「チーム結成」
人には青春を感じられる時期があるという。
僕はその青春を感じられるのだろうか。
まだ17の俺に本物のソレは感じられていなかった…
この染谷真坂17歳、サウスポーのエース、今ものすごくピンチ‼
「五回の裏、14対0でバッターはピッチャー4番、小野寺君。」
(くそっ、まだここで終わるワケには…)
ビシュッ
「キーーーーーン」まただ…
「のびる!のびる!入ったー!」
「三者連続ホームラーン!」
「ワーワーワー!!!!」
「ありがとうございました!」
あぁ、今年の夏も終わってしまった…5回コールドかよ…そんな気持ちでマウンドを下りると、
「まぁ、そんな気にすんな一回戦勝てたからいーじゃねーか。来年頑張ろーぜ、真坂。」
こいつはキャッチャーの吉田早助。成績は学年トップ。頭の良さと、キャッチャーできる人がいなかったので、こうしてバッテリーを組んでいる。
しかしこの男、あまり競争意識がなく、別に
勝てなくてもいいとも思っている。昔からの親友だが、いつも活力がなく、あまり表情も変えない。
「おう、また頑張ろーな…」
「しかしまさか三者連続ホームランとはなぁ。真坂だけにまさか、ね~。」
「う、うるせーなー、ほらまず監督のところ行くぞ」
部員の中には早助みたくいわゆるやる気がな
いやつが多い。部員も12人と弱小で、一回戦も相手の都合での不戦勝である。
「えー、お疲れ様。帰ったらちゃんと反省しておくように。以上。」
監督もこんなんだから仕方ない…?
(こんなんで来年は俺の夢を叶えられるのか?)
俺の夢は甲子園に行くこと。俺自身のためになんとか叶えたい夢だ。絶対に。
翌日。
「あーあ、今日からまた練習かよ。もう少し勝ち残りたかったぜ…」
すると早助が後ろから、
「勝てなかったのはアレだけど、まだ最後の
大会まで一年あるじゃん?大丈夫だよ。」
(いや、大丈夫じゃねーだろ…)
すると監督がめずらしくグラウンドに来た。
「えー、突然だが今日、転校生が来てな。紹介しよう、澤田敬太君だ。はい、一言あいさつ。」
(転校生?)
「天政学院高校から来ました、澤田敬太です。ポジションはどこでも出来ます。」
ザワザワザワ…
(どこでも出来る、だと…)
(しかも「てんせい」って俺らの負けた相手じゃないか!)
「えーとこの子、自分では言わないが、高校はピッチャーをやっていたらしい。」
(ピッチャーだとぉぉ‼俺と同じじゃないか)
ザッザッザッ…
「このチームのエースですか?」
「おぉ、そーだけど…」
「じゃあ…」
(何だこいつ。気軽に話しかけてきて…)
「ここのエースナンバーは俺がもらいますから。」
(‼‼)
「俺、前の学校ではピッチャーやってたんですよ。なのでこの学校でも投げたいと…」
「はぁ?天政学院でベンチにしか入ってない
ようなやつにエースとられるかよ。第一、入部そうそう生意気すぎだぞ。確かにここにいるやつらよりかは上手いかもしれないけどな。」
「なら試してみますか、俺の球、紅白戦でも
やって。」
そういってにやりと笑った。
「プレイボール‼」
紅白戦が始まった。
「一人でも僕からホームランかヒットを打ったら、そこで諦めますから」
何ともぶっ飛んだルールだ。澤田が投げ、内野手が4人、ウチは人数がいないのでこの形になってしまう。
(さぁ、どんな球を投げるんだ?)
「1番、センター富山~。」
(富山は元陸上部、ゆるいサードゴロなら内野安打にできるほどの俊足だ!)
「「決めちまえ~富山~」」みんなが言う。
ピッチャー振りかぶった。第一球。どんな球だ?
ピュッ
(ゆるい!これなら打てるぜ!うおー)
バスッ、「ス、ストラーイクッ」
「「!!!!」」
「ナ、ナックルや!ナックルボールや!!」
(くそっ、一球目からこんな誘い球かよ!)
