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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第三章 お守り探し

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王宮にてー2


「ブライアン。君、さっきこいつが抱きしめていたハンカチを抜いただろ。返せよ」


「あれは私の物です。馬車のなかで取られたので返してもらいました」


「ハンカチくらいいいじゃないか。なんだよ変なやつ」


「これは特別なんです」


「うわっ。何それ、見たい。見せてくれ」


 私は自分のハンカチが話題になってしまい、ドキドキしていた。

 喉が渇いてお茶を飲み干すと、すぐに従僕がお茶を注ぎ足してくれる。


 美味しいお茶で、やはり王宮で扱う品は違うと感心した。 


 殿下とブライアン様は、言っていた通り仲のよい様子で、お互いにあまり遠慮がないようだ。

 二人がじゃれ合っているうちに、チャックは椅子から降りて私のもとにやってきた。

 スカートを引っ張るので、持ち上げて膝に乗せてあげた。


「あれ、チャックが嫌がらない。珍しいね。どうしたんだろう」


「多分心細かった時に助けられて、ホッとしたのでしょう。すぐに懐いてくれました」


「ふうん。気難しくて侍女を嫌がるし、侍従も人を選ぶ始末で、苦労しているんだよ……なんなら、王宮で働かない? チャックの世話係として」


 アルフ様はいたずらっぽく言う。

 まあ、嬉しい、けど……

 チャックと会えるのは大歓迎だけど、今はそれどころではないのだ。


 まずは目の模様の宝石を探すこと。

 それを狙う謎の男の動向を確かめないといけない。

 夢も謎なら、死に戻りも謎。でも多分全て繋がっているはず。


「チャックと会えたら嬉しいのですけど、今は難しいですわ」


 とても残念だけど、お断りをしたら、結構本気だったのか、アルフ様は残念そうに肩を落とした。 

 そのままのんびりとお茶を飲み、そろそろ退出の時間になったとき、ブライアン様が殿下に聞いた。


「わざわざエリックを呼ばずに、マリア嬢だけを呼んでおいて、事件のことは全く聞かないのですね」

 

 それは私も気になっていた。でも聞くのもおかしな気がしていたので、この問い掛けはありがたい。


「ただ会ってみたかったんだ。そう思っている者は多いだろうな」


 そう言って気軽に目配せする。


「しかし、こんな美人だとは思わなかったよ。驚きすぎて、話しかけられずにブライアンとバカ話ばかりしてしまった。マリア嬢、無粋な男だと嫌わないでくれないか」

 

 まあ、面白くて可愛らしい方だわ。チャックが前脚でポンポンッと胸のアタリを叩く。その手を撫でながら、私は微笑みかけた。


「さすがチャックの飼い主ですわ。とても楽しい気分にさせていただけます」


「さあ、帰りましょう。殿下、褒美は弾んでくださいね。ドレス代とハンカチ代はあとで請求します」


 ブライアン様にエスコートされ、部屋を出ると、殿下が見送ると言って、チャックを抱いて一緒に部屋を出てきた。


「こっちの廊下を歩こうよ。ブライアン、せっかくの美女を、そんな裏口から案内したのか?」


 何故かブライアン様は無言だ。

 

 王族と共に行動するということ。

 この時、私は初めてその威力を思い知った。


 廊下にいる者たちが、脇に避けて頭を下げる。

 殿下とブライアン様は慣れているようだが、私は緊張でぎこちなくなってしまう。

 そんな私をブライアン様が気遣い、スマートにエスコートしてくださった。


 通り過ぎた後から、ヒソヒソと噂話が聞こえてくる。

 一体何と言われているのだろう。

 だいぶ後ろを歩いているベルは、情報収集をしているみたいだから、後で教えてもらおう。


「やあ、侍女長。私のチャックが戻って来たよ。また世話を頼む」

 

