お守り?ー3
ようやく、重い展開を抜けてきました。
この先は、恋愛色が強くなって、華やぎます。
謎を引きずりながら、ですけど。
お楽しみください。
お茶が運び込まれ、一息つくことになった。
お茶の香りを嗅いで、ほっとしてから、今まで避けていたことを聞いた。
「メリーの遺体は誰が引き取るのですか?」
「それは、まだ決まっていません。今、家族の元に遣いを出しています。バース男爵家かジェイソンが引き取らなければ、教会が引き取ることになるでしょう」
彼女は行先のない身の上なのか、と思った。
それ以上考えすぎると、良くないと分かっていたので、お茶に砂糖をもう一個入れて飲んだ。
彼女は死んだ。二回とも。
私はどうなのだろう。一瞬そんなことも頭の端をよぎった。
その時、ブライアン様と目が合った。ずっと私を見ていたようだ。
「マリア嬢は、お会いする度に雰囲気が違いますね。とても興味深い方だ」
嫌だわ。忘れていた。
この方は何も見逃さないのだった。
では、早目にここから立ち去らなくては。
「そうでしょうか。多分とても緊張しているせいでしょう。それでは、そろそろお暇いたします。今日はご配慮いただき、ありがとうございました」
「明日、伯爵家に伺う約束を取り付けていたのですが、この事件でしばらくお邪魔できそうにありません」
「それはとても、残念ですわ。それでは失礼いたします」
私は率先して立ち上がった。兄が慌てて立ち上がり、挨拶をして部屋を出た。
「お見送りをさせていただきます」
そう言って私の横にブライアン様が並ぶ。私はうつむきがちに目を伏せて歩いた。
メリーの殺害について知っていると、気取られてはまずい。
犯人が家に忍び込むかもしれないと思っているなんて、更にまずい。全く隠しごとだらけだわ。
そんなことを考えながら、静かに歩いた。
歩いて門の側まで来ると、その周辺にいた人々の注目の的になっていた。この敷地内に女性は少ない。特に貴族の娘など、一人も見かけなかった。
だから、私とベルは非常に目立つのだろうけど、男性たちの視線が集まると、とても落ち着かない気分になってしまう。
ブライアン様が、睨み付けると、彼らはそそくさと散って行った。
それを見て、私はほっとした。
「ありがとうございます。相変わらず、男性に見られるのは苦手なようです」
「ようやく話してくれましたね。今日は避けられているのかと、悲しく思っておりました」
思わずびくっとしてしまう。
「まあ、そんな事、あるわけがないです。色々と起こりすぎて、なんだか疲れているのでしょう」
兄がすかさず手を貸してくれて、伯爵家の馬車に乗り込んだ。
促されるまま馬車に乗り込んだ私は、椅子にもたれてホッとした。
あの目から、とにかく逃れられた。
でもその代わり、あの紺にも見える青い目を見ていないと気付き、すごく残念な気分になったので、そっと窓に顔を寄せて外を窺う。ブライアン様は少し離れた場所で、こっちを見ている。
「窓越しなら大丈夫よね」
独り言を言いながら、彼の目を見つめた。
くっきりと青い綺麗な目。帰ったらすぐに刺繍をしましょう。
そう考えたらワクワクした。その気分のまま微笑み掛けると、ブライアン様が困ったような顔になった。
馬車は家に向かって走り始めたが、第二王子の犬がいないか、噴水に寄ってみることになった。
そうしたら案の定、池に首を突っ込んで水を飲んでいる犬がいる。
「お兄様、あれがそう?」
「違うな。もっと小さくて足が短い犬だ」
「そう。今日じゃなかったのね。それなら明日かしら。迷子になって二日目だったって言ってたけど」
それなら今日だろうと兄が言い、しばらくその場で待つことになった。
「ところで、今日は副団長に素っ気なく振る舞っていたな」
「素っ気ないだなんて。ただ秘密を見破られそうで、なるべく目を見ないようにしていたの」
ふーん、と兄が変な声をだす。
「父から聞いたが、副団長が今回のお礼を言うために、お前あての訪問を申し入れてきたそうだ」
「ロイドから聞いております」
「副団長は、お前に気があるのかな?」
私は笑ってしまった。
「まさか。あんなに素敵な人だもの。多分すごくもてるでしょう。私なんか、対象外よ」
兄はベルの方に視線を移した。ロイドと同じように、目で会話をしている。
「つまり、お前はブライアン公子殿が、世間の令嬢の憧れの的だってことを知らないわけだ」
「まあ、やっぱり! 私も素敵だなと思いましたもの」
兄はもう一度ベルを見た。
ベルがふっと唇をゆがめるのが横目に見える。
「手紙のやりとりを一度。返信に青い花と薄い緑の小鳥を刺繍したハンカチをお贈りしております」
少し置いて加えた。
「見事な作品でした。それに愛用の香水をひと振り。そこは私とミスターロイドが配慮しました」
おお、と小さく言い、兄は私を見た。
なんだかそのままじっと私を見ている。そしてふっと身体から力を抜いた。
「⋯⋯からの今日の再会で、あの態度か。それが全て無自覚なんだな」
「はい、その通りです。私が常に目を光らせます。ミスターロイドも同じくです」
ベルが妙にきっぱりと言う。
「なんて奴だ」と言いながら私の頭に手を伸ばし、ハッと手を止めた。
「そうだ。昔はいつもこんな感じだったんだ」
私はその時、噴水に向かって走る、小さな姿を見つけた。
「見て、あの足の短い犬。そうじゃない? ちょっと見かけないような、変な顔の犬よ」
兄が窓の外を見るや、扉を開けて飛び出した。
犬が水を飲んでいる所を、後ろから持ち上げ、小脇に抱えて戻ってきた。
「当たりだ。この犬が他国から贈られた、第二王子の愛犬だ」
犬は水が飲み足らないのか怒っているようで、ジタバタと短い足を動かしている。
見慣れない変わった顔だが、とても愛嬌がある。兄の腕から逃れるのをあきらめたのか、力を抜いて、悲しげに私を見る。
「可愛くて可哀想な子。こっちに来る?」
腕を差し伸べると、短い前足をこちらにピッと伸ばした。
「ちょっと待て。こいつの足、噴水で濡れている。拭かなきゃ駄目だ」
ベルがすかさずハンカチで犬の足を拭いてくれた。綺麗になった犬が、私にヒョイッと渡された。
犬は切なげに鳴きながら胸に顔をうずめてきた。撫でてやると、クンクンと甘えた鳴き声をあげる。
「まあ、きっと王宮で女性たちに可愛がられているのね。懐っこいわ」
その言葉に兄は首をひねっている。
「確か女性が近付くと、嫌がって逃げるって聞いたことがあるんだが」
「そんなふうには見えないけど…....」
今から王宮に戻るのも面倒なので、明日、連れて行こうと決め、そのまま屋敷に戻った。犬はチャックという名だそうで、名前を呼んだらすごく喜び、私の膝のうえでクルクル回った。
それから、私のスカートの布をかき集め始めた。どうもベッドを作っているようだ。そして、その中に埋もれて眠ってしまった。




