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第一章:4人の警官

「それで護衛として付いて来たの?」


私の問いに荒鷲は、壁に背を預けながら頷いた。


暗殺者としての性か、この女は壁に張り付いているの。


だけど、飛天を直ぐに護れる位置に居るし、尚且つ死角を遮っている。


まぁ、ロケランでも撃たれない限り、この窓を破る事は出来ないけど。


家の中に入った飛天と私たち。


私は先ず荒鷲がどうして飛天と共に来たのかを訊ねた。


荒鷲が言うには会議の中で飛天を狙うという情報が入って来たので護衛として来たらしいの。


「俺は良いと言ったが、こいつが断固として聞かないんだ」


飛天は煙草を蒸かしながら荒鷲を見た。


「貴方様はご自分の事に対して何処か無鉄砲です」


平坦な声だけど、何処か説教する口調で荒鷲は飛天に言った。


「部下なのに容赦ないわね」


仮にも主である飛天に対して容赦ない言い方だ。


「この方を想ってこそ言っているのです。それに・・・先ほど変な連中が来るのが見えたので尚更です」


「例の暗殺集団かしら?」


ウリエルが葉巻を吸いながら、窓を見た。


「恐らくそうでしょう。明らかに眼が“澄んで”いましたから」


「汚れていたのではないの?」


「大抵の者は、あの手の者たちの眼は汚れていると言います」


しかし、自分のような汚れ仕事をした者には澄んで見えると言った。


「どうせ、自分達の行いは正義の為、社会の為、民の為、と思っているからだろうな」


だから、多少の犠牲はしょうがないし出ても当たり前。


そんな考えを持っている、と飛天は断言した。


「・・・・・・・・」


ウリエルは何処か哀しげな瞳で飛天を見た。


自分が過去にやってきた事に対して、飛天に罪悪感を抱いたのだろう。


昔の彼女も、今の奴等と同じようなものだったからね。


「・・・・お客様が来たわ」


ウリエルは哀しい瞳から冷たい瞳に変えて窓越しに外を見た。


「何人だ?」


「4人です。拳銃を腰に下げた制服警察官です」


ウリエルは窓越しから見えた人数と服装を飛天に説明した。


「油断させるつもりかしら?」


私が訊く。


「かもな」


飛天は私の質問にぶっきら棒に答えながら煙草を蒸かしている。


まったく気にしていない。


何処吹く風だ。


まぁ、たかが4人如きでやられるほど弱くないから来る余裕ね。


「私が行きます」


ウリエルはスカートのポケットに入れておいた6連発式リボルバーのコルト・ローマンを取り出した。


ローマンとは法執行人の意味で裁判官も務めていたウリエルにはピッタリの拳銃よ。


弾倉ラッチを前に押してシリンダーを外に出して弾が装填されているのを確認したウリエルは手でまた戻した。


それから玄関に向かった。


「・・・気を付けろよ」


飛天は灰皿に煙草を捨てて、意味も無い言葉をウリエルに投げた。


でも、それがウリエルには嬉しいのか喜々とした顔で頷いた。


「さて、鬼と出るか蛇と出るか・・・・・・・・・」


飛天は徐に椅子から立ち上がり腰のホルスターから愛用のモーゼルM712を取り出した。


もうかなり昔に作られた拳銃。


セミ・オートとフル・オートが可能な銃で、ストックを取り付ければライフルとしても活用できる。


でも、大きいし嵩張るし金も高いという最悪な条件を持っているから殆どまともに相手にされなかったわ。


それでも飛天にとっては良い銃であり恋人だけどね。


「久々の銃撃戦ね」


私は、楽しみだと言いながら愛用のコルト・パイソンを取り出した。


「パイソン357マグナム。随分と凝った銃を使いますね」


荒鷲は私のパイソンを一瞥した。


「貴方は何かしら?」


私が訊けば、荒鷲はスーツの懐に手を入れた。


そして左腋から出されたのは“コルト・ゴールドカップナショナルマッチモデル”だった。


黒いスライドは磨き上げられた強化スライドで、グリップ全体には滑り止めの溝が掘られていた。


最高級のガバメント・モデルを更に改良した物。


この銃はコルト・ガバメントを更に改良し、尚且つ命中精度が高い銃身を採用した上で各部品も熟練工が加工したから最高よ。


弾は45口径で申し分ないし、ね。


まさにお墨付きとでも言えば良いかしら?


