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第一夜◇襲撃


 ウルドレイクインダストリーが小さな星間貿易会社だったのを覚えている人は、今となってはそう居無いだろう。


 今や巨大銀河間軍需財閥と成長したウルドレイクインダストリーは、新兵器の開発を期に突如、次々と惑星を侵略し始めたのだ。


 新兵器―…無限のエネルギーかと思われる火力を有し、そして総てが謎に包まれている。


 その巨大な力の前に多くの星はなすすべもなく征服され植民星となるか、誇りを捨てずに抵抗するも焼き払われ死の星となる道しかなかった。


 しかしながら辛くもウルドレイクに拮抗しゆる力を持つ星もあった。



雷光星。



 物語は雷光星の、軋むような星空の夜から始まる…




 ※※※



ブリッジにでんと置かれた、青い球体の巨大スクリーンが、せわしなく銀河の天気を映し出す。


光点が画面の隅でシラシラと瞬いてはシュッと消えてゆくのを、彼-宗彰は、見るともなしに眺めていた。


はっと息を呑むほど美しい青年だ。


瞳の色は深海を思わせる濃いブルーで、白い着物をふわりと着流し、長く伸ばした黒髪をてっぺんで纏め、さらりと流している。


しかし、美しい容姿にそぐわぬ肉付きのよい体と、ぼんやりとしている様でどこか隙の無い姿勢が、彼が武術にも長けている事を物語っていた。

そう、彼はこの帝星の第1位皇位継承者。いわゆる王子様というやつだ。

その力ゆえ、そして実力ゆえ、彼は今、王都防衛の指揮を任されている。



ふと、ひとつの紅点が彼の目に止まった。


すぐにカタカタと慣れた手つきで手元のコンソロールパネルを叩き始める。




「はいはい、ワロスワロス!!!今日も宇宙は隕石びよりぃ〜ッ!!」


…違うよ?

この美しい青年が言ったわけじゃないからね!

物憂げな雰囲気を見事にぶち破って、一人の男が足取り軽くブリッジに入ってきた。瞳は南国の海のブルー、髪はパサパサした茶色、どこか血統書付きのダックスフンドを思わせる、親しみやすそうな笑顔が売りの好青年だ。

そうそのまさか、彼は第2皇位継承者で宗彰とは従弟同士である。機械系統に異常に詳しく、情報処理の総指揮をとっている。

茶髪くんはフンフンとご機嫌にコンピュータの合間をぬって歩いていたが、宗彰がブリッジに残っているのをみつけてキャッと顔を覆った。


「宗彰!!タコみたいにレーダーにへばりついてないで、ちょっとは息抜きしたらどうなのさっ!?」


茶髪くんは宗彰の手を止めようと、コンソロールパネルにベダッと覆いかぶさった。

宗彰が顔をしかめる。

皇樹(おうき)…!!ソコちょっとどいてちょんまげ…。まだ少し気になる所があるんだ。」


宗彰が美しい眉をひそませて皇樹をひっぺがそうと肩を掴んで揺さぶる。


「うぐ、お馬鹿っ! 僕ちゃまの敷いた警戒壁システムは、カンプェキなの!!!宗彰こそ、僕の可愛いコンソロパネルちゃんにべたべた触んないでくれるかなぁ!きったない指紋が付くからさぁ!!」

「何いってんだよ、ちょ、それチクビ変なボタン押してるから!ホラどかないと鼻にネギ突き刺して変なオブジェにするぞ!」

「ぅぐぅぅう…」

皇樹もなかなかの抵抗力を発揮してパネルにへばりついていたが、宗彰が本気の目つきで懐からネギを取り出したのを見てしぶしぶ離れた。


「ううう…、宗彰の馬鹿ぁ!!!毎日毎日警戒警戒警戒…、ちょっとぐらい僕と遊ぼうよぅ!!!レーダーなんかじゃなくて女の子にへばりつきに行こうよう!!ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!ねぇムーミンこっち向いてよぅ!!!」


「いや、昨夜の襲撃があったばかりだし、撃退したにせよまだまだ油断できない状況だ……あと私は人知れずへばりつきに行くから。恋愛秘密主義だから。」


「うわぁぁぁぁあん、宗彰の馬鹿ウンコーーー―ー!!頭カチカチウンコ――ッ!!!!宗彰なんか、宗彰なんか…………大好きだぁぁぁあ…ン!!!!!」




皇樹は涙をだばだば流しながら、階段を3段飛ばしで下り、べーっと舌を出すとフィッとスクリーンを見やった。彼のまわりに次々と宙に浮かぶウィンドウが開いてゆく。と、不機嫌な彼の顔がぱっとほころんだ。

