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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第四章 石の謎

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37/40

混乱ー3

【石の謎編】のマリアたちの話の最終話です。

第五章にベルシア前王マーカスの話が続きます。もう少しお付き合いください。


「男の方が脆いのかもね。記憶を取り戻した王は、ひどくとり乱したそうよ。王太后様は、前王に対して愛情は無いけど、それでも腹は立つみたいね。だからあなたを不幸にしないと、気が済まないってさ」


 やっぱり、言いがかりか、八つ当たりだわ。

 腹が立って来て、鼻から息をフンッと吐いた。そんな私を、女は面白そうに見ている。


「話を引き伸ばしても助けは来ないわよ。爆破したのと反対の方向の厩舎や、使用人用の別棟にも仲間が火を放ったからね。騎士達はその救出に追われているはずよ。残念ね」


 言おうとした言葉が喉に詰まった。

 だけど、黙ったら殺される。


「とにかく石を渡すわ。それがもし探し物じゃなかった場合、私が死んでしまったら、ありかが全くわからなくなるけどいいの?」


「そう言えばそうね」


 女は少し考え込み、私から意識が逸れた。

 その時、目の端で何かが動いた。バルコニーの方だ。そちらを横目で窺うと、ドアとカーテンに隠れるように、護衛のダグが潜んでいるのが見えた。

 ダグは私と目が合うと、指を下に向けた。同時に「頭」と唇を動かす。


 私はすぐその場にしゃがみ込んで、頭を抱えた。

 女が私の動きに気付いたのと、ダグがガラス戸を蹴って室内に飛び込んだのは同時だった。

 

 バンッと大きな音を立て、部屋の入口のドアが開いた。そこから兄たちがドカドカと走り込んでくる。大人数の足音がいりみだれて、うるさい程だ。

 密偵の女は反対のバルコニー側を向いていたので、反応が遅れた。

 振り向いて、入口から走り込む男たちに向かい合う彼女の腕に、投げナイフが刺さった。


 女は刺さったナイフを取って投げ返し、そのまま素早い身のこなしでベランダに向かって走った。その時、テーブルの上に転がっているキャッツアイに目を留めると、それを掴み取り、ベランダから外に投げた。そしてその場に崩折れた。


 ザザザッと木が揺れる音がした。

 ここは三階だ。


 兄たちに続いてベランダに出ると、一人の男が庭園を走る姿が目に入った。あの高さから木を伝って飛び降りたらしい。石を受け取って逃げたのだ。

 

「マリア、無事か! 何かされなかったか? 油断してた。こんなに多人数で組織だった集団だと思っていなかった、俺たちのミスだ」


 兄が大声で言いながら、私の肩を掴んで乱暴に揺さぶる。

 心配してくれているのはよくわかるけど、やはり扱いが荒い。

 

「無事です。あ、でも、石を取られてしまったわ」


「そうか」


 兄の腕から私を引きはがしたのはブライアン様だった。その表情は悔しそうに歪んでいる。

 そのままギュッと抱きしめられた。


「油断した⋯⋯」

 小さく呟くその身体は、少し震えている。


 私は彼の背中をゆっくりとさすった。それにつれて彼の震えが少しずつ収まっていく。

 落ち着いた彼は、私から少し体を離し、顔を見つめた後、身動きできないくらいにギュッと抱きしめた。


 私はようやく身体から力を抜いた。安心したのだ。二人なら大丈夫だと思えた。

 ほーっと大きく息を吐き、そのまま彼にもたれかかった。


「アー。そろそろいいかな? 人前だしな」


 しばらく後に、兄にそう声を掛けられ、ぼんやりと周囲を見回す。

 騎士たちが、それとなくあっちこっちを向いて、見ない振りをしてくれている。

 そういえば、家の騎士たちに囲まれているのだった。私は慌ててブライアン様から飛びのき、兄の後ろに隠れた。


 女はあの男と同じように自害していたそうだ。死体が多すぎる。ベルシアとはどんな国なのだろう。

 騎士たちが引き揚げると、入れ替わりでベルとロイドが部屋にやって来た。


「お嬢様、なんてことでしょう。お怪我は?」


「無いわ。みんなのおかげよ。私、がんばれたわ」


 べルは何のことかわからないながらも、「それは、ようございました」と言い、青い顔のまま私の全身を見まわしている。

 私の様子を見に来たベルが、見知らぬ女の声と、会話の内容を聞いて、ロイドの元に走ってくれたそうだ。それを聞いたロイドが、庭に散らばっていた兄と騎士たちの元に、屋敷内にいた使用人たちを向かわせ、消火を交代させてくれた。

