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移民


 諸君、道端の異邦人を責めて何になる?


 彼らを呼び寄せ、空手形を掴ませ、放置したのはこの国の政府だ。


 彼らもまた、リベラリズムという甘い毒に釣られた犠牲者に過ぎないのだ!



 メフィト・カヤ トルコ系ドイツ人2世 タクシー運転手


 客が減った、特に夜は酔ったドイツ人が乗ってくると「外国人は帰れ」などと絡まれることが増えた気がするのだ。以前は冗談で流せたけど今はすこし空気が違って感じる。


 スマホでニュースを見るとあのヒトラーそっくりの男の動画がおすすめに出てくる。最近はものすごい勢いで再生数が伸びているのだ。


 「……諸君、目を覚ますがいい。リベラリストどもが説く『多文化共生』という名の美しい幻想は、今やこの街を、そして君たちの生活を修復不可能なほどに引き裂いた!


 だが、勘違いしてはならない。私は、あそこに立っている異邦人の男を憎んではいない。彼もまた、故郷を追われ、甘い言葉でこの『偽りの楽園』へ誘い込まれた犠牲者の一人なのだ。


考えてもみたまえ。


我々は『良き隣人』になれる。互いの生垣越しに挨拶を交わし、互いの文化を尊重し、平和に共存することは可能だ。


 だが、同じ一つの家に住むべきではないのだ!


一つの鍋を無理やり奪い合い、互いの習慣を押し付け合い、ついには憎しみの中で朝を迎える。そんなものは『愛』でも『人道』でもない。ただの『無責任な監禁』だ!


彼らには彼らの誇りある家があり、我々には我々の守るべき家がある。


私は彼らを追い出したいのではない。彼らを『客』という不安定な立場から解放し、彼ら自身の『主人』になれる場所へ帰してやろうと言っているのだ。


これこそが真の慈悲であり、唯一の秩序である。


この家に、再び静寂と秩序を取り戻そうではないか!」


 メフィトは苦笑した、ずいぶんとこのヒトラーはうまいことを言うと思ったのだ。


 そして心のどこかでほっとした自分がいた...俺のせいじゃないって、俺たちのことを恨むべきじゃないといわれて安心したような気がしたのだ。


 「俺は、被害者だったのか……」


 自分を責める必要はない。悪いのは、実現不可能な夢を見せて自分をここに縛り付けた、この国の無責任なエリートたちなのだ。


 喉の奥につかえていた何かが、スッと溶けていくような感覚を覚えた。


 顔を上げると、バックミラーに映る自分の目は、先ほどまでの怯えを失い、どこか遠くを見つめている。


 彼はそっと「保存」ボタンを押し、アクセルを踏んだ。その夜、彼が客に投げかける「おやすみなさい」という挨拶には、これまでにないほど、ドイツ人への「親愛」と「境界線」が入り混じっていた。


 

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