっと終わった」
ミゥルを街に連れてきてから3日後の昼、俺はミゥルを連れて詰め所を出た。
街に連れて行くとは言ったもののミゥルは全体的に虎とかライオンっぽいが顔と身体の前面だけ人間と大差なくこれはまずいかと思い服を着せることにしたのだがこれにミゥルが抵抗。
やっとの思いで服を着せ街まで行くと門番に許可がないモンスターは街に入れられないとひと悶着。
詰め所の衛兵に事情を説明してもらって何とか街には入ったが今度は事情の説明やら真偽の判定やらで大分時間を取られた。
一応、彼女はビーストマン(獣系亜人)の一種という扱いになった。
ちなみに人種の総称は人で俺やサラみたいなのはコモン(普通の人)と呼ばれる。人間って言い方は異種族がコモンを見下す時にしか使わないそうで俺が使うと異種族の手先だと思わるため気をつけなければならない。
本来ならそこで帰っても良かったんだが帰ろうとすると寂しそうにミゥルが俺の名を呼ぶのと暴れた場合に衛兵ではどうにもならないので手続きが済むまで一緒に詰め所の牢屋で過ごすことになった。
もちろんサラはとっとと帰ってしまった。
結局ミゥルについてだが異世界人でこちらの常識がなかったこと、死者がいなかったことが考慮され俺が当面面倒を見るということで一部損害賠償を行なうことで放免となった。
これは一冒険者の信頼度としては破格で、この半年ここの詰め所で行なった仕事が認められたということだ。
もちろん今後も面倒な依頼を頼むよという意味もあるのだが。
「お勤めごくろうさまです。なんてね、その様子だとなんともないみたいね」
宿のほうへ歩いていくとサラが声を掛けてきた。
「さっさと帰りやがって」
「いいじゃない、あたしが居る意味ないんだから。それよりこの3日、宿の手伝いで小銭しか稼いでないんだからさっさと依頼受けに行くわよ」
いつも通りすぎるサラに今日は休みだと抗議をするより前にミゥルが前に出た。
「何だお前、逃げたのではないのか?」
「なっ!」
「あの闘いでもダイチはミゥを倒した、お前はへたり込んでいただけだ。なぜお前が偉そうにする?」
どうもミゥルは前の戦いに参加しなかったサラのことが気に喰わないようだ。
そういえば街までの帰り道でもサラを一顧だにしなかった。
「あー、あのなこいつはサラ。俺と一緒に冒険者、ええと魔物やっつけたり薬を採ってきたりする仲間でこの3日何もしてなかったから……」
「そうかミゥのせいか、それは悪かった」
「なによ判ればいいのよ」
素直に謝ってくれたのでこれで収まるかと思ったのだが……
「だがダイチ、こいつは腰を抜かして何もしていなかったぞ、役に立つのか? ミゥは心配だ」
また余計なことを。
「な、大体アタシはずっと前からダイチと組んでるの! アンタになんでそんなこと言われなきゃならないのよ!」
「ミゥはダイチと番い(つがい)になる。お前、ダイチと番いではないだろ」
番い?って夫婦か!
ミゥルはいきなりとんでもないことを言ってきた。
それに対してサラがこちらを睨んでくる。
「知らん、初耳だ!どういうこと?」
慌てて俺はミゥルに問い返す。
「ミゥはもうラウファークスに帰れない。ここで血を残して生きていく。ダイチは強いし兵隊との間に立ってくれた。ミゥより強い者はラウファークスにもそうはいなかった。だからダイチと番いになる」
ドヤ顔で持論を展開するミゥル。
いきなりそんなことを言われても困る。
「む、安心しろミゥはもう儀を終え一人前だ。それに面倒なことを言う長たちもいない」
「いや、そうではなく」
「ん?」
ミゥルは顔だけ見ればかなりの美形だ。
これだけの美少女から求愛されることは元の世界ではまずないだろう。
だからといってすぐに「んじゃ結婚すっか」と言うわけにはいかない。
この世界では結婚に対する法律は特にない、というか結婚を役所に届けるとかするわけでもないので当人が結婚したといえばそれで済むのだ。
俺だってこの世界で生きていく以上考えなければならないがそれを推しても躊躇う理由がある。
まず種族、それに年の差だ。
ミゥルは美人ではあるがどう見ても人間ではない、重要部分は人間と同じようだがほぼ獣である。
年齢は不明だが成人の儀式を済ませたといっていたから大人なのだろう。そういう種族なのだろうが相当幼く見える。
ようは美少女に求婚されてラッキーすぐ結婚しましょうといくには難度の高い相手である。
サラも若干引いて俺の方を見ている。
「あーいや、ミゥルもこの世界に来たばかりだし焦ることはないんじゃないかな」
「む、ダイチがそういうのなら仕方がない。ミゥはもう少し待つことにする。ミゥはいつでもいいから気が変わったらすぐに言ってくれ。あとダイチ、ミゥのことはミゥと呼べ、ミゥと呼ぶものがいないのは寂しい」
「じゃあ、ミゥこれからよろしく頼む」
あだ名で呼ぶのは少々照れくさいがそのくらいで波を立てることもないだろう。
ふう、とりあえずこれで落ち着いたか。
あれっなんか忘れてるような気もするがいいや、宿に帰ろう。
「ってなんで宿に向かうのよ、仕事よ仕事!」
「あ」
もともとそこから脱線したんだっけ。
「お前一人で行けばいい。ミゥはダイチと一緒に行く」
「なんですって!だいたいアンタさっきからあたしを無視すんじゃないわよ!」
ああ、これもあったな。
何も解決してなかったか。
仲裁に入りながら俺はこの場をどう納めるか途方に暮れた。
というわけで2人目の仲間ミゥル・ラウファークスです。
彼女はダイチとは別の異世界から来た獣人系を出すという目的とほかの仲間と属性が被らないようにした結果、獣ロリとなりました。