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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第五章 ベルシア王マーカス

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マーカスー3

第1部の最終話です。

 

 それから半月後に、報告書が届けられた。

 多分妻と息子の二人で、何だかんだ言って引き伸ばすと思っていたのに、思いがけず早かった。


「あなたに早くお知らせしたほうがいいかと思って」


 そう言って、エラがわざわざ持って来てくれた。

 そこには彼女が半年前に亡くなったと記されていた。期待していたわけではない。今更会えるはずもない。

 だけど、身体から力が抜けた。


 しばらく、その文章の所で止まったまま呆然としていたが、ようやく書面の先を追えるようになった。

 彼女は持っていた宝飾品のほとんど全てを、孫娘の長女の方に譲っていた。その中に加護の石はあるのだろうか。

 もしかしたら、怒って捨ててしまったかもしれない。エリスは私をどう思っていたのだろう。


 その時、気が付いた――半年前。私が愛を失ったと感じた頃か。

 奇妙な一致だと考え込む私にエラが言う。


「この伯爵家に内密に打診してみますね。なるべく穏便な方法を探ります」


「手荒なことはするなよ。事情を話せば問題なく返って来ると思う」


「もちろんです」


 エラは大きな口を開けて笑った。


 

 私は、自分専用の密偵を動かし、エリスの今までの生活と、エリスの家族をもっと詳しく調査させた。

 私は元王で、抜かりなく国を治め、諸外国ともバランス良く付き合ってきた。その間に集めた忠実な家臣や密偵がいるし、諸外国にも伝手がある。

 

 エリスはありがたいことに、幸せな結婚をし、幸せに暮らしたらしい。

 楽し気なエピソードが並んでいる。嬉しいが悔しいという複雑な気分にはなったが。


 ただ一つ気になるのは、結婚の時期だ。

 私は一年半程後に、妻を伴ってリース国を訪れている。リース国の王族の結婚式だったか?

 彼女が結婚したのは、その数ヶ月後だった。


 彼女はたぶん、私の姿を見ているだろう。妻と一緒の私を。既に息子も生まれていた。

 前回訪問の帰国時の事故で、訪問中の記憶が無い事は、リース国側に伝えている。それも伝え聞いたかもしれない。

 それでも、私をずっと愛してくれるなんて、あるはずがない。


 彼女には息子が一人、孫息子と孫娘が二人いた。

 長女と次女の調書を読むと、長女の方にエリスのおもかげを感じた。


 ふと疑問が沸いた。あのエラが穏便な手など使うだろうか。そんなはずがない。それは、すぐに確信に変わる。

 マリア嬢が危険だ。


 そのこと以外でも、密偵の報告はあまり芳しい物ではなかった。マリア嬢の結婚相手に女がいて、子供までいると言う。

 エリスの息子は、こういった情報を確認していないのか? まったく頼りにならない。


 ムッとしながらマリア嬢の姿絵を見た。どことなくエリスに似ている気がする。


 彼女の姿絵を見ていたら、突然別れの日のエリスの姿が浮かんできた。

 私は彼女にペンダントを渡している。蕾の形の銀細工が下がっているペンダントだ。


「これは父から貰ったお守りなんだ。私を守って、願いを聞いてくれる。これに、君の想いを伝えてくれと頼もうかな」


「寂しい。早く会いたいって想いばかり、伝えてしまいそうだから嫌だわ」


「それじゃあ、楽しい事の報告なんてどうかな? 君が幸せなのが分かれば、僕は安心していられる」


「それなら、いいかもね。じゃあ毎日楽しい事を一杯見つけて報告するわ」


「それも辛いかな。立場上気軽に動けないのに、我慢できずに飛び出してきてしまいそうだ」


「じゃあ、小さな声で囁くようにって石に頼んで。それなら大丈夫でしょ」


 そう言って彼女は笑った。

 私は銀の蕾を握り、願いを伝えた。

 ――そうだ。

 石に願いを伝えるには、石を触らないといけないのだ。


 それから君に、「なるべく早く迎えに来るよ。待っていてくれ。絶対にだよ」と念を押した。


 君の想いが、私をずっと包んでくれていたのかな?


