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フェイクからリアルへ

 

 『ベルリン・フォーラム』放送翌朝、世界は昨日までとは違う太陽を仰ぐことになった。ネットの海に漂っていた「極上のフェイク」は、ザビーネの頷きと、トーマスの死骸を飲み込み、逃れようのない「実在する脅威」として地上波から全世界へ放流されたのであった。


 そしてついに大西洋の向こう側から、誰よりも早く、そして誰よりも「彼らしい」方法で反応が届くことになる。


 【アメリカ合衆国大統領の投稿(公式SNSより)】

「ベルリンで起きていることを見たか? 非常に興味深い! あの『A.H.』を自称する男、偽物のニュースキャスターや、気取った俳優(私を批判したあのトーマス・ベックだ!)を完膚なきまでに叩きのめした!ドイツのフェイクニュース・メディアは彼を恐れているが、彼は誰よりも真実を語っているように見える。彼が本物かどうかは重要じゃない。彼が『ドイツを再び偉大に(Make Germany Great Again)』しようとしていることが重要なんだ。私は彼と話してみたい。彼はエネルギー問題と、無能な左派エリートの倒し方をよく分かっている。ドイツの既存政治家たちは震えて眠るがいい。非常にタフで、スマートな男だ! #MAGA #MGGA」


 ワシントンから放たれた一撃は、デジタル世界の海に突き立てられた巨大な電磁杭だった。


 チャンネル登録者数のカウンター。それはもはや「数字」の体をなしていなかった。


 YouTubeの登録者数カウンターが、物理的な限界を超えたかのように跳ね上がり続けている。


 68,000,000……82,000,000……95,000,000……。


 一秒ごとに、一つの小都市の人口に匹敵する「意志」が、このチャンネルへと流れ込んでくる。カウンターの末尾は速すぎて視認できず、ただの光の線となって激しく回転し続けていた。


 アメリカ大統領のあのSNSへの投稿からわずか数時間。世界中のスマートフォンが、ベルリンのこの片隅から発信される「毒」を、救いの福音として一斉に飲み込み始めたのだ。


 ベルリンの高級マンションで、この数字を眺めていたザビーネ・フィッシャーは、手にしたシャンパングラスを床に落とした。砕け散るクリスタル。


 彼女が一生を捧げてきた「視聴率」という概念は、今この瞬間、過去の遺物と化した。


「……一国の放送局が数十年かけて築く功績を、短時間で、アルゴリズムの手を借りて塗り替えてしまったわ」


 ザビーネの瞳には、プラチナブロンドの髪を照らす青白いモニターの光が反射していた。


 一億人の登録者。それは、もはや単なるファンの数ではない。それは、「今の世界を一度壊してほしい」と願う絶望の総量であり、彼の指先一つでいつでも「物理的な暴力」へと転じる準備が整った支持者の数だった。


 


 

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