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第六夜◇潜入





黒き闇の底で男は低く声を発する。




「鼠が二匹潜りこんだようだな」


「あら、可愛い……。私が遊んでもいいかしら?」


凛と艶やかな声が答える。


「目狐は鼠を食らうのか? フン、ならばお前が始末しろ。」


「仰せのままに……ふふ……。」




***




「よっ、……と」


突然放り出された薄暗い灰色の床へ、宗彰は身を翻し華麗に着地する。

どうやら辛くも無事通常空間へと復帰したらしい。


「ぎゅっ!!!」


続いて皇樹も前衛的に着地する。頭から。


「ここが……ウトガルド本社…………!?」

じめじめと薄暗く照らされた室内をキョロキョロと宗彰は見回す。

ベッド、管理用パネル、むき出しの便器、鉄格子……この素敵とは言いがたい情景から察するにどうやらここは牢獄に出てきてしまったようである。お互いの尾を噛み合って絡み合う二匹の蛇に象られたウロボロスの紋章が、格子の鍵穴部分に刻印されている。


「あの蛇の紋章は……ウトガルドのロゴ……。確かに此処はウトガルドの内部みたいだな。」


「いてて…最終アクセスポイントから察するに、かな〜り本社コロニー内部のほうまで入り込めてるはずなんだけど……それにしても侵入したとたんに牢屋の中なんて……僕らってぞっとするほど運がイイね……うへぇ、トイレ流してない……。」確かに、侵入するやいきなり籠の鳥とは間抜けもいいところだな……宗彰は自嘲気味にため息をつく。まあいいや。たとえ敵の本拠地といえど、あの忌まわしきI・N・Tネットワークよりはマシだ。なんせ地に足をつくことができるのだから……。

 それにしても……鼻がもげそうな独房特有の臭気に宗彰は端正な顔を歪ませる。快適な気分とはとてもいえない。

「行こう。こんな処にいたら病気になる。……破っ!!!」

青剣の切っ先を鞘走りさせて勢いづけると壁に大きく円を描く。と、残光そのままポッカリ格子が刳り貫かれる。

「……ひゅ〜。お見事。」

 おそるおそる、暗い通路へと歩を進める。鋼鉄の壁が続く閑散とした通路に人の気配はない。見張りもいないなんて……。

「こ、ここここ怖いよう〜〜〜。そ、宗彰っ、僕は武技も魔力もからっきしなんだからなっ、しっかり守ってくれよぅ〜〜〜!!!」

「ひっつくなよ……」

 皇樹がひしと背中にしがみついて来るので大変歩きにくい。

 迷宮のように入り組んだ通路を見わたす。見張りなど無くても、道しるべ無き迷い人はこの蛇の腹の中でゆっくりと消化され、決して生きて返れぬのではないだろうか。

 ここまで来れるものは、外部侵入者はおろか、ウトガルドの社員にも限られた者たちだけなのだろう。牢にも囚人の姿はない。


……いや、


一人だけ、独房の床に金髪の女が寝こけている。そのガサツな寝相さえなければ、なかなかの美人だ。しかし・・・。

うぐ……、こんな不潔な所でよく眠れるなあ。よっぽど図太い神経の持ち主らしい。

「うっひょ〜〜〜っ、グラマーなネエちゃんのМ字開脚っ……!!! 僕鼻血出そう……。」

皇樹が背後から飛び出ると、鼻の下を五メートルくらい伸ばして少女のもとへとダッシュする。恐怖心はスケベ心に勝てなかったらしい。……ある意味凄い。

「テメエッ!!! 俺様の体に指一本触れるんじゃねえよっ!!!」

皇樹が少女の肢体を覗き込んだ瞬間、ガバリと少女が身をはね起こす。  

「んぎゃあっ、ごめんなさいごめんなさいー!!!」

「んふ〜〜〜……なぁんだ、アサリの詰め合わせかよ…………むにゃむにゃ……」

どさりと女が倒れるとまたいびきをかいて爆睡しだす。ただ寝ぼけていただけらしい。どこまでも神経の図太いやつ。一体なんでこんなところにいるんだろう……。ちょっとだけ宗彰は不思議に思う。

「ね、寝言……!?」

「………………。行こう……」


敵の中枢だ……。些細なことを気にしていたらキリが無い。




***



「ぐおっ!!!」

「がはっ!!!」

「あーれー助けてモモたんーっ!!!」

兵士二人、不幸にも居合わせてしまった研究者風の男一人が景気よく吹っ飛んでいく。

重鋼な扉のトラップを解き、ところどころで出っくわす見回りの兵士や研究員を首尾よくぶっ飛ばしながら2人は順調に奥へ奥へと進んでいく。I・N・Tネットワークでの物理制約から解き放たれ、絶好調の宗彰の武技が炸裂していく。

