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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第三章 お守り探し

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襲撃ー1

 広い庭の中ほどで、母が使者らしき男と向かい合って話している。


「私が話を聞いてきます。お待ちください」


 そう言って、ベルが小走りに母の元へ向かう。

 そこに、ロイドが足早にこちらにやって来るのが見えた。状況は彼に聞くのが一番確実なので、顔を見た途端に安心した。


「お帰りなさいませ。お嬢様。いらっしゃいませ、ローズ公爵家公子様」


「これはいつ来たの?」


「ほんの少し前でございます。まだ屋敷内には運んでおりません。急ぐとか勝手な事をあちらが言っておりますが、止めておきました」


「お兄様はどこ?」


「騎士団の練習場にいらっしゃいます。今、私が状況をお伝えしましたので、もうすぐ、こちらにいらっしゃいます」


 母と話した後、ベルが戻ってきた。


「お嬢様、使者の方は、お嬢様へのお詫びの品物を届けに来たそうです。先にこちらへ連絡が入っているはずだと言っています」


「連絡はなかったわね。変ね」


 ロイドを先頭に私たちは母のもとに向かった。母に近づき、その前に立つ人物を見た途端に、血の気が引いた。

 あの男だ!

 雰囲気が全く違うが、間違いない。心臓がドッドッと音を立てる、耳の奥が熱くなる。


「マリア、早かったわね。この荷物はあなたへの侯爵家からのお詫びだそうよ」


 母が嬉しそうに私に話し掛ける。

 そして、男が口を開いた。


「侯爵家の従僕で、マルコと申します。マリア様へのお詫びの品を申し付かってまいりました。調度品から小物までございまして、お気に召さないものがあれば、後日交換させていただきますので、ぜひその場でご判断いただきたいと存じます」


 あの声だ。

 気にならないようにしてやる、と笑いながら言ったあの声。

 では、これは白昼堂々と屋敷に入りこむための手段?

 この荷は何なの!? こんなにたくさん、賊が用意できるもの?


「ここに置いていってもらえば、後で見るわ。今は疲れているの」


 私はまた夢の中にいるのだろうか。

 そんなことを考えながら、機械的にしゃべった。すごく平坦な調子だ。


「まあ、侯爵家からの贈り物に、そんな扱いは失礼よ。屋敷内に運び込んでいただかないと」


 母の言うことは正しい。だが、今回に関しては大間違いだ。


「なぜこんなに突然に? 事前にお話を聞いていないわ」


「詳細は明かせませんが、侯爵家に不幸なことがございまして、バタつく前にとのご指示です」


「まあ、何ということでしょう。お察しいたしますわ」


 母は男の言葉の裏を読んで納得している。

 駄目だわ。

 この男を屋敷に入れてはいけない。考えが纏まらないけど、それだけは分かる。


「私の部屋は、お出かけの支度で散らかっているの。今は人を入れることが出来ないわ。だからここでいいのよ」


「ではホールに運んでもらいましょうね」


 母が浮き浮きと言う。


「お母様、お兄様がすぐにいらっしゃるから、少し待ってください」


 少し強めに言ってしまった。

 母が驚いているが、男も驚いたようだ。


「非常に物静かなご令嬢と伺っておりましたが、噂は当てにならないものですね」


「それは侍女のメリーから聞いたのかしら?」


 途端に、横に立っていたロイドとベルが緊張するのがわかった。


「メリーとは、あの不届きな女のことでしょうか。私は会う機会はございませんでした。お腹立ちのこととは存じますが、それのお詫びの一部の品です。どうかお受けください」


 男は私がメリーに腹を立てていると思ったのだろう。

 だが、事情を知っているロイドとベルは、ここでメリーの名を出す違和感に気付いてくれたようだ。 

 私は一歩下がり、ロイドに小声で伝えた。


「お兄様を急かしてきてちょうだい」 


 それからもっと声を潜めて追加した。


「あの男よ」


 ロイドとベルがハッとして、私を見る。ベルは私の脇に近寄った。


「エリック様に、お急ぎいただくようお伝えしますので、しばらくお待ちください」


 ロイドが母と私に向かい礼儀正しく言って、殆ど駆けるような勢いで去っていった。


「マリア嬢。待つ間に少しだけお話をさせていただいてよろしいでしょうか」


 ブライアン様の声で我に返った。夢に入り込んだように現実味を失っていた世界が、急に普通に戻る。

 二人で少し離れたところに向かって歩きながら小声で話した。


「殺人犯です。そして私の持ち物を狙う男です」


「なぜ知っているのかは、後で。危険だということですね」


「多分。私が祖母から譲られた宝石を狙っているらしいのです。それがどれなのか分からないでいるのは、あの男も、私も同じです」


 ブライアン様が、「しまった。剣を帯びていない」とつぶやく。


 今日は私のエスコートで、しかも行き先が王子殿下の元なので、帯剣していない。


「ベル。お兄様に剣を一振り持ってきてもらうよう伝えて。ブライアン様の分よ」


 ベルが小走りに兵舎の方へ向かう。

 ブライアン様は、私と一緒にブラブラと歩きながら、侯爵家の従者たちを見ている。


「あの男は強い。それはわかるが、他は大したことがないです。彼の狙いはあなたの持っているアクセサリーですね。それなら屋敷に入り込むまでは、静かにしているでしょう」


 二人のほうへ戻りながら、ブライアン様が尋ねた。


「屋敷におびき出して捕まえるつもりだったのですか?」


「そうですけど、こんな昼間に、こんなふうに来るとは思ってもいませんでした」


 ほんの数分で私たちが戻ると、男は柔和に微笑みながら、私に向かって軽く頭を下げた。私は扇で顔を隠して、目だけで男を観察した。

 今日は侯爵家の従僕の役目のようだ。とてもそれらしく、真面目腐っている。どんな顔でも作れるのだろう。

 少しじっと見すぎたせいか、男の表情に不審げなものが混じる。私は横にいるブライアン様の袖を掴んで自分を奮い立たせた。なんでもいいから、時間を稼がなくては。


「侯爵家では、引き継ぎは進んでいるのですか? もう次期侯爵様はいらっしゃったのかしら」


「いいえ。まだです。数か月はかかるでしょう」


「そうなのね」


「引継ぐ事も、品も多いですから。そういえば、マリア嬢はメリーにアクセサリーを盗まれたとか。さぞ落胆されたでしょう。女性にとって、アクセサリーは大切なものですから」


「ええ。お気に入りでしたから」


「ご家族から譲られた由緒のある品でしょうか」


 探りを入れてきている。

 どう答えるのが正しいのだろう。


 数が少ないと言ったら諦めるかしら、それとも、殆どを売ってしまったと言ったほうがいいかもしれない。そう考えたところで、母が先に喋り出した。



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― 新着の感想 ―
何やろお詫びの品にのに物くれたから嬉しい!って感じの母親にイラッとした、ペラペラと何でも喋るし、そりゃあ娘と息子に信用ならんと思われるはすやわ
読んでいてこっちの心臓がドッドッドッと焦った動きする。お母様頼むから余計なこと言わんでくれ…
母親、娘の様子から何か察しろよー
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