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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第三章 お守り探し

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襲撃ー2


「祖母から譲られた品で、殆どをマリアが持っているのよ。古臭いデザインで私と次女はあまり好みではなかったのよね。でも今考えたら、昔の物の方が質が良いって言うのは本当かもしれないわね」


「ほお、貴重な家族の歴史をマリア嬢が引き継いでおられるのですね」


「そんな大層なものではありませんわ。単に愛着のある品なだけです」


 私はなるべくそっけなく返答した。


「昔の物には変わった品が多いですよね。今では見かけないような物もありますから。何か面白い品をお持ちなのですか?」


 男は非常に愛想よく微笑んで、母に話し掛ける。私より、母の方が話に乗ってきやすいと判断したようだ。

 早く話題を変えたくて、私は必死で言葉を繰り出した。


「お母様、家に伝わる品に関して、話し過ぎるのはどうかと思いますわ」


 自分でも驚くくらいに、キツイ物言いになってしまった。

 

「まあ、なあに? 急に」


 母がキッとして私を睨む。

 そこでブライアン様が助け舟を出してくれた。


「エリックは遅いですね。何をしているのでしょう。動きの遅い兵は使い物になりません。そう思われませんか。夫人」


 母はこの言葉に、ぎょっとしたようだ。近くにいる従僕を呼び付けた。


「ちょっと、エリックに早く来いと伝えに行って。ロイドもさっき向かったのに何をしているのかしら。全くなっていないわ」


 母は怒りで祖母のアクセサリーの話を忘れたようだ。これでいい。

 私はほっとして、ブライアン様に感謝の眼差しを投げかけた。


 それから少し経って、やっと兄が姿を見せた。

 こちらに向かってゆっくり歩きながら、私を見て、それから母と男の方を見た。その表情は寛いでいて、ごくのんびりとして見える。


 私は隣に立つブライアン様に向き直り、「品物を見に行きませんか」と話し掛けた。


 ブライアン様は、私の手を取り、詫びの品が詰まれた馬車に向かった。エリック兄様がいるほうへ。

 荷で隠れる場所でベルトと剣を渡され、ブライアン様はそれを腰に留めた。剣は長い上着の下に隠れて見えない。


「ありがとう、エリック。落ち着いたよ」


「いいえ。使い勝手は悪いかもしれませんが、一番しっかりしたのを選んできました。ところで、あの男で間違いないか?」


 兄は私の方を向いて聞いた。


「ええ。間違いないわ」


「あれか。こんな真昼間に襲ってくるとはな。それに、この荷は何だ。どこから調達したんだろう。一財産だぞ」


 それは私も疑問だった 。どこかから盗んできたのだろうか。


「詳細は知らないが、あの男が殺人犯だとマリア嬢から聞いた。どうする?」


「仲間共々捕まえます。あちらは馬車三台に従者九名か? こちらは残念ながら三人しかいません。マリアの護衛の二人を入れて五名。他は父と、妹の護衛について外出しています」


「わかった。私も協力しよう。尋問には立ち会わせてくれ」


 ここまでの会話を、二人はにこやかに微笑みながら交わしている。さすが貴族子息だ。


 そして、そのにこやかな顔のままで、兄が私に告げた。


「荒事になる。俺がしばらく時間を稼ぐから、母と一緒に屋敷に戻って戸締まりをしてくれ。騎士三名を守備に回す」


「たった三人で九人を相手にするの? 無茶だわ」


「大丈夫。副団長殿は五人くらいなら楽勝でさばける。俺だって三人はいけるよ。だから、こっちは気にせず、とにかく二人は逃げてくれ」


 揃って母の元に戻ると、母と男はにこやかに何か話している。


「そうなのよ。数は多いけど、デザインが古臭くてね。私は要らないって言っていたのよ。末娘も嫌がって、金のブレスレットしかもらっていないわね」


 男がニッコリと微笑んで、「そうですね。流行遅れの品は扱いに困ります。では殆ど全てがマリア嬢に譲られたのですね」


「そうね。アクセサリー以外も色々ね」


「ほお」


 兄が割って入り、挨拶し、この急な訪問について問いかけた。


 男は先ほどと同じ理由を口にし、先に連絡をしてあると思っていた、と言い訳をする。


「連絡の行き違いはお詫びいたします。ですが私に下された指示は、この荷をお渡しすることです。お受け取りいただけると誠に助かるのですが」


 本当に困ったような、恐縮した様子だ。

 母が、「まあ、いいのじゃないの」と折れ始めた。


「ありがたいです。では急いで運び込ませていただきます」


「待て。俺は許可していない」


「まあ、エリック。何を言い出すの? この荷を持ち帰れだなんて、そんなひどいことを言う気?」


「ここは俺に任せて、屋敷に戻ってください。さあ、行って」


 兄が後ろに控えていた二人の騎士団のメンバーに合図をすると、彼らが母と私の横に立った。


「まったくあなたって子は。おばあ様だったら、愛用の扇子でピシピシ叩いているところよ」


 憤慨しながら屋敷に向かって歩き始め、ふと立ち止まって私に話し掛けた。


「そう言えば、あの扇子の要に、綺麗なキャッツアイが嵌められているのよね。マリアが探していたのって、それじゃないの?」


 その場を離れようとしていた私は、ハッとして体が固まった。そうだったのか。

 そしてまずい事に、扇子は男が持っているはずだ。


 男はパッと顔を上げ、一瞬ニヤッとした。あのメリーを殺した時と同じ笑み。


「それでは、私どもは引き上げさせて戴きます。お騒がせいたしました」


 男は突然にあっさりと、帰りの挨拶をした。つい今までの粘り様との差に、母でさえ驚いている。

 男はクルッと踵を返し、足早に馬車に向かって行く。


「駄目。行かせては駄目」


 私は兄の上着を掴んで言った。


「屋敷に入れ。走るんだ」


 低く抑えた兄の言葉に弾かれるように、私は母の腕を掴み、引っ張った。


「何をするのよ」


「できるだけ早く走って。屋敷に逃げ込まなくては」


「なぜよ」


「死にたくなければ、誰も死なせたくなければ走って」


 私の必死の形相と、両脇の騎士の緊迫感を感じ取り、母が黙った。


 私は必死で走ったが、どうにも母が重たい。普段走ることなどないのでヨタヨタしている。

 その母を、騎士が失礼しますと断って抱き上げ、走り出した。


 私はそのまま前を走り、屋敷のドアを目指した。

 まだ遠い。


 まるで夢の中で走っているように現実味がないけど、後ろの方から剣の打ち合わされる、キンッという甲高い音が、聞こえてくる。その音に、首筋に嫌な震えが走る。


 夢ではないのだ。

 一歩でも早く前に進まないと、と焦る。

 それなのにドアはなかなか近づいてくれない。石畳を蹴る靴音と自分の心臓の音で、頭の中がうるさい。


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― 新着の感想 ―
えっと…このアホおかあとは縁を切っても良いと思う いらないことしかしないやないか!
この母親、本当に貴族夫人なんですかね(~_~;) 表面的には、関係修復を望んだ他家の使者ですが、他家の人間に自家のアレコレをべらべら喋るなんて貴族夫人失格としか言いようがないですね!
あぁぁぁぁお母上ぇぇえ!!
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