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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
3章 修行編
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3-2 脈気の極意、崖上の試練

「……初めてにしてはやるな」


 アスヘルは呟き、俺の方を見た。


「脈気を剣に流してみろ」


 俺は地面に置いていた木刀を拾い上げ、脈気を剣に流す。


「俺の切った木の幹に打ち込め」


 それくらい簡単にできるだろと思い木刀を振る。


 ――バキッ


 俺の振り下ろした木刀は木の幹に刺さった。


「これでいいのか」


「まだまだだな」


 アスヘルはそう言うと、俺に背を向けて歩き始めた。


「おい! どういう意味だよ」


 俺はアスヘルに向かって叫ぶ。


 アスヘルは振り返ることもなく、一言だけ言った。


「そのままだ」


 太陽の光が、地平線から俺の顔を少しだけ照らした。


 アスヘルの姿が完全に見えなくなった瞬間、張りつめていたものが一気に抜けた。

 急に、耐えきれないほどの眠気が押し寄せてくる。


 ――そうか。

 一晩中、眠らずに脈気のことだけを考えていたのだ。


「……帰るか」


 小さく呟き、幹に深く突き刺さった木刀に手をかける。


 重い。想像以上だった。

 両手に力を込めても、びくともしない。


 俺は息を整え、脈気を手に纏わせる。

 そして、無理やり引き抜いた。


 ――ギギッ。


 嫌な音を立てて、木刀がようやく抜ける。

 刺さっていた箇所を見ると、木の繊維は裂け、抉れ、ぐちゃぐちゃに潰れていた。


 俺はしばらくその傷跡を見つめた後、何も言わず木刀を肩に担ぐ。

 そして、ノアの待つ小屋へと歩き出した。


「おかえり」


 ノアの、柔らかくて温かい声が耳に届く。


「朝早いのに、起きてたのか」


「当たり前だよ。二人が修行してるのに、私だけ寝られないよ」


 ノアの目は大きく開いていて、眠そうな様子はない。

 無理して起きていたのだと、すぐに分かった。


「俺、眠いから少し寝る。起きたらまた修行行くからさ」

「ノアも寝て、生活習慣戻してくれ」


 そう言って、俺はそのままベッドに飛び込んだ。

 身体が沈み込む感覚と同時に、意識が静かに落ちていく。


 ――次に目を開けた時。


「昼まで寝てるとは、いい身分だな」


 低く、ぶっきらぼうな男の声。


 目を開けると、ベッドの横にアスヘルが立っていた。


「……修行の続きだ。やらないのか」


 正直、うざい。

 そう思いながらも、俺ははっきりと答える。


「ああ、やろう」


 その返事に、アスヘルはわずかに口角を上げた。


「じゃあ、さっさと準備をしろ」


 それだけ言って、アスヘルは小屋を出ていく。


 俺はため息を一つつき、急いで顔を洗い、木刀を手に取った。

 そして、その背中を追うように小屋を後にした。

 