澤田は涼しい顔をしている。
「こんなんで騒ぎすぎですよ。こっちはまだ一球しか投げてないんスから。」
何なんだあいつは。高校生でナックルボールだと…
「なぁ、ナックルボールって何なの?」
早助が聞いてきた。そんなんも知らねーのかよ…
「ナックルは無回転でミットまでとどくボールのこと。回転しねーからボールが揺れるんだけど、空振りするほどの変化をつけるなん
て、相当キレるぞあれは。」
第二球振りかぶった。
(もうナックル何かで空振りするかよ。つぎは絶対打ってやる!)
ビシュッ
高いボール球だ!振るなよ富山。
ブンッ
「ストラーイクツー」
完全に相手ペースだ…120くらいのストレート…
「「ああー惜しい。」」みんなが言う。
「もうちょいだったのになー。」
早助も言う。
惜しいワケがない。澤田はわかってて投げてるんだ。ムキになってボール球を振らせるように。
三球目。
「富山ー!ボールよく見てけよ!」
富山がコクリと頷いた。よし、これでさっきみたいなミスはないだろう。
(ゴクリ…)
ビシュッッ ビューーーーー
ズバンッ‼
………
「ス、ストラーイクッバッターアウト!」
キャッチャーはぶっ飛んでいたが、かろうじてキャッチ出来ていた。
「う、うぅ…」
「な、何……」
外角低めいっぱい、というかちょうど、ストレートが突き刺さっていた。
「きゅ、球速は?」
「150キロ以上…」
これはとんでもない怪物が来たらしい…
続いて2番打者も倒れ、後がなくなった。
「ツーアウトー!」
最後の三番打者は俺だ…
ここで打たなければエースナンバーをとられてしまう。だがしかしどうやって打つ?みんなもう諦めムードだ…
「プレイ!」
ビシュッズバーーーーーン
「ストラーイクッ」
いや、ここで打たなければ俺の夢も終わってしまう。そんなことにはなってはならない。
第二球。ビシュッ
(ナックルだ!これしかない!)
スッ、バスッ。
「ストラーイクツー!」
「「ああ~ダメか~」」
(ナックルカーブだと…ここに来て新しい球種がくるとは……)
相変わらず澤田は涼しい顔をしている。
(ナックルカーブはスライダー気味に落ちる球だ。変化も鋭いが、右投げの澤田がナックルカーブを投げたら幸い左打者の俺には内角に来るから打ちやすい。)
ピッチャー振りかぶった。
(あの球はしっかり叩けばヒットになる。狙
い球はナックルカーブで決まりだ!)
ビシュッ
(な、ナックル!でもストライくコースだ!フルスイングしかない!)
ブンッ、キーーーーーン。打球は三塁側フェンスに向かっている。
「ファールか…」
澤田がそう呟いた。
「「いや、ファールじゃない!!!」」
何とフェンスに向かっていたボールが三塁にアーチを描いて戻ってきたのだ!!
「!!」
ポーーン。そして三塁ベースの手前、フェアゾーンで跳ね、またフェンスに当たった。
「ふぇ、フェア!フェアだ!!!」
(やった!でも今のはなんだったんだ⁉)
1塁ベースを踏んで今の打席を思い出してみた。
(確か澤田が投げたナックルをあたり損ないでカットして…)
……
「カットだ‼」
「おい、今の打球スゴかったな。どうやって
打ったんだ?」
早助が俺に聞いてきた。
「だからカットだよ!カットしたんだ!」
「カットって⁉」
「ほら、よく外野フライとかの時にボールに回転かかって最初の軌道より曲がる時があるだろ?あれだよ。」
(でもあんなに低い位置で曲がるなんて相当カットかかったんだな……あ、そっか。フルスイングしたからカット出来たんだ…。)
澤田は驚いていた。
(あんな打球、見たことない!!!あれは並
外れた野球センスが無い限り無理だな…)
「仕方ないですね。エースナンバーは諦めますよ。まさかあんな打球を打つなんて…」
と澤田が言った。
「ああ。でも俺はサウスポー、だからお前はリリーフエースでもやって活躍してくれよ。」
「でもあんなにいい球投げられてなんで天政
学園で投げられなかったんだ?」
早助が聞いた。
「え?だって俺まだ16の高一ですよ?あそこでは一年は試合出れないんですよ。」
「「「!!!!!」」」
「そうなんですか監督!?」
ってもういないし…
「じゃあ俺らあそこの一年に圧倒されていたのか…」
富山が言った。
「じゃあ来年の大会はこんなやつがウジャウ
ジャいるんかい…こりゃ一回も勝てんかもしれん…」
「そうだよな…」
おいおいおい、なんかみんなさらにやる気無くしてないか?
