第7話:リベリオ殿下の世話は私がします
「リベリオ殿下、先ほどメイドたちの心の声が聞こえるとおっしゃっていましたが、どんな声が聞こえるのですか?私の声は聞こえますか?」
リベリオ殿下に話しかけた。
「ああ、聞こえる。でも君の声は聞こえないよ。それに父上や母上、兄上たちの声は聞こえない。ただ、使用人や今までやって来た王宮魔術師たちの声は聞こえたよ。皆僕に対する悪口ばかりね。“気持ち悪やら、妖怪やら。こいつの傍にいたくないとか…”毎日毎日、そんな言葉を聞かされていたら、こっちだって気が狂いそうだ…」
「なるほど、もしかしたら、リベリオ殿下に関する負の感情のみ聞こえる呪いがかかっているのかもしれません。ちょっと失礼いたしますね」
リベリオ殿下の手を握り、魔力を集中させる。でも…
「申し訳ございません。今の時点では、そういった呪いを感じ取る事が出来ませんでした。とにかく今判明している呪いから解いていきましょう。そうすれば、おのずとそういった呪いが見えてくると思いますので」
負の感情に関する心の声が聞こえる呪いがかけられている可能性は高いが、呪いがはっきりしない今、解く方法も調べられない。ただ…酷い暴言を毎回聞きながらお世話されるのも、殿下の心が持たないだろう。
何よりリベリオ殿下に負の感情を抱かせる環境は良くない。呪いを助長させるだけだ。それなら…
「リベリオ殿下、今まで随分とお辛い思いをして来たのですね。でも、もう大丈夫ですわ。殿下の呪いが解けるまで、ある程度のお世話は私が行います。呪いを解きやすくするためにも、殿下には心穏やかでいてくれないといけませんし」
「でも…これ以上君に負担をかける訳には…」
「私にそんな気を遣わないで下さい。さあ、食事にしましょう。料理長がちゃんと食べやすいお料理を出してくれていますね。まずはスープから」
早速スープをスプーンですくい、殿下の口に運ぶ。うまく口を動かせないのか、ちょこちょこ口から食べ物がこぼれ落ちるので、その都度タオルでふき取る。それにしても、ハエが邪魔ね。
体を清潔にする魔法をかけてみたが、呪いに跳ね返されてしまった。やはり根本でもある呪いを解かないとダメなのね。
「すまない、僕のせいでハエがたくさん飛んできて」
申し訳なさそうに殿下が呟く。
「あなた様のせいではありませんわ。全て呪いのせいです。今必要な薬草を手配しておりますので、もう少々お待ちください」
「呪いを解くのに、薬草を使うんだね。なんだか本格的だな」
「魔法と言っても色々とありますから。特に呪いを解く場合、薬草を使う事も多いのです。ただ…」
「ただ?」
「私はあまり薬草を使った魔法が得意ではなくて…何度か魔力の調整を誤って、爆発させたことがあって…」
「爆発だって!」
「でも大丈夫ですわ。外で行いますので。それに沢山薬草を手配しておりますので、いくつかは成功するでしょう」
そう言って笑ってごまかした。本当に成功するといいのだが…と、都合の悪い事は心の中で呟く。
「そんな危険な魔法を僕の為に…ティア嬢、どうして僕の為にそこまでやってくれるのだい?確かに僕はこの国の第三王子だ。僕の呪いを解けば、報酬もたくさん貰えるだろう。でも、ファリスティ伯爵家はお金には困っていないだろうし…」
不思議そうな顔で私に語りかけるリベリオ殿下。
「実は私、王宮魔術師になりたいのです。でも、年齢的にまだなれなくて。そんな中、陛下や王太子殿下が、もしリベリオ殿下の呪いを解いたら、私を特例として王宮魔術師にしてくれるとおっしゃって下さって!王宮魔術師なれば、1人でも生きて行けるし、家としても名誉な事でしょう。大好きな魔力の勉強を、お金をもらいながら出来るうえ、お父様からも結婚しろと言われなくなるのですよ。このチャンス、逃すわけにはいきませんわ!それに、あなた様の呪いにも興味があるのです」
私は王宮魔術師になって、一生大好きな魔術の勉強をしながら暮らすのが夢なのだ。その為にも、リベリオ殿下の呪いを解く必要がある!そんな思いから、ついリベリオ殿下に迫ってしまった。
「なるほど、今の君なら、この国の王宮魔術師よりずっと知識も豊富だと思うよ。すぐに魔術師長になれるのではないかな」
「まあ、殿下ったら。魔術師長だなんて!」
そんな嬉しい事を言ってくれるだなんて、この人、噂通りのいい人なのね。とにかく今は、殿下の呪いを解く事に集中しないと。
「さあ、殿下。残りの食事を食べてしまいましょう。それから、どこか体が痛い所とか、何か気になる事はないですか?」
「そうだな、足腰が痛いよ。でも僕は、かなり歳を取ったおじいさんなんだろう。そのせいかもしれないな」
「やっぱり呪いのせいで、痛みがあるのですね。少しマッサージをすれば、痛みも和らぐのかしら?」
そう思い、足と腰を魔法でマッサージをする。
「なんだか気持ちいいね。ありがとう、ティア嬢」
「どういたしまして。それから殿下、お着替えを行いましょう。と言っても私は一応令嬢なので、ご自分で着替えられますか?魔法を使えば簡単に出来ると思いますが」
「ああ、着替えは大丈夫だよ。ティア嬢、今更だけど、どうして僕にわざわざ食べさせてくれるのだい?魔法を使えば、簡単に食べさせられるのに…」
「なんででしょう?私にもよくわかりませんが、昔お爺様が“人に食べさせてもらうと、いつも以上に美味しいんだよ”と言っていたことを思い出しまして。魔法を使うより、こうやって自分の手を使って召し上がってもらった方が、より美味しいかと思いまして…」
私達はつい便利な魔法に頼ってしまいがちだ。でも、こうやって自分で食べさせる方が、なんだかいいような気がした。
「ティア嬢は優しいんだね。こんな僕だけれど、これからもよろしくね」
「はい、もちろんです」