「わぁ、領域20000内敵機なぁし! やっぱり僕ちんの警戒プログラムは完璧だね!!!」

ほっとした顔で宗彰を見やる。

「…う〜ん…」

「どったの?」

「…静かすぎないか?」

ここ連日の敵の猛攻。絶えずこの星付近の宇宙のどこかで激しい戦闘があった。しかし今、敵は完全に息を潜めている。本来喜ぶべきなだが、さきほどからそのことに宗彰は妙な胸騒ぎを感じていた。

「あっはーん、宗彰、心配しすぎだってっ!こんな…星の…綺麗な夜に……敵襲なんてナイナイナイナイナイナイ!!!!!もし今敵襲があったら僕、みんなの前でフルモンティになってみせるね!」

皇樹が笑いながらデスクをばしーんと叩いたその時、






どがぁぁぁぁぁああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!






突如、凄まじい爆発音と共にビリビリと床が振動した。モニターに一斉にDANGERの文字が点滅し、警戒アラームが鳴り響く!!!

めまぐるしく点滅するモニタを見ながら、オペレータの少女が早口で状況を逐一報告する。

「敵襲です!レベルAA!…D区画に被弾、相当数の被害。敵、フェイズドアレイレーダーには反応ありません!!解析苦中…アンノンです!!!…宗彰様、指示を!…宗彰様!?」


「脱げぇぇえ―っ!!! 今ここでフルモンティになれぇえェエ!!!!」


「キィヤァアアアアごめんなさいごめんなさい許してぇえ―!!!」


どがごおおおおおおおおん!


ずがぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああん!


次々と襲い来る爆撃にブリッジがビリビリと波打つ。爆発のたびに強い衝撃がブリッジを襲い、オペレータの可愛こちゃん達が悲鳴をあげてパネルに掴まる。ウィンドウに被害報告が殺到し、燃え盛る街が映し出される。


「ぜ、全員戦闘配備に着け!!Pー5Cを距離2000まで全機展開。宮殿方面へは殲撃11を展開!!D区画は怪我人をシェルターへ、残ったものは消火にあたって! ちょ、皇樹!脱いでないで敵の位置をなんとか割りだせ!!!」「了解。はぁあ〜、今夜も寝かせないつもりかいセニョリー、情熱的だねぇ・・・」


皇樹がはだけた着物を直しながらスクリーンへかじりつく。軽口を叩いているものの、その目は真剣な鋭さを帯びていた。


宗彰は、青い球体スクリーンの隅々まで目を凝らした。しかし、何処にも敵らしい光点は無い。画面の上では、宇宙はいたって平和そのもの。そんな馬鹿な!現に街は炎の海だ。敵の位置が分からなければ、追い払いようが無いじゃないか!!!




「…P‐5C状況を展開中…20パーセントが撃墜されました。あと6分で壊滅します。A、O、G区画火災発生、D,U…反応がありません!!きゃ…動力機関被弾!出力30%ダウン」


「な・・・」


今までの攻撃の比ではない!!!まるで…これじゃまるで…鷹に挑む雀じゃないか!


「変異機関パワーダウン、防御壁表層80パーセント消失・・・!あと10分持ちません」


「しえええええええ!!!僕の愛しい防御壁 『万防御ん(まんぼうぎょんごう)』ちゃんがぁぁぁぁぁ!!!!あの夜君のすべてを見た真夏の僕の青春がああああ・・・・・!!!!」


皇樹が悲劇そのものといった感じの悲鳴をあげて泣き崩れた。そういえば彼は去年の夏、防御壁のプログラムも担当していたのだ。

ドォン…ドォン…ドゴォオン

だんだんと、振動が激しくなる。

都に、街に、見たこともない稲妻が降り注ぐ。もうスクリーン越しではなく、窓の外にはっきりと、青白い閃光が。



「そっそそそそ、そうしょおっ!このままじゃ防御壁がぶっこわれて僕のガラスのハートが粉々にぃ!!!ついでに王都も粉々にぃぃい!!あぁあぁぁ、青い稲妻が僕を責めるぅぅう!!!」

皇樹がなかば錯乱状態でシャウトしている。そりゃあ、あれだけDANGERのウィンドウとスクリーンに囲まれれば、ゴキブリ風呂に突き落とされた時の次に絶叫だろう。

宗彰は半ば唖然と、ただ燃え盛る王都を眺めた。背筋に嫌な汗が吹き出し、こめかみに鈍い痛みが走る。

もう一度だけ、とレーダーを見る。反応無し。もういい、目を閉じる。

敵は…いったい何処に…?なぜ姿が見えない…?

