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第五夜◇I・N・T 窮地

うまく力を出せないI.N.Tネットワーク空間に宗彰は戸惑いを感じるが…

なにはともあれ、ホッと一息ついた二人である。順調にナビシステムに従って右や左に空中を進むうちに、光の渓谷はだんだんと細く入り組み、遥かに切立った虹色の崖が露出する。


「もうすぐ着くはずなんだけど……」

皇樹が呟く。

「皇樹」

不意に、宗彰が口を開く。

「うん?」

「なんでまた私についてこんな危険な任務に付き合ってくれたんだ?」

「な、何を、僕は姉上に無理やりにだな……!!」

「皇樹なら、送り込まれた国境付近で通常空間に引き返そうと思えば引き返せたんだろ?」

「う……まあ。」

「じゃあ何故人一倍臆病で戦いが嫌いな皇樹がこんな白兵戦に?」

 不思議だった。確固たる執着のある自分に比べて、皇樹がこんな危険な死地に飛び込むまでの理由はない。

「そ、それは、宗彰が………」

「私が……?」

「う……やっぱなんでもないっ!! そ、そっちこそ、宗彰は何でこの任務引き受けたんだよっ? 逃げようと思えば逃げれただろっ!」

「わ、私は……雷樹星を守りたいから。」

「うえーーーー? 三日間熟成させたパンツくらい臭いセリフだなあーー」

「うっ、うるさいなっ!!ほっとけよ!!!」

「っはぁ、もぅ。そーしょーはいつも自分が自分がって根つめちゃってさぁー。YOUがあんまり真剣な目をしてるから僕は引き返すに引き返せなくなっちゃったんだろ〜〜〜。……おかげでとんでもない初恋のトラウマを抱えることに。」

「皇樹…………すまない、私のために。」

驚きだった。皇樹がそんな理由で危険な任務をかってでるなどそうないことだ。宗彰の視界の光が滲み、揺らいだような気がした。


「っだーーーーーっ違う違う違う!!! だからべつに宗彰のためじゃ無いってば!! 僕の僕による僕のための行動なの!!! 自分会議でちゃんと可決されてるの!! それに、謎の新兵器もこの目で拝んで見たいしね!!!!! だから、そんな潤んだ瞳で僕を見るなって!!!!」

「……………!?」

気のせいではない。確かに視界の端が揺らいでいる。今度はもっと大きく光が揺れ、空間に歪みが生じていく。

「だっ、何だよ急に黙りこくって!!! ハッ、まさか宗彰、おいらに惚れたんじゃなかろうな!!!? だっ、だめだぞ僕にはそっちの気は………ぎにぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!」

「皇樹!!!」

突如宗彰が皇樹に覆いかぶさる。感極まって禁断の世界に踏み込んだ……わけではない。すぐ脇を光弾がかすめ飛んでいく。光の揺らぎから大軍勢のグリフォンと兵器群が現れたのだ。ダメだ宗彰僕は女の子のほうがああ〜れ〜、などと意味不明な言葉を吐く皇樹を抱え込むと遥か上空へとジャンプする。直後それまで二人の居た場所は一瞬にして爆炎と劫火の海へと化した。

「囲まれた……!? くっ、僕としたことが……特化障壁展開!! 迎撃ウイルスソフトウェア発動!!!……無効化されただって!?!?!? そんな、どうやって僕のパスワードを!?」

「この数はマズイな…… くそっ、もう少しだってのに!! 剣技、雷咲百乱!!」

稲妻の精霊を宿らせ強化した剣撃が吼える。ほとばしる雷撃が敵の何体かを倒す。

「……!?」

宗彰は首を傾げる。さっきもそうだ。本来ならこれくらいの敵、一撃で半数近く一掃できるはずなのに。……I・N・Tネットワークでは物理攻撃が効きにくい!?