 重責への不安を漏らした時、私の背中を撫でてくれたように、そうっと優しく。

 君の事だから、私が心配だっただけかもしれないね。でも君の応援はずっと伝わっていたみたいだ。


 私はベルシアの王であることすら、君に伝えていなかった。

 君が石を持って会いに来ていたら、全てが違っていたかもしれないのに。

 愚かな、浮かれた若造だった私。


 だが、もう遅い。


 ――エリス



 しばらくうなだれていた後、私は立ち上がり、隠し戸棚から、契約の誓詞を取り出した。


 これは父の言っていた事態なのだろう。石がベルシアに戻っても、受け継げる者がいない。

 私が王太子を指名しても、石が彼を拒否したら、そこでベルシア王家との縁は切れる。そうなる予感がする。

 本当は、譲渡が途切れることが無いよう、内々で継承の儀式を行うのだ。私は十五歳で次期継承者の指名を受けている。石があれば、拒絶されるか、受け入れられるかは、すぐに分かる。

 もし、石が今まで彼女の想いを伝えてくれたなら、石は彼女を拒絶していない。それならいっそ、彼女の孫、マリア嬢に繋いでおこうと考えた。


 波乱の多そうな結婚への備えとして、それ以上にエラとベルシアからの守りとして、私からのプレゼントを彼女に。


 私は王位継承の時と同じ誓詞を述べ、それから石に心からの祈りを捧げた。


「私の次は、長年石と共に過ごしたエリス・ベールの孫、マリア・クルスに加護を与えたまえ」

 

 石が手元にない状態での継承の儀は始めてだが、これでいいはず。彼女が石に願いを伝え、石が受け入れれば、彼女を守ってくれるだろう。



 その後、ちょっとした風邪から私の体調が悪化し、そのまま寝付いてしまった。どうも、良くないようだ。

 すると息子は議会で、加護はマーカス前王から王太子に譲られることになったと宣言した。

 自分に譲られることは無いと知ったから。


 今の内に、石の譲渡について知っている事を、書き残して欲しいと言われている。

 その書類をニックに口述筆記で書き記してもらい、二種類作っている。

 一種類は、ベルシア王家の書庫に保管される。こちらには、あの時に息子に話した内容しか書いていない。


 もう一種類には、もう少し詳細な内容を書いた。継承の誓詞も、そこに記している。

 この書類は、忠実な従者であり、私の密偵のリーダーでもあるニックに託した。マリア嬢に、喪が明ける半年後に渡してもらう予定だ。

 その時には、私からの贈り物も一緒に渡してもらおうと思っている。


 リース国とベルシア国との国境付近にある、私の私有地を彼女に贈る。

 元々、エリスに贈るつもりだった土地だ。

 肥沃で裕福な土地で、価値は高い。身を守るための財産は多いに越したことはない。


 喪が明けると、私個人の私有財産遺贈の話が始まるはずだ。権利関係の書類は、きっちり作成させている。


 今後、その土地の管理は、ニックを始めとする、私に忠実な家臣団が行うことになり、彼らは次第にそちらに移住して行っている。

 マリア嬢に渡るまで、代理人に管理を任せ、間を置くようにした。これで、彼女が息子たちと直接揉めることはないだろう。


「ニック、色々と面倒だろうが、よろしく頼む」


「お任せください、マーカス様」


 私は、エリスに似たマリア嬢の姿絵を開いて微笑んだ。


「マリア嬢、幸せな人生を送って欲しいよ」





~~* べルシア国で弔問の鐘が鳴り響く朝のこと *~~



「私、どうしてここに居るの? これは、どういうこと?」


 クルス家のマリアの寝室で、小さな声が上がった。

 


  


【石の謎編】了


【石の謎編】マーカス前王のおかげでやり直しのチャンスを貰い、マリアは陰謀や危険と戦う人生に進み入りました。その介入が無ければジェイソンたちの企みは成功し、二人は晴れて結婚していたかもしれませんね。

 マリアを見守ってくださった皆様、ありがとうございました。感想も、誤字脱字報告も、凄くありがたかったです。


 エリスの話をマーカスの後に加える予定でしたが、長くなりそうなので、後日番外編などで出そうと思います。せつない話ですが、エリスはクルス伯爵をちゃんと愛して、幸せに暮らしましたのでご安心ください。

 

 第二部の王宮編は、準備期間をいただいて、3月22日からの週スタート予定です。活動報告を出します。

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― 新着の感想 ―
完結作品のランキングで来て読み始めました。 とてもとても面白く、続きがあるとのことで楽しみです。
あれ?隣国の王家、国王からその妃や妃の実家に息子まで愚か者しかいないのでは……?と思ってたけど、国王は意識を取り戻してから復活した。でも死んじゃったなら隣国はヤバいかもなぁ。まともかもしれないだけの孫…
2026/03/12 11:31 退会済み
管理
短編の後、こんな展開が待っているとは、、、わくわくドキドキ、夜中まで一気読みしてしまいました!! 第二部の始まりを一日千秋の思いで待っています。
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