このままじゃ本当に勝てないかもしれない。
その為には俺がみんなをやる気にしてチーム全体で強くならなければ…第一、今のままの守備や打撃じゃ他の弱小校にも負けちまう。
俺はいったいどうすればいい?
「うーん、難しいね。」
「そーなんだよなー。って何で早助がウチに居るんだよ!?」
「だって、せっかくの休みだしいいじゃないか。」
早助が当たり前みたいな顔して言ってきやがった。
俺だって休みてーんだよ…
「まあいーじゃん。相談なら聞いてあげてもいいよ。」
何で上から目線!?
「でもウチの野球部ってワンポイントとゆう
か一芸に優れているやつが多いよなあ…」
一番センターの富山は器用で元陸上部だから足も速いけど、パワーが無いから長打は期待できない。それに肩も弱いから実はと言うとあまりセンターに向いていない。足の速さで昨年起用されただけだ。
「やっぱりポジションにも問題ありだよな…」
「しょうがないよ人数少ないんだから。」
そんなこと言ってられない。
二番ショートの矢部っち、いや矢部は守備が
いい、バントも出来るがなかなか打率が伸びなく併殺される事も多い。
三番の俺…はあとでで。
四番のサードの菊地はパワーも肩もあって四番向きだがミートセンスが無く、捕球センスも無いのでキャッチャーは出来ない。
澤田の球を受けたのはこいつで、あの時はまぐれだったんだろう。
五番はこいつ早助。意外とセンスはよく出塁率もいい。肩も強いのでやはりキャッチャー…
「あ、そういえば僕このごろ走り込みしてた
から50メートル7秒切れたよ。」
そういってニコリと笑った。
なるほど、こいつが一番のキーマンかも…
「あとは下位打線だよな…」
「ねえ、聞いてる?」
「え?ああ聞いてるよ。良かったな。」
六番は百パーセント俊足が自慢のファースト伊勢。部一番のランナーだが他の能力は水準以下。
七番セカンドの松本はイマイチだがダブルプ
レーやトリックプレーがうまい。ピッチャーとしての能力もあると自慢していてよく変化
球の練習もたまにしている。
八番ライトの山田と九番レフトの土浦もパッとしない。
………
そして謎の一年澤田。
明日までにまとめてみんなに言ってみようかな…
監督は…あてにならないか。
「今日の練習終わり!片ずけろー!」
あー、つーかーれーた…
ああ、そうだった。
「みんなー、この後ちょっと大事な話があるんだけど、いいかな?」
「うん。」
「いいよ別に。」
口を揃えて言う。
「じゃあまずグラウンド整備してからだ!」
「ほーい。」
(みんなそれなりにやる気はあるのか?…練習は結構真面目にやってるし…にしては試合の結果とか良くないよなぁ………)
「えーと、今日集まってもらったのは新チームを発足させるためです」
「やっぱりね。」
と、早助が言った。
「おい、新チームってお前さん何ゆーとるのかわかっとるんか?」
「そーだぜ。ウチは人数が12、いや13人しかいねーんだぞ。いまさら新チームって…」
矢部と富山が聞いてきた。
そう来ると思ったぜ。
「いや、いまさら新チームを一からって考えじゃなくて、細かいところ。打順やポジション、もしかしたらスタメンだって…」
「とにかく来年までに新チームでやって、一人一人の役割を明確にさせレベルアップさせよう、と言う考えじゃないんですか?」
澤田が発言した。少し驚いた。
「まぁ、そう言うこと。じゃ、俺が考えた新チームを発表する。」
