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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:


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6/7

長い一日の終わり

 

 私がハンカチをぼんやりと見ていたら、父が話しかけてきた。


「お前、本当に手紙を受け取っていたのか?」


「あ、ええ。そうです。ロイドに聞いてもらえば分かります。ここ最近手紙が多かったのを覚えているはずです」


 ロイド、あなたって素晴らしいわ。私は心のなかでロイドを褒めちぎった。


「それを私に見せようとしなかったのはなぜなんだ」


「初めはイタズラだと思いました。だからすぐに捨てていたんです」


 言い訳を探すうちに腹が立ってきて、私は言い訳するのをやめた。


「その手紙を見たら、お父様はどうしましたか?」


 言い返されて、父は再び詰まった。


「あなたは、実は愛人と結婚するための生贄なのだ、と書かれた手紙です」


 私は思い出しながら続けた。


「愛人を侍女に付けて、屋敷内で孤立させ、評判を落とさせ、じわじわ弱らせて殺す。そしてジェイソン様は妻を失った悲劇の主人公になる」


 私は自虐を込めてそう告げた。これは、まごうかたなく実際にあったままの話。

 静かに淡々と話しても、その凄みは父にも伝わったようだ。

 顔色を白くして、表情をなくしている。


 ジリッと体を寄せると、父は後ずさった。


「今日のお前はおかしい。早く休みなさい。話は明日だ」 


 そう言うと、足早に部屋から出て行ってしまった。



 シンとした部屋にぽつんと座っていたら、とても疲れているのに気がついた。

 今日はいつもの倍くらい一日が長いようだ。


「お嬢様」


 急に声がかかり、ビクッとした。そういえば、ベルがいたのだった。


「先ほどのお嬢様、ゾクッとするほど迫力がありました。私、息を殺していました」


 ベルは私に手を貸して立たせてくれた。


「部屋でお休みください。伯爵様もそうおっしゃいましたから、今夜は呼び出されることもないでしょう」


「そうね。疲れたわ」


 そう言った途端に、本当に疲れがドッと襲ってきた。

 

 その夜、夢を見た。夢のなかで私は、ウエディングドレスを着替えさせてもらっている。メリーと二人の侍女の三人が、着替えを手伝ってくれていた。


 式の余韻で私は少し浮かれている。二人の侍女も嬉しそうで、笑顔で話しかけている。

 侯爵邸の私の部屋は、花がたくさん飾られていて、明るく楽しげだ。夕暮れにはまだ少し早いくらいの時間で、カーテンは開け放たれ、風が心地よく吹き込んでいる。

 私はその窓の外、ベランダに立って、室内の様子を覗いているらしい。どうやら二人の私がいるようだ。

 

 外から見ると、室内の人物たちがよく見える。

 嬉しそうな私と侍女二人。

 メリーだけが、冷えた目で私を見ている。でも私はその視線に全く気付いていない。



 よく眠ったはずなのに、翌朝起きると眠気が残っていた。


 一度目の自分を夢に見たせいかもしれない。

 すぐ近くで、必死に忠告するのに、私は気付かない。

 夢だから当たり前だわね、と髪をかき上げて振った。


 私の髪は茶色のくせっ毛で、起き抜けにはくちゃくちゃになってしまう。それを防ぐためにナイトキャップを被るが、昨夜はそれがなかったのだ。

 編んで寝るのも面倒なほど眠かったので、珍しくそのままで寝てしまった。

 

 サラサラの髪を持つ人が羨ましいと、いつも思う。例えば妹のツヤツヤでサラッとした髪とか。


 兄にはこの髪の毛を、よくからかわれた。犬みたいだと言って、手を突っ込んでグシャグシャにされたことが何度もある。

 鏡を覗くと、ボサボサ髪の疲れた⋯⋯


 ……言い換えるわ!

