表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爬虫類  作者: 霏紫
3/3

首輪



浩孝ひろたかに睨まれたくありません」

「だめ。一人酒の侘しさは、つまみにならないのよ」

「…………」


M.Cは諦めて、涼子りょうこの傍らに腰を落とした。

グラスに口を付けて、涼子りょうこはにたりと笑った。うん、と唸って、まるで命の酒を得た乞食のように、ちびちびと飲む。


酒が尽きると、またM.Cに作らせた。しばらく、沈黙の帳がおりる。


不意に、涼子りょうこは、十一杯目を作って差し出したM.Cの腕を捉えて、おとなしく捉えられままのM.Cを机に突き倒した。背骨と木がぶつかって、M.Cが息をつめる。


机に上半身を横たわらせたM.Cの上に覆いかぶさり、涼子りょうこはその首筋に唇を寄せた。

M.Cの首に嵌められた大きな銀の首輪に舌を這わせ、その錠前の鍵穴に舌をねじ込ませようとする。


金属の断面は柔らかな肉に容易くも傷をつけ、唾液と血の混ざり、M.Cの首にぼたりと落ちた。M.Cが体を揺らし、緊張に体を強張らせる。

愉悦を含んだ微笑で眺め、涼子りょうこはM.Cの右鎖骨にキスマークを付けた。



「……その首輪がなかったら、よかったのにさ。あたしが、あんたを貰うのに」

「…………だめ。あなたは、『違った』」


M.Cの堅い声音に、涼子りょうこは唇を引いた。

M.Cは、その首輪を、友人や家族には見せもせぬくらい大事にしている。


涼子りょうこがM.Cの首輪に触れることが出来るのは、偏に『正解した』やつと兄弟関係にあるからだった。


「M.C。来年のバレンタイン、チョコレートくれ」

「わかりました、塾帰りに買ってきます」

「手作り希望なんだけど」

「無理です面倒くさい」


素気無く言い返し、M.Cは上体を起こした。涼子りょうこもM.Cから退いて、十一杯目のグラスに口をつけた。M.Cは砂糖の溶け残ったグラスを手に、キッチンに向かった。



「ほっときなよ、あんな薬中。アルよりゃマシだけど、薬だって十分危ないもんよ」

「……レモネード、作らないと」



M.Cはまた、砂糖をざらざらと水面に盛る。さきと同じように、ずぶずぶと徐々に沈んでいくのを茫として見守る。それが沈みきってもその背に注がれる視線に負けて、M.Cはため息をついて言った。



「ほっとけない。私は、浩孝ひろたかの彼女だから」

「別れておしまいよ。ここに居ても、幸せにはなれないよ。さっさと、学校にいる連中みたいに、なぁんも知らない顔して、表に帰ればいい」



突き放したような酷薄な物言いに、M.Cは苦笑いした。それが出来るなら、苦労はしない。首にかかる重みが、逃げを許さないから、M.Cは帰ることができない。


そして、M.Cもまた、それを望みはしない。

それは、涼子りょうこも解っている。解っていて、それでも口にしたのだ。何かの気まぐれで、M.Cがその首輪を打ち捨てる日を夢見ている、涼子りょうこ自身の望みのために。


「………できるなら、苦労はしないわよね。あんたは、ずっと、『正解』を探してたんだから。今更、手放すなんて――出来ないよね」

「はい。出来ません」


「でも、あたしは、あんたに幸せになってほしい。こんなとこに居たら、何も……何も、出来ないよ。あいつなら、あたしが何とかするからさ」

「………レモネードを届けて来ます。深酒はだめですよ」



諒子りょうこの言葉には答えず、M.Cは諒子りょうこをおいて寝室に向かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