私のパイソンと並んでコルト社の最高級の代物よ。


「貴方も凝ってるじゃない」


荒鷲は私の言葉を無視してコルトのスライドを引いた。


これにより初弾が装填されるの。


コルトを右手に持った荒鷲は壁から離れドアに張り付いた。


「主。隠れていて下さい」


「いや良い。それよりウリエルの方は、どうだ?」


「・・・坊やたちと話しているわ。えーと、マルセイユの署長が食事に誘っているらしいわ」


私は窓越しからウリエルと4人の警官達の様子を飛天に言った。


「わざわざそんな事を言いに4人で来たのか?」


飛天は丸っきり信用していない口調で私に言ってきた。


嘘でしょうね。


大体、あの署長なら自分で出向いて来るわ。


それを部下に行かせるなんて有り得ない。


つくづく、詰めが甘いわね。


「・・・どうやら、帰ったようよ」


坊やたちは何処か憮然とした様子で帰って行った。


暫くしてウリエルが戻ってきた。


「どうだった?」


「1時間ほど前に銃を撃った様子です。血の臭いもしました。それに、車には、アサルトライフルもありました」


淡々とウリエルは自分が感じた事、見た事を私達に説明した。


「なるほどな。てことは、斥候辺りか」


「でしょうね。何も知らずにのこのこ敵陣に乗り込むほど向こうも馬鹿じゃないらしいわ」


パイソンの撃鉄を戻して、ホルスターに仕舞った私は煙草を銜えた。


「どうするの?」


「さぁて、どうするかな・・・・・・・・」


飛天も自分の煙草を銜えて考え始めた。


「我が主。あの者たちの始末は私にさせて下さい」


荒鷲が飛天に頼みこんできた。


「お前に?」


「私の仕事は汚れ仕事が専門です。何より、あの者たちの眼を見ていると、無性に腹が立つのです」


暗殺はあくまで、汚れた仕事。


それをさも綺麗な仕事と思っている辺りが、暗殺者として許せないのだろう。


「別に良いが、一人で良いのか?」


「ご安心を。必ず、全てを処理します」


「分かった。では、お前に処理を任せる」


「御意に」


「よし。では、頼む」


荒鷲は頷いた。


「飛天様。私もその仕事、受けたいです」


ウリエルが飛天に近付きながら、自分もやりたいと言ってきた。


「これは私の受けた仕事です。貴方がやる必要は無いです」


「保険よ。万が一、貴方がしくじるかもしれないし何より・・・私は貴方をまだ信頼していないから」


「・・・・・良いでしょう。ただし、足で纏いにはならないで下さいよ」


なったら、その時は消すと荒鷲は冷たい声で断言した。


「それは私もだから安心して」


ウリエルも冷たい声で断言してみせた。


まるで喧嘩の売り言葉に買い言葉だわ。


心底、呆れながら私は飛天を見た。


『私も参加して良い?』


目で聞いた。


恐らくこの二人なら今日中に犯人を見つけ出して、地獄に連れて行けるだろう。


だけど、かなり手荒い方法で、間違えば冤罪物だ。


それを考えるとストッパーとして私が一緒の方が良い筈だ。


別に、面白そうだから参加する訳じゃないからね?


まぁ、少しは考えているけど。


『そうしろ。クレセントは鵺より冷酷だ』


あの忍者より冷酷とは恐れ入るわ。


鵺と言うのは、飛天に仕える忍者なの。


飛天だけが主で唯一、命令を下せて生命の権利があると公言する男なの。


そこまで心酔しているのよ。


鵺という男は。


一歩でも間違えれば危険極まりない男。


まぁ、飛天の敵に回るというのは、万が一にも有り得ないけど。


で、その鵺よりも冷酷であると言わせたクレセントこと荒鷲。


『どんな仕事をこなして来たんだか・・・・・・・・・・・』


恐らく、想像も出来ない仕事をして来たんでしょうね。


なんて考えながら、私は煙草を吸った。


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