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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第三章 お守り探し

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20/23

お守り?ー2


 兄の後ろに再びピタッと付いて、薄暗い廊下を歩いた。

 そして保管庫というプレートのかかったドアの前で止まる。


「持ち出し手続きをするから、ちょっと待っていてくれ。この部屋は臭いんだ」


 そう言われ、廊下で待とうとしていたら、すぐに兄が出てきた。ブライアン様が一緒だ。

 手に私の小物入れを下げている。


「お久しぶりです、マリア嬢。ご足労いただき、ありがとうございます」


「いいえ、私の持ち物です。こちらこそお手数をおかけして申し訳ありません」

 

 また兄がちょっと強引に割り込んできた。


「ここで立ち話はやめましょう。また男が寄ってくる」


 ええ!? 

 何を言っているの? と思ったら、ベルが、「ほらね」という感じで目配せした。


 そのまま別の部屋に案内され、そこで小物入れの中身が取り出された。待機していた近衛兵が、テーブルに白い布を敷き、その上に一つ一つが並べられていく。


 私の櫛にブラシ、ああ、私のナイトキャップ。


 久しぶりに見た品々に、気持ちが高揚したが、私物をこうやってまじまじと見られると、気恥ずかしいものだ。特に日用品は私的すぎる。


 ガーターベルトや靴下を入れていなくてよかった。そんなものが仰々しく並べられたら、どこを向いていたらいいか分からない。


「無いものを挙げてもらえますか?」


 そう言われ、一つずつベルと確認した。無いのは一番上のトレイに載せてあった宝飾品類だ。


「この箱の一番上のトレーが、それごと無くなっています。トレーにはアクセサリーが載っていました。それと練香と扇子とピンとリボンです」


「それなら狙ったのはアクセサリーでしょうか。失礼ですが、非常に貴重な品なのでしょうか」


 尋ねるブライアン様が言いにくそうだ。それはそうだろう。

 何せ、これは宝石箱ですらない。

 櫛やブラシと一緒に詰めてあったアクセサリーが、すごく高級品だとは思えないだろう。


「お気に入りですし、祖母から譲られた品なので、私にとっては大切な品です。価値も低くはないです。単に私が荷造りをとても雑に済ませたせいなんです」

 

 こうなると、今更ながら恥ずかしい。とても大雑把な性格だと思われそう。


「そうですか。では盗まれたアクセサリーの特徴を一つずつ話していただけますか。古物屋や質屋に流れていないか調べましょう。こちらの品は持ち帰っていただいて結構です」


 ありがたいけど、そういう探し方で見つかるとは思えなかった。

 思わず、少し俯いてしまった。


「どうかされましたか?」


「いいえ。なんでもございません」


 私は覚えているアクセサリーの形をなるべく詳しく近衛兵に伝え、リストを作成してもらった。

 その間に、荷物をベルが小物入れに綺麗に詰め直してくれた。その後、ブライアン様の執務室に案内された。


「お茶を用意させますので、お寛ぎください。それで、実はいくつかお伺いしなければいけない事があります」


 ブライアン様の表情が固い。


「こんなことは聞きたくないのですが、他の人間に任せるのも嫌だったので、私が事情聴取をさせていただくことになりました。侍女の自称メリーの殺人に関してです。ジェイソンからは、昨日、遺体を運んできた後に聞きました。エリックにもです」


 それから少し間をおいて、私をじっと見た。


「この件について、あなたに話を伺わないわけにはいかないのです」


「もしかしたら、私が犯人だとお疑いでしょうか」


「関連のある人間全員に聞き取りをしています。ディール侯爵家には、今、他の人間が聞き取りに行っています。クルス伯爵家にも同様に」


「私はずっと屋敷に籠っておりました。外部とのやり取りは、パーム伯爵家のご令嬢と手紙をやり取りしただけです。それにメリーがどこに行ったのか、全く知りませんでした」


 ブライアン様はその話を紙に書きとめ、それを机に仕舞った。

 そして私たちの前に座り直し、ふっと力を抜いた。


「これで良し。多分あなたはリストから除外されるでしょう。実行犯は確実に男ですし、それも荒事に慣れた人物です。だから、第一発見者のジェイソンとエリックが最有力とされて、昨日きっちりと調査が行われました。だが二人共、ずっと屋敷に籠っていて、外部とのやり取りも無かった。これで次に疑われるのは、ディール侯爵家の口封じと、クルス伯爵家の報復です」


 クルス伯爵家の報復!

 あまりにありえなさ過ぎて、変な笑いが湧いてきた。唇がムズムズする。


「おい、マリア。お前もう少し取り繕えよ。気持ちは分かるけどな」

 

 兄を手で押さえ、ブライアン様は私を安心させるようにニコッと笑った。


「ここでは、お気になさらず。私が感じ取った雰囲気では、だいぶ違うと分かっております。世間一般の想像では、という話です」


「すみません。いつもの扇子があれば、顔を隠すのですけど。そういえば愛用の扇子も盗まれているのです。困ります」


 本当に困る。女性には、色々と必要なものがあるのだ。無くなると、それが凄く良く分かる。別の扇子も持っているけど、なんだか手になじまない。今もベルに預けたままになっている。


「その噂が静まるまで、私は屋敷に留まりたいと思います。私が姿を見せないほうがいいでしょう。それに屋敷の方も色々と物騒な気がしますので、守りを固めたいと思います」


 兄が改まって、ブライアン様に言う。真面目な兄の様子が新鮮だ。

 ブライアン様の表情は読めない。ただ兄を見ている。


「それは、何か懸念があるということか? クルス伯爵家に」


「いいえ、何かあるわけではないです。でも、今回の騒動で、何かと注目を浴びています。浮足だっていたら、盗賊に狙われるかもしれない」


 ブライアン様が静かに考えている。


「いつもと様子が違うな。それにマリア嬢との仲もだいぶ改善された様子だ。何かあったのか?」


「いいえ」


 言い切る。近衛騎士団での兄は、こんなにしっかりしているのかと驚く。

 

「わかった。しばらく休暇を与える。周囲への影響を考えたら、お前は姿を見せないほうがいいだろう。私から団長には言っておく」


「ありがとうございます」

 

 そう言って兄は私に笑いかけた。それが小さい時の笑顔とダブる。そして兄に噛みついた小さい自分を、ここで思い出してしまった。緊張していたので、思わず吹き出しそうになり、口を手で押さえた。


「失礼……少し気付け薬を、ベル」


 ベルが急いで気付け薬とハンカチを渡してくれた。

 気付け薬の刺激的な香りで、気持ちを立て直し、それからハンカチでにじみ出た涙と、口元を拭いた。


「緊張しすぎてしまいました。申し訳ございません」


 淑やかに言うと、紳士のブライアン様と、思いがけなくも紳士だったらしい兄は、その嘘を黙認してくれた。




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― 新着の感想 ―
黒幕の正体を中々見せてはくれない宝石には意志があるのかな? 盗られても持ち主と認識しないなら早く迎えに来いと催促しそうでもある。
ああ、でも扇子の軸やピン等に宝石のような物がついている可能性もなくはないですよね。 なにより、本人がどれなのかを分かっていないのだし。 そうなると、一見それと分からないような物にお守りが?と想像してし…
扇子も盗まれてるー! 大穴でナイトキャップだったらちょっと笑っちゃいますね。 あー、やっぱり兄貴とジェイソン疑われましたよね。 そりゃそうだ。
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