五曲目
「いつから気付いたんですか?」
「えーっと・・・。あ、7日前ぐらいからだ。ちょうど一週間前だな」
がははは、と何がおもしろいのか豪快に笑った。
名前はトマーシュ・クバート。筋骨隆々で、歴史の教科書に出てきたバイキングみたいだ。
しかも、この人は視力が両目共に2.0らしい。それ故、見張り部隊の隊長だ。
なんでもどこかの平原で生まれ育ったからだそうだ。
「どんな感じの人でした?」
「ん?確か、お前と同じくらいの背の高さっぽかったな。あ、だけど実際わかんねーな。遠い後姿だけだったし。あと、ひ弱そうな感じだったぞ。この辺りはただでさえ人が寄り付かないっていうのにそんな奴が現れたから驚いたのは覚えてるぞ」
無駄に有力な情報だ。何で情報提供しなかったのか不思議だ。
「なんか結構重要な証言っすね」
「そうだな」
それから、一番地下の部屋の前まで来た。
「あの、たぶん、分かったと思うんですけど」
「そうか。で、どこにいるんだ?」
「明日の朝9時、ここの前の茂みにくるらしいっす」
「馬鹿ものっ!何で連れて来なかったんだっ!」
やっぱりこの人はよくキレる。
「だって、そんな事したら絶対捕まえ損なって、あの子逃げちゃいましたよ」
「だってもなにもあるかっ!もういい!私は寝るぞっ!!」
追い出された。
しかも、一番聞きたいこと聞き逃した。
あの、若い新聞記者はどうなるんだろう。
「どうだったんすか」
「聞き逃した」
外で待ってたドジと合流する。
「やっぱり、死刑っすかねぇ・・・」
「・・・・」
それから、オレは牢へ戻った。
あんな人が、殺されていいのだろうか。
死刑っていうのは残酷だ。
その人間のささやかな一面だけで死に至ってしまう。
その人間はとてもいい人かもしれないのに一つの罪を犯しただけで、殺されてしまうのだ。
よく考えると、とても理不尽な事に思えてきた。
世間の人々は死刑をどう思っているんだろうか。
前、新聞で殺人犯が捕まり、死刑になったという記事があった。
でもその記事にはまるでその人が死刑になった事を喜んでいるみたいだった。
その人が死んだ事で、悲しむ人がいるかもしれない。
その人は本当はとても優しい人なのかもしれない。
オレは、世界の冷酷さを初めて知った。
今回は少しシリアス風でした