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大樹

掲載日:2026/01/04

短編です

「この木は、うちのご神木だ」

 雄一郎がそう言って私に触れた。それを見ていた小さな雄太郎が、私を見上げていた。

「ふぅん」

 つまらなさそうにそう呟いた雄太郎は、しばし私を見つめたままだったが、興味をなくしたように走り去ってしまった。

「ははは、雄太郎にはよくわからなかったかな」

 雄一郎は、優しく私を撫でた。

「これからも、見守っていてくれよ」

 そう言って雄一郎は、家の中に入って行った。

 ここはとても日当たりが良い。風通しも良いし、雄一郎の妻は私にいつも水をくれる。


 ある日、雄太郎が雄一郎の妻に叱られたようで、泣きながら窓から庭に出てきた。雄太郎は、大きな声で鳴きながら、大粒の涙をポタポタと私の足元に落とした。そして何を思ったか、私の幹をよじ登りだした。雄一郎が幼い時も、そうやって私の幹を強引によじ登ってきたものだ。しかし私はあの頃より大きくなっている。小さな雄太郎は、私に登ることが出来るのだろうか。

 案の定、何度か滑り落ちたのち、ようやく一番下の太い枝に登りきることが出来た。

「お母さんは、僕の事、嫌いなんだっ!だから、おもちゃ買ってくれないんだ!」

 雄太郎の言っていることはわからないけれど、この子、私から降りることが出来るんだろうか。

 しばし雄太郎が泣き止むのを待っていたら、やっぱり、地面との距離を見て青い顔をした。

「どうしよう・・・すごく高い・・・」

 一度泣き止んでいたのに、またすぐに不安そうな顔になった。また大粒の涙が、頬を伝う。

「雄太郎!?ゆうたろう!!」

 青い顔をしているのは、雄太郎だけではなかった。妻も慌てて庭を探し回っている。

「ママぁ~」

 ついに私にしがみついて泣きだしてしまった。存外高い位置にいたのをみた妻は、青白い顔をより青くして、慌てたようにどこかに連絡をしていた。

 ほどなくして、真っ赤な車がやってきて、そこから降りてきた屈強な男たちが、雄太郎を梯子を使っておろしてくれた。

 それから雄太郎は私に無理に登ることはしなくなった。


 月日が流れ、いつの間にか雄一郎は、私をこの場所に植えた雄一そっくりになっていた。そしてそんな雄一郎にそっくりな雄太郎が、小さな子供と妻をつれて、やってきた。

「大きな木・・・」

「この木、うちのご神木なんだ」

「ご神木?」

「そう、俺のことずっと見守ってくれてるんだよ。小さい頃さ、この木に登って降りられなくなったことがあって」

「こんな大きな木に!?」

 そんなこともあったなぁ。よく見ると、小さな子供は、どことなく雄太郎に似ている。

 雄太郎が私の幹に触れ、優しく撫でた。

「いつも見守ってくれてありがとう。俺の妻と子供だ。まだ生まれたてなんだ」

 大学受験とやらに失敗したとき、私を蹴り上げた、未熟な男が、妻を娶って、そっくりな子供までこさえてくるとは思わなかったよ。

「いつもありがとう、ご神木様。これからは、俺と、妻と子供、親父たちも、みんな見守っててくれよな」

 幹を軽く撫でた雄太郎は、妻と子供と共に、雄一郎たちの待つ家に入って行った。

 今日も天気が良くて、風が心地よい、良い日だなぁ。


大樹のお話でした

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