 それなりに可愛い、18歳の乙女の顔よ。

 

 自分を卑下するのはやめようと、昨日夢の中で決めたのだ。

 下ばかり向いているから、あんなに分かりやすい、敵意を見逃すのだわ。

 

「ちゃんと顔を上げて、周りの人を見て――好意を持ってくれる相手と、そうじゃない相手を見分けるのよ」

 夢のなかで私は、声を振り絞って自分を叱責していた。


 今、鏡の中の私は、いつもより目をパッチリと開けて、真直ぐに前を見ている。

 薄い緑の瞳がうるうるして、結構きれいかもしれない。

 そうよ、悪くないわ。

 いつもは薄い緑で、なんとなく頼りなげな瞳だと思っていたけど、そんなことは無い。


 頬だって、唇だってピンク色だわ。最後の頃の私の顔は、くすんでいて色が無かった。

 それと比べれば、健康的で素敵よ。

 メリー嬢のようにぷっくりとした美味しそうな唇ではないけど……

 

 そうやってまじまじと自分の顔を眺めた。


 ベルがやってきたのは、それから三十分も経った頃だろうか。


「おはようございます。よく眠れましたか」


「おはよう、ベル。髪を直してもらえるかしら。すごく広がってしまって、どうしようもないわ」


「お任せ下さい。お嬢様の髪は膨らむので、結い方によっては豪華になるお得な髪ですよ。いつも地味にまとめるだけですけど、たまには華やかな髪形を試しませんか? 気分が変わります」


 いつもの髪形でいいわ、と言い掛けて、思い直した。


「華やかな髪形を試してみたいわ。任せるから、いつもと違う風にしてみて」


 ベルは最初驚いたようだったが、すぐに張り切って髪を梳かし始めた。ヘアクリームを付け、一部分を編み込んだりしている。白い小花を寄せ集めたような綺麗な櫛を差し込み、少し離れて出来栄えを確かめる。


「お嬢様、とても素敵です。白い花の櫛が、緑の瞳に映えます」


「本当ね。素敵だわ」


「しまい込んであるアクセサリーをいくつか着けてみましょう。きっとお似合いです」


 クリーム色のドレスに、おばあさまから譲られたエメラルドのはめ込まれたブローチを着けると、ボリュームのある華やかな髪形と相まって、思いがけないくらい華やかな雰囲気に仕上がった。


「朝食は、ご家族揃ってとる予定だと、ロイド様から伺っています。そろそろ朝食室に向かいましょう」


 家族全員での朝食、それはたまにしかないことだけど、私の結婚式の前日、つまり一昨日行ったばかりだ。

 いつもより少し遅い時間に、しっかりしたコースが出て、時間もかかる。

 やはり、昨日の事を聞かれるのだろうと、覚悟して朝食室に向かった。


「おはようございます」


 私が挨拶をして顔を上げると、全員が注目していた。家族だけでなく、使用人たちもだ。


「お姉さま、今日は雰囲気がいつもと違うわ。凄く華やかで綺麗」


 いつもは、どうだったのだろう。そう思いつつも、うれしかった。


「ありがとう。気分転換に、ベルに髪形を変えてもらったの」


 そう答えながら、癖で視線を下げてしまったけど、すぐに顔を上げて、妹のノエルに微笑みかけた。

 妹がまた驚いたように口を開きかけたが、お父様がその前に話し始めた。


「昨日の夜、ローズ公爵家のブライアン殿がいらっしゃったのは、皆知っているな。その時に話した事を伝えておく。今日、ディール侯爵家に話を聞きに行くそうだ。それから、もう一度我が家に話をしに来るので、それまではディール侯爵家と接触しないよう言われている」


 エリック兄さまが文句を言い出した。


「俺は昨日、友人共に囲まれて、どういうことだって聞かれて大変だった。実際どういうことなんだ。マリア」




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― 新着の感想 ―
家族がびっくりするくらいの屑っぷり。父親はだめだめですけど、理解できます。母親と兄は本当に人間として終わっていますね。特に兄。
婚約者もだけど家族全員ざまぁしてほしい バカ父は自分の頭脳のなさを自覚しろ
まだ主人公が大袈裟に騒いでるだけだと思っている父親と兄は主人公をナチュラルに見下してる。 早く主人公を侮って見下してたことを後悔して欲しいです。 と感情移入しながら読んでます。 読みやすくて素敵な…
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