ゴクリ……みんなに緊張が走った。
「ねぇ、僕は出れるよね?」
早助が聞いてきたが、無視して続けた。
「これで決まりってわけじゃないから気軽に聞いてくれ。」
俺が発表した新チームはこうだ。
1番セカンド富山。昨年に引き続き1番で塁に
出てもらう。セカンドにした理由は、足が速くて守備範囲が広くファーストに一番近いから。盗塁も。
2番レフト矢部。これも昨年と同じ二番。バントを徹底して練習する。プッシュバントも
できるように。ここでうまく富山を三塁まで進めたい。
3番ピッチャー染谷。
4番センター吉田早助。元々ミートセンスがあり4番起用と考えた。しかもこの頃走力もついてきて、肩も一番いいのでセンターでの起用。
5番キャッチャー菊地。これから徹底的にキャッチャー練習をしてもらう。長打もあるので5番。
6番ショート澤田。総合力があり器用なのでショート。守りの要。ピッチャーの染谷との交代もあり。それに4、5番で出たランナーをホームへ返す決定力も必要。
7番ライト伊勢。守備よりも攻撃時に期待。下位打線から始まる時にこの伊勢から出塁を狙う。選球眼、ボールの見極めの練習をして、なおかつランニングも維持。
8番サード松本。サードでの守備、トリックプレイに期待。そして伊勢を送るためにバント練習も。伊勢なら楽々盗塁も出来ると思うが念のため。
9番ファースト土浦。土浦は流し打ちの練習。伊勢が2塁にいた場合ファースト方向に流せるようにうまく行けばヒットも。
……
「以上だ。」
「おお…」
「すげー。」
「俺スタメンだよ。」
みんなうなっている。
「お、おい!何で俺がキャッチャーで吉田がセンターなんだ?俺球捕れねえし、吉田がやった方が…」
菊地が突っかかって来た。
思った通りだ。
「それはお前が捕れるようになれよ。大丈夫だ!お前の肩ならそう盗塁も出来ない!」
「そ、そうか…」
納得したみたいだ。
「それとみんなにはみんなにしか出来ない技を習得してもらう。」
「技って?」
「この前俺が見せたカットみたいなものだ。矢部には二塁ベースまで届くようなプッシュバント、サードの松本には古典的だが隠し球とか、ジャンプ力を鍛えてもらう。ファーストの土浦は基本能力が低いから牽制球の処理、流し打ちのカット。キャッチャーの菊地には1塁ランナーを座ったままさせるような肩を作ってもらいたい。カットは難しいかもしれないが俺もやってみる」
みんな驚いた顔をしている。
「そんなん出来る訳無いっしょ。」
澤田が言った。
「これが出来れば必ずレベルアップする。試合にも勝てる。」
「理由は?」
「…何もしないよりいいだろ」
そう、何もしないよりいい。
「俺は賛成だぜ。染谷の話を聞いて俺、今までで一番燃えてる。やる気になってる。」
富山が言った。
「僕も。今までの実力でとうてい太刀打ちできるとは思わないよ。それに真坂は前からみんなの事、チームの事を考えていたんだ。」
早助のやつ………
「俺も。」「わいも。」
みんな話せば納得してくれるんだな。
「先輩達がそうしたいなら俺はいいけど…」
澤田も言った。
「じゃあ決まりだな。」
「おう!」
「うん。」
「明日からこのチームでいこう!」
やっとこのチームにも希望が見えてきた。一年の澤田の事はまだよくわからないけど、このチームでやっていけるかどうか賭ける!!!!!そしてなんとしてでも甲子園へ!!!