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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:


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3/6

ロイドの機転

「それでローズ家の従僕は?」


 ロイドが話を引き戻した。ベルがはっとしたように姿勢を正す。


「えーと、花嫁付きの侍女はベテランですかって聞きました。ディール家の従僕が言うには、ジェイソン様が新しく人を雇ったそうです。多分優秀な侍女を引き抜いたんじゃないかしら。でもお嬢様には専属侍女の私がいます。侯爵家の新人侍女なんかに負ける気はありませんから」


 フンッと鼻息も荒く言ってから、ちょっと首を傾げた。


「そういえば容姿のことも聞いてました。何の関係があるんだろうって、不思議に思ったんだわ」


 私だけが、その問いかけの意味を知っている。だから二人に向かって言った。


「説明させてね。多分、ローズ公爵家は、私の話が本当なのか、探らせに従僕を送ったのよ。私、結婚式で、ジェイソン様が私を殺そうと計画しているって、告発したの」


 ベルがピョンと立ち上がった。

 腰を抜かしたロイドと正反対なのは、若いからかしら、と変なところに感心する。


 ストンと座り直したベルは、妙に平坦な口調で言う。


「ジェイソン様が殺人鬼なのは本当ってことですか? じゃあ男色家っていうのも本当でしょうか」


「それは知らなかったわ。そうなのかしら」


「じゃあ隠し子が三人っていうのは?」


「私が知っているのは一人だけよ。もう二人いるのかしらね」


 ベルの顔が急に歪んだ。 


「そんな酷いこと。私は何も知らなかった」


 唇を噛んで、泣きそうな表情をしているベルの肩を、ロイドが優しく叩きながら、静かに聞いた。


「お嬢様。その隠し子の事を、お伺いしてもよろしいでしょうか」


「ジェイソン様が雇った新人の侍女が、彼の愛人で子供の母よ。子供はジェイソン様の乳母が面倒見ているわ」


「⋯⋯それでは言い逃れもできません。何と詰めの甘い。優秀だと聞いておりましたが、噂はあてになりませんね」


 ロイドが険しい表情で眉をひそめる。それにベルが文句をつけた。


「憤るポイントが少しずれていませんか? 愛人を侍女に付けるって、どういうつもりかって話ですよ!」


 そうよね、と思っていたら、

「新妻と愛人とを、同じ場所に置こうとするとは、なんて趣味が悪い! しかもその女は、侍女の仕事がまともに出来るんですか?」


 二人とも違う方向にズレている。


「あのね、愛人は私の監視役で、殺人の実行役なの」


 それを聞いて、二人は絶句した。でも、概ねイメージは正しく修正されたようだ。


 教会で飛び交った噂も、こんな具合なのかもしれない。

 こうやって話がズレて伝わり、収拾がつかなくなっているのだろう。


「それでしたら、従僕を送ったのは、ローズ公爵家子息のブライアン様でしょう。あの方は近衛騎士団の副団長ですから」


「参列者の名簿に有ったわね。そう言えば、近衛騎士団から数名、同僚の方々をお呼びしているはずよ」


 ベルが目を輝かせた。


「まあ。そうでしたね。つまり近衛経由で王家にもすぐ伝わるってことですよ。ざまあみろ、だわ」


 私はそこまで考えていなかったけど、そういえばそうなのだ。

 あのとき、私の頭には家族と令嬢たち、ジェイソン様しかなかった。

 でも式にはそれ以外の方たちが、たくさん来ている。


「まだご主人様方が戻られないのは、どなたかと話をしているのだと思います」


 ロイドが真剣な表情をしている。そしてゆっくりと私の方を向き、強い視線を向けて来た。    


「私がお嬢様からお話を伺うのは、筋が違うかもしれません。ですが、他家との交渉ごとが始まる場合、屋敷を管理する私が情報を把握していた方が、守りを固められます」


 他家との交渉。そう、結婚をやめたことに対する賠償の話がある。

 ディール家と話し合わないといけない。これで終わりではないのだ。


「教会での告発の様子を、細かく話していただけますか。ゆっくりで良いです」


 私は励ますようなロイドの目を見ながら、ゆっくりと話し始めた。


 話には次第に熱が籠り、ベルの合いの手が増えていく。

 私がミードに声を掛け、馬車に乗り込んだところまで来ると、ベルが私の手を握り締めた。


「お嬢様、よくやりました。私もその場で見たかった」


 ベルが火照った真っ赤な顔をしている。

 

「本当に、暴れ馬と異名を取った大奥様が、乗り移ったようです。できれば私も間近で拝見したかった」


「あの、ロイド? おばあさまは優しい方だったわよ」


 いつも優しくて穏やかなおばあ様だった。暴れ馬という形容詞は、全く似合わない。


「若い頃は豪快な方でした。ご夫君である伯爵様も、旦那様も、よく扇で打たれておりました。でも、そういえばマリアお嬢様には、特に優しく接しておられましたね」


「おばあさまも昔は、私と同じように引っ込み思案で大人しい子だったと言っていらしたわ。だから私のことが心配だっておっしゃっていたわ」


 おばあさまの年をとっても美しい顔と、優しい眼差しを思い出す。少し慰められたような気分になった。


 ロイドは一瞬懐かし気な表情を見せたが、その後眼鏡を外し、しばらく鼻の付け根を揉みながら考え込んでいた。


「ところで、お嬢様。確認したいことがございます。ここ最近、私に全く内緒で手紙を受け取っていた、と仰るのですね?」


「え、ええ」


 それはありえないと気付き、思わず目が泳ぐ。


「ということは、ご友人の名を語って、匿名の人物から手紙が届いた、と」


「ああ、そうね⋯⋯そうよ!」


「バーム伯爵家のエミール嬢でしょうか。読書の感想や、刺繍について手紙でやりとりされておりますよね」


「そう、それよ」


「そういえば、最近少し頻度が多かったように記憶しております」


 私は、ロイドの機転に感心した。手紙の受け取りは、執事が差出人と、重要度をチェックしてから届けられる。つまり彼の目に止まらないはずがないのだ。


 秘密で受け取るなら、侍女の手引きか、本人の外出が必要。何も考えないままで事情を聴かれたら、大変だった。


 ロイドが守りを固めると言った意味を、私はようやく理解した。


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― 新着の感想 ―
よく考えると、惚れた女が手を汚すのをヨシとする男っておかしいと思うから、本命が別に居そうだな。隠された恋人ってやつ。 用無しになったメイドの愛人も消されそう
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