すぐに新手が現れ立ちふさがり宗彰たちに火炎放射を放つ。戦況は悪化の一途である。

「どぅあ熱ぁじゃじゃじゃじゃじゃじゃっ!!!!」

炎が皇樹の尻につく。

「うーむ、……調子狂うな。」

「あうーあうーあうー……見えたっ……!! 宗彰、あそこに見える渦巻きが出口だっ!!なんとかあそこまでたどり着ければっ……!!!」

 前方二百メートルほどのところ米粒大に、白い光点が渦をなしているのが目を凝らしてなんとか確認できた。

「なかなかぞっとしない距離だな……よし、何とか活路を切り開くから一気に突っ切るぞ!!!」

「ダミーホログラムとカメレオン光学迷彩障壁展開。数秒なら騙せるはず。」

「行くぞ!!! 飛龍雷撃!!!」

宗彰が気合を込めて正面へ剣を突くとその切っ先から稲妻がほとばしり、輝く竜となって慟哭すると行く手を阻む兵器群をぶち抜いて駆け抜ける。

「いまだ!!!」

刹那開いた活路を一挙に突き進む。焼け付くような熱気に肺が痙攣するがかまっていられない。ウイルスバスター達は迷彩障壁に守られた宗彰達には目もくれず反対側へと逃げるダミーホログラムを追う。

あと200メートル……150メートル……ウイルスバスター達がダミーホログラムを引き裂く……あと100メートル…………ダミーに気付いた兵器群が激昂し猛烈なスピードで引き返してくる。………あと50メートル……30メートル……あと少し…

…………………20……


……………10……


…………8… …


………5……


……4……


3…




ガンッ!!!!!!



突如、宗彰の全身が、見えない壁にぶつかった。

「なんてこった宗彰!!! プロテクトウォールだ!!!!」

「なんだって!?」

宗彰は慌てて壁を押すが、堅固な壁はビクともしない。すぐ背後にはグリフォンが、もう手を伸ばせば爪が掠りそうな距離に追いつかんと差し迫っている。

「うわうわうわうわ!!! 解除パスワード解析……は時間がかかりすぎるし……破壊ウイルスプラグラム……は無効化されてる……!!! ぎゃああああ今度こそ死ぬぅぅぅーーーっ!!!」

 皇樹が悲鳴をあげ宗彰にすがりつく。くそっ、こんなところでくたばってたまるか……。宗彰は剣のグリップを強く握り締める。彼の深い湖底の瞳に、漆黒の炎が宿る。

「……私の背中にしっかり摑まっていろ、離すなよ。」

重く静かに皇樹に告げると、神経を集中し渾身の力を込めて剣を打ち下ろした。鮮烈なスパークがプロテクトウォールに炸裂する。見えない壁はしかし鋼鉄のように剛健に立ちふさがり、ほとばしる電撃は逆に彼の身を焦がす。

「無茶だ!!! いくら宗彰でも物理攻撃の制約されるこの空間で、プログラムの補助無しにプロテクトウォールを穿つなんて!!!」

内臓がひっくり返るような衝撃に耐えながら、皇樹は友の背中へと呼びかける。しかし彼はさらに寸分たがわぬ一点へ正確に三連撃を加え、切っ先をねじ込もうとする。

「む、無茶だろうがなんだろうが……守るべき者があるかぎり私は進むしかない、ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおあっ!!!」

宗彰の気持ちに呼応するように青剣が蒼い波動を発し脈打つ。と、刹那、プロテクトウォールにほんの僅かに皹が入る。

「うっ、ウソだろっ!?」

「いっけええええええええあ!!!!!!」


ガシャアアアアン!!! 


氷の鏡を割ったような轟音と共に白く光を放つプロテクロウォールが砕け散り、丁度二人が通れるくらいの穴が開く。瞬間、背後に追いついたグリフォン達の鷲爪が襲い掛かる。しかし紙一重でかわすと白い光の渦へと踊りこむ。一瞬にして世界が静寂の真っ白な闇に包まれ、くるくると吸い込まれていく………………。




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