………いや、これだけの威力、たとえ敵の姿が見えた所でさして結果はかわらないだろう。

燃え盛る都の光景が脳裏をよぎる。

また…また自分は何も出来ないのかな?

いや…

守りたい…

この胸に、まだまだまだまだ

守るべきものが映る限り。


「今は王都の防御を最優先せよ。残りの全動力を防御壁に回してくれ。足りない分は私が補おう……。」


深海を思わせる青の底、ゆっくりと開いたその瞳の奥に、漆黒の炎が燃えている。



     ※※※





「うーん…、あの稲妻は敵の母艦から相転移されたものじゃないかなぁ?」

皇樹が、宗彰には呪文にしか見えない数字の羅列を見て呟いた。


あのなすすべもない大敗から一夜明け、あたりは今、つかの間の平穏と静寂が支配している。

「相転移…?」

予想外の言葉に宗彰は皇樹の座るデスクをみやった。

彼のデスクのには今、『万防御ん号ちゃんのお墓』と書かれたアイスの棒が突きささっており、何故か大量の花束とじょがりこ、ヘプシコーラが供えられている。

「そう、つまり瞬間移動。昨日はどんなに探しても敵さんの反応が出なかっただろ?僕も敵さんが巧みにレーダーから身を隠してると思ったんだけどね、それじゃあ余りにも計算が合わないんだよ。母艦から発射した攻撃をここまでワープでぶっとばして、直接叩き込んできたんじゃないのかな?」

そう言うと皇樹はひょいと机に手をのばし、じょがりこを綺麗に一本一本整列させだした。真剣そのものである。彼なりに思うところがあるのだろう。

「瞬間移動…な、もしそれが本当なら、なんちゅう手間と金のかかる事を…」

「ブブブブブブ―――ッ!!!はずれっ、全然ハ・ズ・レ! セクハラ親父のチョイ悪テクぐらい的外れ―っ!!逝ってよし!!」

強烈な雄たけびとともに、ブリッジに一人の女性が入ってきた。聡明そうな明るい藍の眼、きっと彼女は笑うと世界一美しいだろう。腰まで届く美しい髪なにやら激しく興奮しきりである。

「ぅげええ…、あ、姉上…」

「げ、百合霞さん…」

「うげぇぇ、じゃない!! せぇっかくこのお美しく頭脳明晰なおねいさまがぁ、宮殿から駆けつけてきたんだから!!ハイ、もっと歓迎する!!!・・・あら気が利くじゃない!」

そういうなり彼女はじょがりこをむんずと掴むとバリバリっと豪快にむさぼった。皇樹の顔が、ムンクの叫びと見分けがつかないほど引きつっていることには微塵も気づいていないようだ。

続いてヘプシコーラをブハァと飲み干す。

「チェリーな坊や達におねいさんが教えてあ・げ・る…。ひとぉつ、エロのことばっかしか考えてないあんたらの考えが、当たるわけなぁい!!!ふたぁつ、お空に残った粒子からは時空相転移の痕跡は見つかりませんでしたわけですよ!!!  みーっつ、私はポテトよりも今ケーキが食べたぁい!!」

さあ、感謝しろとばかりに胸をはる彼女に、悪気のわの字でもあったならまだ怒れるのに…いやいや、ここは笑ってジョークにするのが大人のダンディズムだぞ、と宗彰は苦笑した。

「上等だコラ…今度はバケツ一杯のケーキを食わせてやるよ!…下剤がたっぷりはいった…な。」

-

どうやら皇樹には、彼女の行為を笑って大人のジョークにするダンディズムはなかったらしい。きっとあと5秒

で、万防御ん号ちゃんの墓のアイス棒を姉上の鼻に突っ込むだろう。

「で、でも、じゃあ一体なぜ敵の姿が感知できないのでしょう…?」

慌てて宗彰が言葉を繋ぐ。


「ふふふ・・・それはね坊や・・・・」

「それは・・・・・???」

二人が身を乗り出す。



「女の子なのよ!!!!」






・・・・・・・・は?


女の子?





    ※※※







―…コココン…………ポコン……コン…

青青青青、青また青。淡い…青。波と光の境目がぼやっと霞んで、何も届かなくなったその先も。

唇からポコ、と小さな泡が溢れた

ゆらゆら上っていくその粒を、長い睫の隙間からボゥッと見上げる。

あぁ…温かい………春みたいだ……あぁ…なんだか…とても…眠た…い…ん……………………………・・・

―……………ぅ……………………………・・・

…コココン……. ゜。゜ 。 。゜o  。゜O






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