 脇に控えた女性が、頭を上げた。


「承知いたしました。粗相の無いよう努めさせていただきます」


「今回は、こちらのレディがチャックを見つけてくれたんだ」


 侍女長は、「ありがとうございます。本当に助かりました」と、かなり心のこもった感じで、お礼を言われた。


「しかも、このレディにチャックが懐いている」


「まあ!」


 侍女長の目が輝いた。本当にチャックの扱いに困っているようだ。


「得がたいレディだろ。君からも口説いてくれ」


 ブライアン様が笑いながら、会話を遮った。


「先ほど断られたでしょう。さあ、もう下がらせていただきます。お見送りはここまでで結構です」


 そう言うと私の手を少し引き、スーッとその場を離れる。

 チャックがキャンと鳴いた。


「振り向くと、また離れられなくなります。このまま進んでください」


 振り向く前に、そう耳元で囁かれ、止められてしまった。

 先ほどとは違い、出口までが遠い。やっと屋敷を出て、そこで待っている馬車にたどり着いた。

 乗り込もうとしていると、近衛騎士が二人、こちらに駆けてくるのが見えた。


「副団長。至急ご報告したい事があります。少しよろしいでしょうか」


 私を馬車に乗せてから、ブライアン様は二人と少し離れた場所で話し始めた。

 どうも良くない話らしく、三人とも表情が硬い。


 戻ってきたブライアン様は、顔をしかめて考え込んでいる。


「馬車を出してくれ」


 御者に伝えると、また黙り込んでしまった。


「黙っていても、すぐに伝わるでしょう。ジェイソンが殺されました」


「え⁉」


「メリーが死んでいた空き地に、倒れているのを発見されたそうです。同一犯だろうと思います。だけどジェイソンは腕が立つ。それに勝てる相手となると、ただのごろつきではなさそうだ」


 私の頭の中で、謎の男の姿が、より不気味で恐ろしいものに変わっていく。

 パッと見た感じでは、柔和な商人風なのに。


「恐ろしいです」


「あなたは大丈夫ですよ。だが一体、ジェイソンたちは何と関わりあったんでしょうね」


 ベルがブルッと震えるのを見て、私は屋敷の皆を守らないといけないと改めて思った。


「兄のエリックの剣の実力は、ジェイソン様と比べてどうでしょうか」


「剣の実力は拮抗していましたが、体術やその他を含めたら、エリックのほうが上です」


 私がベルの腕に触ると、ベルもこちらを見た。顔色が悪い。きっと私もだろう。

 暫くした頃、ブライアン様がとても静かに聞いた。


「私がお役に立てることはないでしょうか」


 そうよね。私とベルの動揺をみれば、何かあると感じるはず。隠せるはずがない。

 もう、一部だけでも打ち明けるしかないと覚悟を決めた。


「……私たちが悪いことをしたわけではないのです。ただ私の持ち物が、狙われているらしいのです。その謎の犯人に」


 ブライアン様は、えっという表情をした。想像していたのと違うのだろう。


「どういうことですか?」


「これ以上は、兄と相談させてください。屋敷にいるはずですから」


 その後は、ずっと黙ったまま馬車に揺られていた。

 とても気持ちが重く、空気も重かった。


 

 屋敷に着くと、見知らぬ馬車が数台停まっていて、我が家の使用人達が走り回りっている。


「なんでしょうね」


 ベルが外を見て、「荷を馬車から運び出していますよ。お嬢様」と言う。


「そんな話、聞いていないわよね」


 私が急いで馬車から降りると、従僕が二人やってきた。


「侯爵家から、お詫びの品が送られてきました。急だったので、こちらは大騒ぎです」


 そんなに突然に? と驚いた。もしかしたら、ジェイソン様が亡くなったことに関係があるのだろうか。

 それでブライアン様に尋ねた。


「侯爵家には、もう連絡が行っているのでしょうか」


「どうでしょう。少し早いのではないでしょうか。どちらにしても、これはおかしな行動ですね」


 ブライアン様の目が、初めてお会いした時と同じ、冷たい青になる。

 その目に私の緊張も高まっていく。



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― 新着の感想 ―
これは怖いですね。ジェイソンが殺された理由はなんでしょう。探し物はマリアのものですから、ジェイソンを殺して奪うとかではないですし、メリーの仇を打とうとして返り討ちとかでしょうか。 侯爵家の詫びの思惑も…
こっわ、めっちゃこっわ! 人を1人のみならず2人も殺して、しかも捜査掛かってるのに強行するなんて、怖すぎる! マリアに対して搦め手で用意周到に準備してたのと、今回の殺人の強行がどうにもチグハグ。 依頼…
お詫びの品をめちゃくちゃ点検した方がいい気がします
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