第23話:ティア嬢はやっぱり最高の女性だ~リベリオ視点~
そう思った時だった。ティア嬢が一歩前に出たかと思ったら、物凄い速さで空中に魔法陣を書いたのだ。するとその魔法陣が、溢れんばかりの光を放ち、黒い靄の行く手を阻んでいる。
「くっ…」
必死に押し戻そうとしているティア嬢。しばらく光と黒い霧がぶつかり合う。その光景を、皆が固唾をのんで見守っていた。
そして…
「キャァァァァ!!!」
ティア嬢が書いた魔法陣に押し戻された黒い靄は、そのままキャロル殿下をめがけて飛んでいき、キャロル殿下は悲鳴を上げながら靄に包まれていく。
「ティア嬢、大丈夫かい?」
フラフラとその場に倒れそうになったティア嬢を抱きとめた。
「ええ、私は大丈夫ですわ。それよりも、キャロル殿下は…」
かなり魔力を使ったのだろう。顔色もあまり良くない。それでもなんとか立ち上がり、フラフラとキャロル殿下の元に向かう。すると。
「キャァァァ!化け物ですわ!!」
靄が消えるとともにその場に現れたのは、この世のものとは思えない程、醜い姿をしたキャロル殿下の姿が。あの時の僕とは比べ物にならないほど、ツンと鼻に付く臭いがする。これは酷いな…
「あぁぁ、なんて事を…私の美しい顔が…」
その場に座り込み、こちらを睨んでいるキャロル殿下。正直近づく事をためらうほどの臭いと、恐ろしい姿をしている。こんな恐ろしい呪いを、再び僕にかけようと思っていたなんて。本当に恐ろしい女だ。
そう思っていると、何を思ったのかティア嬢が真っすぐとキャロル殿下の元へと向かう。
「どう?自分が準備した呪いに、自分がかかった感想は?」
「ふざけないで頂戴…なんて事をしてくれたのよ…」
「なんて事をしてくれたは、リベリオ殿下のセリフでしょう。あなたの身勝手な嫉妬によって、彼がどれほど傷つき苦しんできたのか、分かっているのですか?人の人生を何だと思っているのよ!!」
珍しくティア嬢が、怒っている。彼女が怒る姿何て、初めて見た。それも僕の為に、怒ってくれているのだ。
「うるさいわね…あの男が…私との結婚を断ったからいけないのでしょう?それよりあなた、魔術師なのでしょう…早く呪いを解いて頂戴…」
「それは無理ですわ。私はまだひよっこなので。実際リベリオ殿下の最後の呪いを解いたのも、私の師匠です。それに、誰があなたなんかの呪いを解くものですか。そもそも自分でかけた呪いでしょう。ぜひご自分で解いて下さい」
「この役立たず…別にあなたに解いてもらわなくても、私には優秀な魔術師が付いているから、問題ないわよ…」
話すのも辛いのか、息も途絶え途絶えで話をするキャロル殿下。それでも気の強さは健在の様で、ティア嬢を睨みつけている。そんなキャロル殿下を、虫けらでも見るかのような冷たい眼差しを浮かべていたティア嬢が、クスリと笑ったのだ。
「役立たずで結構ですわ。私、あなたの様な人間が一番嫌いですの。せいぜいその姿で、自分が行った愚かな行いを反省するとよろしいですわ。そうそう、あなた様の相方の魔術師さん、今頃私の師匠に捕まっている頃でしょうから、彼に助けを求める事も出来ませんから」
満面の笑みでティア嬢がキャロル殿下にそう伝えている。
「ちょっと…それはどういう事よ。それじゃあ、私はどうすれば…」
「どうするもこうするも、あなた様はそのままブルシャ王国に強制送還されるまでです。今私の部下が、ブルシャ王国の国王陛下を迎えに行っていますので。それにしても、酷い臭いですね…」
姿を現したのは、ダラス殿だ。近くには縄で縛られたフードを被った男の姿も。
「そんな…どうしてあなたが捕まっているのよ…それじゃあ私は…イヤ、誰か助けて。あなた達、優秀な魔術師なのでしょう…お願い、助け…」
フラフラとこちらに来ようとするキャロル殿下だが、ダラス殿が何やら魔法をかけると、これ以上来ることはなかった。どうやら見えない結界を張った様で、キャロル殿下の声も聞こえないし、臭いも落ち着いた。
「ティア、よく頑張ったね。君が呪いを跳ね返してくれたから、計画はすべてうまく行ったよ。こいつも捕まえられたしね」
ティア嬢の頭を撫でるダラス殿。
「ダラス殿、計画とは?」
「実はリベリオ殿下にかかっていた呪いの多くは、我がキブリス王国に伝わる禁断の呪いだったんだ。だからきっと、キャロル殿下の裏には、キブリス王国の人間が隠れていると踏んでいてね。それに万が一呪いが解けた場合、キャロル殿下にわかる様になっていたから。呪いを解いた後、もう一度リベリオ殿下に呪いをかけるため、キャロル殿下と協力者が現れるのではないかと踏んでいたいんだよ」
「それじゃあ、ティア嬢もダラス殿も、キャロル殿下が再び現れる事を知っていたのですか?」
「黙っていてごめんなさい。でも、せっかく呪いが解けて喜んでいらしたリベリオ殿下を、また不安な気持ちにさせたくなくて…」
申し訳なさそうに頭を下げるティア嬢。
「ティアはね、今回の話を聞いて、“私が絶対にキャロル殿下の呪いを跳ね返して見せますわ”って、意気込んでいてね。よほど君に呪いをかけたキャロル殿下が憎かったのだろう。私の厳しい訓練にも、必死について来ていたよ」
「それじゃあ、毎日朝から晩まで2人で籠っていたのは、僕を助けるためだったのかい?」
「お恥ずかしいながら、取得に随分と時間がかかってしまったので…」
なんと!僕の為に、ティア嬢は毎日訓練場に籠っていたのか。それなのに僕は、醜い嫉妬心を抱いていただなんて…
「ティア嬢、ありがとう。僕の為にここまでしてくれるだなんて。本当にありがとう」
嬉しくて涙が溢れ出す。
「私はただ、リベリオ殿下を苦しめたキャロル殿下が、どうしても許せなかっただけですわ。呪いをかけられた人間がどれほど辛い日々を送らなければいけないのか、これから身をもって体験してもらいましょう」
ティア嬢がチラリとキャロル殿下の方を見た。ティア嬢は僕の為に彼女に復讐をしてくれたのか。
やっぱりティア嬢は最高だ。僕には彼女と歩く未来しかない!これからは彼女の為に、人生のすべてを捧げよう。そう誓ったのだった。
長くなりましたが、リベリオ視点はこれにて終了です。
次回からはティア視点に戻ります。
もう少しで完結ですので、よろしくお願いしますm(__)m