レベルアップ音まで聞こえてきそうである。

「一応三対二で不利なんだからお前も加勢してくれよ……」

「無理!! 無理無理無理無理!! なに言ってるのYOU全然苦戦して無いじゃん!! 化け物並みの強さしてからに!!!!」

だからといって戦闘の度に足やら背中やら頭にしがみついてこないでほしい……。確かにしっかり掴まってろとは言ったけどさ。心の中でこっそり宗彰は呟く。

とはいえ皇樹もお荷物というわけではない。戦闘でこそミミズのように這いつくばって震えているが、例の光のキーボードでウトガルド情報バンクへハックし、ドアロックの解除にマッピングにと活躍している。彼の助けが無ければこうもスムーズに進むことは出来なかっただろう。それに、頼られるのもまんざら嫌ではない。

「宗彰の背中ってがっしりしてて頼りになるなあ……僕、なんだか宗彰に惚れちゃいそう……。」

「駄目―――――――――っ!!!!!! それは駄目!!!!!!!!」

そこはしっかり否定しておこう。光の速さで皇樹の腕を振り解くとずんずん進む。

「ま、待ってよ宗彰、冗談だよ〜っ!!! 今は冗談って事にしておくから!!!」

慌てて皇樹が追いすがる。なんだか“今は”という言葉が異様に気になったが、しぶしぶ着物の袖をつまむのだけは許可した。

 さらにいくつかのロックを解き、皇樹でも解析できない扉は宗彰がぶち破って進んでいくと、薄暗く鋼鉄製の回廊から、白く清潔に保たれた通路へと景色が変化する。

 宗彰達がいまさしかかっているのはどうやら何かの研究施設エリアのA棟という処らしい。いくつか通り過ぎた白いライトに照らされた無機質な小部屋には、そこかしこに見慣れぬ装置が並ぶ。巨大な脳幹の形をした電脳コンピューターやら、縦横無尽に絡み合ったパイプ、機械と融合した魚人の泳ぐ水槽、もうなにがなんやらわからない巨大装置などがずらり並んでいた。

人影もグンと増えた。しかしそのほとんどが兵士ではなく研究者である。

 大概の研究者達は宗彰や皇樹といった外部者への警戒心……というか興味がないらしく、果敢にも皇樹が道を尋ねてみたところ親切もにトイレの場所から社員食堂お勧めメニューまで教えてくれさえした。なんでも、本社へ転勤してきた人は必ず一度は迷子になるらしく、彼はそういった迷い人を教え導くのが生きがいらしい。


「相転移発生制御装置……? この研究棟全体がそうだけど。え、メインシステム?? …………ああ、R‐UR:1型のことか! あそこの中央エレベーターを使えば一気にいけるよ。でも、最下層セントラル・ゲブラーエリアへは確かSSS上級研究者の認証とパスワードがないと入れないはずだけど……。」


「大丈夫!!! 持ってますから!!!」

皇樹が胸を張ってSSS上級開発者のカードを掲げる。先ほど牢獄付近でぶっ飛ばした研究者の懐から失敬したものである。

「ええっ!!! 君ら若いのにずいぶん優秀なんだなあ……。それとも、もしかしてクレアさんの若いツバメだったりして!?!?!? ……ん? そういえば君、なんだか雷樹星の天才科学者オウキに似ているような……んんんんん?」

「やっ、気のせいっ、怒涛のように気のせいっすよー!!! いやっ、いやいやいやどうも御親切にありがとうございまシタ!!!! 今度社員食堂に行った時はウトガル丼をぜひ食べてみます!!!!」

研究者がなおも首を傾げるなか、逃げるようにエレベーターへ飛び込む。


「ああああぁぁぁあ危なかった……!!!」

「おまえって天才科学者だったんだな……。」

 ゆっくりと、エレベーターが動き出す。


 ヒュゴコォン………………。


 ガラス張りのエレベーターがチューブ状の柱の中を、最奥部めがけて下降してゆく。エレベーターは巨大な円形の吹き抜けの淵にくっ付くような形で設置されており、宗彰は巨大な闇の深淵へと落下してゆくような錯覚を覚える……。めざす最奥部は遥か闇の底のほう。

急速な降下にキン、と微かに耳の痛みを感じた。




………ココン…。








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