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Blut und Boden


 「本日、私はここに集った支持者ではなく、画面の向こうで私を非難し、嘲笑している者たちに語りかけよう。

 諸君は意外に思うか? それとも、私の支持者諸君ですら戸惑っているか? よろしい、ならば宣言しよう。私は現代の誰よりも、この大地と、我々を取り巻く気候変動に深い関心を持っている。


 諸君らは、常に『偏見を捨てろ』と念仏のように唱えているな。ならば、今日だけはその言葉を自分自身に適用してみるがいい。偏見を捨てて歴史を紐解け!


 かつて諸君らが『ナチス』と蔑み、忌み嫌う我が政権こそが、現代のどの政府よりも真剣に、そして何より『現実的』に自然保護に取り組んでいたという事実を! 我々にとって自然とは守るべき『血と土』の象徴であり、空虚な政治スローガンではなかったのだ。


 ひるがえって、今日の政府を見よ。滑稽な茶番だ!


 彼らは電気自動車を熱狂的に推進しながら、その電力を生む原子力には反対するという、救いようのない矛盾に浸っている。これが知性ある者のすることか? 断じて否だ。


 この無策な政策が何をもたらした?


 ドイツの環境政策を数十年後退させただけではない。エネルギーコストを跳ね上げ、インフレに喘ぐ善良なドイツ国民の首をさらに絞めているのだ! これはもはや政策ではない。自国民に対する『弱体化工作』であり、国家に対する裏切りである!


 諸君、目を覚ませ。


 太陽光パネルが国民を暖めるのではない。風車が子供たちの腹を満たすのではない。


 真の環境保護とは、国民の生活を犠牲にする『自己満足』であってはならない。強く、自立した国家のみが、その大地を守る資格を持つのだ。


 私は今、再び問う。


 矛盾した理想に殉じて凍える道を選ぶのか。それとも、現実を直視し、再びこの大地に秩序を取り戻す道を選ぶのか!」


 しばしの沈黙の後、彼はつづけた。


 「……しかし、諸君。この無能かつ怠慢な政治家どもが運営する、見るに堪えない現代のドイツにおいて、唯一、かつての私の時代と比較して圧倒的に優れている事柄がある。


 それは、情報の入手が驚くほど容易になったということだ。


 私がかつてドイツを率いていた時代、正確で有益な情報を手に入れるためには、膨大な公文書をひっくり返し、多大なる労力と時間を費やさねばならなかった。情報は特権階級の手にあり、真実への道は険しかった。


 だが、今はどうだ?


 諸君らのポケットの中にあるそのスマートフォンを見よ。その魔法の小箱は、諸君らがほんの少しの意志と労力を払いさえすれば、瞬時に『真実』へと繋がることができる。


 テレビのニュースで語る無能な学者どものバイアス(偏見)がかかっていない、生の情報だ!


 彼らは自分たちの利権を守るために、不都合な真実を覆い隠し、諸君らを欺き続けている。だが、アルゴリズムの海を泳ぎ、自ら検索する賢明な諸君らを、もはや誰も縛り付けることはできない。


 私は繰り返そう。


 『偏見を捨てろ』という諸君らの大好きな言葉を、今こそ実践するのだ。


 その手元の端末で調べてみるがいい。かつての私の政権が、どれほど真剣に、どれほど情熱的に環境保護と自然回帰に取り組んでいたかを!


 そこに記されているのは、今日の無能な政府が打ち出すような、現実を無視した矛盾だらけの空論ではない。科学と意志、そして国家の誇りが融合した『本物』の環境保護政策だ。


 諸君、既存のメディアや学者の解釈というフィルターを通さず、自分自身の目で確かめよ。


 真実は隠されているのではない。ただ、諸君がそれを見つけ、認めるのを待っているだけなのだ。

情報を手に入れろ。そして思考せよ。


 真の自由とは、無能な統治者の嘘を見破る力のことである!」


 

 エリアス・ウェーバー...大学生である彼はその動画を視聴していた。彼は週末には気候変動対策のデモで先頭に立ち、SNSでは人種差別や不寛容に反対するメッセージを熱心に発信する、典型的な現代の良心的な青年であった。


 最初にその男――アドルフ・ヒトラー風の男がYouTubeの推奨動画に現れたとき、エリアスは反射的に強い嫌悪感を抱いたのだ。


 「最悪だ。ディープフェイクを使ったネオナチのプロパガンダか?」


 すぐに動画を報告しようと通報をタップしかけたが、男が発した「原子力と電気自動車の矛盾」というフレーズが、エリアスの動きを止めた。


 それは、エリアスが環境保護運動の内部で、仲間たちから「空気を読め」と一蹴されてきた、しかし拭いきれなかった疑問そのものだったからだ。


「……偏見を捨てて調べてみるといい。かつての私の政権は、今よりも真剣に、そして現実的に環境保護に取り組んでいた」


 男の声は、かつての記録映画のような金切り声ではなく、深く、落ち着いた説得力を持ってエリアスの鼓動を揺さぶりました。エリアスは抗えない好奇心に駆られ、画面を閉じることができなくなったのだ。


 男の言葉に従い、エリアスは検索を始めた。


 Reichsnaturschutzgesetz(帝国自然保護法) 1930年代 ドイツ 動物愛護

検索結果には、知る由もなかった歴史の断片が並んだ...1935年に制定された先駆的な自然保護法。当時の徹底した森林管理の思想。

彼が「進歩的で正しい」と信じていた環境主義のルーツが、より力強く、より妥協のない形で、自分が「絶対悪」と定義していた時代に存在していたという事実。


 エリアスの背中に冷たい汗が流れ落ちた。


 ナチスは悪だ。それは歴史が証明している。……でも、今このヒトラーのコスプレ男が言っている『情報』までもが悪なのだろうか? 情報を色眼鏡で見ることこそ、僕が最も嫌っていた『不寛容』や『無知』ではないのか?

 

 エリアスは無意識のうちにその動画を非公開のプレイリストに保存した。



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