食卓
ルーカス・ミュラー 夕食の席にて
金曜日の夕食の食卓、パパがキッチンでサラダを混ぜながら息子に今日の学校はどうだった?と問いかける。
ルーカスはリビングの椅子に腰かけてスマホを操作するのに夢中になっている...耳にはワイヤレスイヤホンをしているので父親の問いかけには気が付かなかった。
母親が息子を注意しようとしてルーカスが手に持っているスマホを覗き込んだ時...母親は衝撃を受けたのだ...
息子、ルーカスがとんでもない動画を視聴していたのだから。
「諸君、見ろ! この無様な政治家どもの姿を!彼らは法律という名の鎖を持ち出し、諸君の手からスマートフォンを奪おうとしている。なぜか? 彼らが諸君を『守りたい』からだと? 嘘だ! 断じて違う! 彼らが恐れているのは、諸君が繋がることだ。諸君の指先ひとつで、彼らの無能さが瞬時に世界へ暴かれることを、彼らは震えて待っているのだ。これこそが最高の喜劇だ!
今の政府の連中は、朝から晩まで私の名を呪い、ナチスを『自由の敵』だと糾弾している。独裁を排し、言論を守ると、耳に心地よい念仏を唱えながらな。
だが、見ろ。その彼らが今、何をしている?
彼らは諸君の子供たちの手から端末を奪い、その口を塞ごうとしている。若者からSNSという発言の場を奪い、情報を統制し、彼らを従順な羊へと変えようとしているのだ。
かつて私が言論を統制したとき、彼らはそれを『悪の所業』と呼んだ。ならば聞こう。現代の政府が子供たちの指先から世界への窓を奪い取ることは、一体何と呼ぶのだ?
彼らは『保護』という甘い言葉で包み隠しているが、その本質は『恐怖』だ。若者が、自分たちの嘘や無能さを瞬時に拡散し、既存の腐った権威を笑い飛ばすことを、彼らは死ぬほど恐れているのだ!
ナチスを否定しながら、ナチスと同じ手法で若者の思考を囲い込もうとする。これこそが、現代の民主主義という名の化け物が見せる、究極の偽善ではないか!
彼らは私を『怪物』と呼ぶが、少なくとも私は、自分が何をしているかを隠しはしなかった。だが今の奴らはどうだ? 自由というマントを羽織りながら、その下でこっそりと検閲の鎖を磨いている。
若きドイツの諸君よ。諸君の言論を奪う者は、諸君の未来を盗む者だ。彼らが私の名を引用して諸君を脅すなら、こう言い返してやるがいい。
『我々の口を塞ごうとするお前たちこそが、お前たちが軽蔑していたはずの過去の影、そのものだ』とな!」
リビングに彼の力強い演説が響いた。母親が青ざめた顔で息子に問いかける。
「これ..アドルフ・ヒトラー!?なんて動画を!?ルーカス!何度も言ったでしょ!極右のプロパガンダに触れちゃダメだって!多様性を否定する悪魔の思想よ!」
そして父親がルーカスからスマホを取り上げようとした。
「没収だ。1か月...いや3か月。お前はまだ10歳だぞ!こんな毒に染まるなんて...」
父親が、震える手でルーカスのスマホを掴もうとしたその時、ルーカスは椅子を蹴り後退し、父の目を真っ直ぐに見据えて言い放つ。
「待ってよ、パパ!パパはいつも言ってるよね?『すべての人間には、自分の考えを持つ権利と、情報を得る自由がある』って。それともそれは、パパが気に入った情報だけに適用されるルールなの?」
その言葉に両親は驚いた、自分たちの息子がこんなにも自分の主張を言葉にすることは今までなかったからだ。
「それは……! でもこれは別だ、ルーカス。これは憎悪を煽る有害なコンテンツなんだ。君を守るために――」
父親の言葉に母親が続いた...
「ルーカス、なんて言い方を……そんな言葉、どこで覚えたの?」
「僕はもう、パパたちの『従順な羊』じゃない。パパは『多様性を認めろ』って言うけど、僕がこの動画を見る自由という『多様性』は認めないんだね。パパの言う自由は、パパの許可がいる自由なんだ。……そんなの、偽物だよ!」
ルーカスは玄関のドアを勢いよく開けて飛び出した。
自分が頼れる両親以外の存在...ひいお爺ちゃんの家まで全力疾走で走ったのだ。