  俺たちは二人、森の中を無言で歩き続けた。

 足音と、風に揺れる葉の音だけが耳に残る。


 しばらくすると、視界が一気に開けた。


 ――崖だ。


 目の前に、切り立った岩壁がそびえ立っている。

 見上げると、はるか上に小さく崖の縁が見えた。


「ここを登れ」


 アスヘルはそれだけ言うと、迷いなく崖のくぼみに手をかけた。

 まるで地面を歩いているかのように、無駄のない動きで登っていく。


 俺もすぐに後を追った。

 くぼみに指をかけ、身体を引き上げる。


 数メートル登った頃には、もうアスヘルの姿は見えない。

 ――もう、頂上か。


「……クッ」


 掴んでいた岩のくぼみが、わずかに欠けた。

 欠片はしばらく宙を舞い、やがて地面に当たる。


 カーン。


 高く乾いた音が、森に響く。


 ――このままじゃダメだ。

 ――そうだ、脈気だ。


 俺はそう思い、指先に意識を集中させる。

 脈気を集め、次のくぼみを掴んだ、その瞬間――


 ――バギィ。


 嫌な音が走った。


 次の瞬間、身体が宙に投げ出される。


 咄嗟に、脈気で全身を覆った。


 ――バン。カラカラ……


 数メートル上から仰向けに落ちたはずなのに、痛みはない。

 どうやら、うまく纏えたらしい。


 ――ズドン。


 重い着地音が、すぐ近くで鳴った。


 顔を上げると、そこにはアスヘルが立っていた。


「お前には、少し早かったな」


 淡々と、俺を見る。


 俺はすぐに立ち上がり、声を荒げる。


「脈気について、ちゃんと教えてくれよ」


「今、教えているだろ」


 アスヘルはそれだけ言い、崖に背を向けた。


「黙って、ついてこい」


 そう言って、森の奥へ歩き出す。


 俺は何も言い返せず、その背中を追うしかなかった。


 一時間ほど歩くと、森の出口に辿り着いた。

 木々の隙間を抜けると、視界が一気に開ける。


 ――草原だ。


 風に揺れる草が、どこまでも広がっている。


「今から、ここで魔物と戦え」


 アスヘルはそれだけ言い、何事もないように草原へ踏み出した。


「いいけど……何の意味があるんだよ」


 俺は置いていかれないよう、慌てて後を追う。


 アスヘルは歩きながら、時折拳で地面を思い切り叩いていた。


 ――ドン。


 ――ドン。


 乾いた音が、草原に響く。

 ……魔物を呼び寄せているんだろう。


「ほら、来たぞ」


 アスヘルの視線の先を見る。


 そこには、こちらへ走ってくるトカゲ型の魔物がいた。


「木刀に脈気を纏わせて、斬ってみろ」


 言われた通り、俺は木刀に意識を集中させる。

 脈気を纏い、魔物へ近づき――振り下ろした。


 ――バン。


 激しい音。


 次の瞬間、魔物の身体が弾け飛んだ。

 胴体より下だけが残り、首から上は跡形もない。


「……俺が、これを……」


 自分のやったことが、すぐには信じられなかった。


 その場で立ち尽くしていると、遠くにもう一体、トカゲの魔物が現れる。


 構えた、その時。


「木刀を貸せ。手本を見せてやる」


 背後からアスヘルの声。


 俺が反応するより早く、木刀は奪われていた。


 アスヘルは魔物が迫ってくるのを、静かに待つ。

 距離が詰まり――ぶつかる、と思った瞬間。


 ――スッ。


 横一閃。


 音は、ほとんどなかった。


 だが、俺の視界はスローモーションになる。


 頭と胴体が、自然に分かれていた。

 頭は遥か後方へ飛び、胴体は――アスヘルが足で止めている。


「これが手本だ」


 それだけ言って、木刀を俺に返す。


「今の……どうやったんだよ!教えてくれよ!」


 俺の声は、完全に無視された。


 アスヘルは再び、俺の背後に立つ。


「さぁ。やってみろ」


 短く言い放ち、再び地面を拳で叩く。


 ――ドン。


 地面には、今まで見たこともないほど深い穴が穿たれていた。


  草原を渡っていた風が、ふっと止んだ。

 ざわめきが消え、あたりを包むのは不自然な静寂。


 ――……ドン。

 ――……ドン、ドン。


 地面を叩くような足音が、遠くから響いてくる。

 それは次第に、重く、確かなものへと変わっていった。


「ほう……いい相手が来たな」


 アスヘルはそう言い、音のする方角へ視線を向ける。


「あれはオークだ。魔族の中じゃ、かなり頑丈な部類だ」

「お前の練習相手には、ちょうどいい」


「練習って……」


 思わず声が低くなる。


「……こいつ、ヤバいやつだろ」


 脳裏に浮かぶのは、

 アスカ、リックさん――そして、あの巨人。


 赤く染まった戦場。

 命が、簡単に消えていった光景。


「今のお前なら、勝機はある」


 アスヘルはそれだけ言うと、腕を組んだ。

 ――本当に、見ているだけらしい。


(……覚悟を決めるしかない)


 草原の遥か先に、巨大な影が姿を現す。


 緑色の体躯。

 五メートルはあろうかという巨体。

 手には、岩のような棍棒。


 そして――赤い目。


「アスヘル……こいつ、どう倒せばいい」


 問いかけると、アスヘルは一瞬だけ意外そうな顔をした。


「首と胴体を分けろ」


 簡単すぎる答え。


「分かった!」


 俺は力強く返事をし、

 オークへ向かって駆け出した。

 

Twitter(X)でも進捗や設定について呟いています


→ https://x.com/do16294?s=21&t=Gi9tqh5ZSyqRTyQ3uDwMHQ

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