 そのおかげで、騎士達の半分が私の救出に向かえたらしい。


「幸いけが人は出さずに済みました。今日は豪華ディナーと酒盛りで、宿舎に戻っていた者も、寝ている者も非常に少なかったのです」

 そう教えてくれたロイドは、何事もなかったように、さっそく部屋の内部を確認し始めている。



「石は、正当な持ち主である王太子の所に戻ったんだ。これでこの一連の事件は決着した、と思っていいのかな」


 兄が少し疑問を混じえて言う。


「これで終わりならそれが一番だが、どうだろうな」


 ブライアン様も少し懐疑的だ。


「石に関する情報は、前王の事故の時に完全に失われていて、誰も詳細を知らないと言っていたわ。私が加護を受けていることは知らないままだから、これで王太子に加護が移れば、それで終わりになるのじゃないかしら。後はベルシアの王太后の気持ちが収まれば……収まるわよね?」


 私も、終わりだと断言できない。これまで二人から聞かされている王太后の執着は、そう簡単に消えそうに思えない。


 突然ブライアン様がきっぱりと宣言した。


「今日の件は、マリア嬢に譲られた家宝の宝石を狙った、盗賊団の仕業だ。賊は宝石の一つを盗んで逃走したことにする」


 兄がぴくんと反応し、それに続けて声を上げた。


「後から忍び込んだ賊が、こちらに捕まっている仲間を始末して逃げた。大掛かりで組織的な盗賊団の可能性もありますね」

 

 ブライアン様と兄が、いきなり近衛騎士の顔になっている。

 今日のこの騒ぎはということは、メリーとジェイソン様の件はどうなるのだろう。その疑問を読み取って、ブライアン様が続けた。


「あの男とメリーは盗賊団の一味で、ジェイソンを騙した事にする。仲間割れしてメリーが殺され、ジェイソンは薬を盛られて討たれた。男は流れ者で素性は不明。その自白内容は、私から上に報告する。エリック、話を合わせておこう」


「承知しました」


 私が呆然としている間に、話が二人の間でサクサクと進んでいく。


「クルス家にはしばらく騎士団を派遣する。マリア嬢は安全が確認されるまで、王宮にいてもらう。第二王子殿下の侍女としてだ。チャックのお世話係として、住み込みで働いてもらうことになるだろう」


 ロイドとベルはすぐに支度にかかった。

 ベルが私の私物をトランクにまとめ始める。たったの十日ほど前に、結婚のために詰めたばかりなので、動きにためらいがない。

 私のブラシと櫛、ナイトキャップにリボン。それにあの扇子。

 何もかもが結婚式の前に戻ったような光景。でも行先も事情も、私の気持ちもまるで違う。

 ただ一つ同じなのは、今後に危険が待っているかもしれないこと。


 ベルが中身のない銀の蕾を扇の芯に差し込み、器用に留め付けているのを、ぼんやりと眺めた。

 またふと、祖母はどんな気持ちでこの扇子を握っていたのだろう、という疑問がよみがえった。


 ロイドは、兄とブライアン様と三人で話し合っていたが、「伯爵様に報告してまいります」と言い置いて出て行った。


 ブライアン様は騎士の冷たい青い目のまま、私に向かって告げた。


「マリア嬢。このまますぐ、王宮へ向かっていただきます。ここでは守り切れない。ではベル、支度が終わったら声を掛けてくれ」


 指示をし終わると、ブライアン様はふっと息を吐き出し、髪を掻き上げた。黒い絹のような髪が、指の中をさらさら流れた。

 その一瞬の後、ブライアン様は私の腰を抱き寄せ、熱いまなざしで私の目を覗き込む。

 そして強い中に甘さの滲む声で言う。


「絶対にお守りします」




【石の謎編】のマリアたちの話はここで完結ですが、続いてベルシアの前王と石の加護の話が続きます。そこまでで、【石の謎編】は完結です。

全三話ですが、少し長いので、四話に分けるか考え中です。


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― 新着の感想 ―
自分か家族の安全を願えば良かったのに、何故願わなかったのかと思う。
べ、ベルが有能すぎる⋯⋯!! これマリアが大人しかった過去は大変持ち腐れていたのだろうなぁ⋯⋯しかし荒事でも瞬時の判断ができる侍女て時代背景が読み取れないけどあまりにも激動の時代向き侍女じゃないです?…
謎が謎のままで続きが待ち遠しいです! 石(に宿る精霊?)がどこまで人間社会の事に関与するかなぁ 王権の象徴とか言われても知らんがなってなりそう 前王がマリアの祖母に譲り、祖母がマリアに譲った。だから…
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