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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
2章 エルド村編
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2-10 覚醒の突風、闇を切り裂く信頼

 ロロの言葉を聞き一瞬、頭が白くなる。

 だが俺は息を吸い、吐き、すぐに問いを投げた。


「いつ。どこで。誰とだ」


 横では、ガウがモノの頭を叩き、無理やり酔いを覚まさせている。


「ぼ、僕たち三人で……

 レイルさんが、なんで脈気が使えないか考えてて……」


「そんなのはどうでもいい!」


 思わず声が荒くなる。


「誰と行った!

 アスヘルか!」


 ロロは目を見開き、首を振った。


「違う!

 一人で行った!

 お願い、ついてきて!」


 そう叫ぶと、ロロは振り返りもせず店を飛び出した。


「カマイ、悪い。あとは頼んだ」


 それだけ言い残し、俺はロロの後を追う。


 すぐに追いつき、走ったままロロを抱き上げた。

 さっきまで空にあった太陽は、もう沈んでいる。

 辺りは、夜の闇に包まれていた。


「俺が走る。

 ロロは道を教えろ」


 息は切れない。

 足だけが、やけに重い。


「……任せて。

 森に入ったら、すぐ右」


 ロロの声は震えていたが、はっきりしていた。


 俺は夜の冷たい風を切り裂きながら、森へ向かって走り出した。


  俺は森の中へ勢いよく踏み込み、そのまま出口に向かって全力で走った。

 枝を弾き、落ち葉を蹴散らしながら、ただ前へ。


 腕の中で、ロロが必死に話し始める。


「僕たち三人ね……

 レイルさんが脈気を使えないの、気にしてたんだ」


 返事はしない。

 足を止める理由がなかった。


「それで、なんで使えないのか考えて……

 龍の雫が必要なんじゃないかって思ったの」


「アスヘルのおじさんが取ってきて、僕たちに触らせてくれたやつ」


 ロロの声は揺れているが、言葉は途切れない。


「ムウね、あれがどこにあるか知ってるって言って……

 森の外には龍脈がたくさん集まってる場所があるから、そこを探しに行くって……!」


 胸の奥が、嫌な音を立てた。


「……じゃあ、

 今どこにいるかは分からないのか」


 息を切らさず、静かに問いかける。


「分かるよ」


 ロロは即答した。


「脈気って、なんとなく感じられるから。

 ムウの脈気……ここから、まっすぐ先」


 俺は、さらに速度を上げた。

 視界の先に、森の終わりが見える。


 数呼吸後、木々を抜け、俺たちは森の外へ飛び出した。


  森を抜けると、いつもと変わらない緑の草原が広がっていた。

 俺は迷わず、その草原を一直線に駆ける。


「魔物に注意してね」


「魔物って、魔族のことか?」


 ロロは首を振った。


「違うよ。

 魔物は……目がおかしいんだ。普通は黒いでしょ?

 でも魔物は、目が赤いの」


 赤い目――。

 疑問は浮かんだが、足は止められない。


「レイルさん! 上!」


 反射的に視線を上げる。

 赤い目をした鳥が、俺たち目掛けて一直線に落ちてきていた。


 俺は地面を強く蹴り、横へ跳ぶ。


 ――ガチャーン。


 鳥は地面に突き刺さり、羽をばたつかせてもがいている。


「レイルさん、やっぱりすごいね」


「ムウまで、あとどれくらいだ」


「……まだ、少しある」


 次の瞬間、赤い目をしたトカゲが正面から突っ込んできた。

 俺は減速せず、そのまま駆ける。


 衝突寸前で跳躍。

 トカゲの背を越え、着地する。


「魔物って、何体いるんだよ……」


「最近、多いらしいね。

 ここは豊かだから、あんまりいないってアスヘルのおじさんは言ってたけど」


 ――これで少ない方か。


 そう思った瞬間、背筋が粟立った。

 上だ。


 見上げると、さっきの鳥が、再びこちらを狙っている。


「レイルさん!

 あの洞窟から、ムウの脈気を感じる!」


 視線の先。

 草原にぽつんと、二人がやっと通れるほどの穴が口を開けている。


 間に合うかどうかは賭けだ。

 だが、行くしかない。


 俺はさらに加速した。


「レイルさん! その速度、危ない!」


 ロロの声を無視し、全力で駆ける。

 上空の影が急激に迫る。

 鳥は、さっきより速い。


 ――だが、先に着く。


 俺はロロを抱えたまま、地面を滑るように洞窟へ飛び込んだ。


 次の瞬間――


 ガァンッ!


 地面を抉る凄まじい衝撃音。

 洞窟の入り口が崩れ、光が遮断される。


「ロロ、大丈夫か」


 俺は胸に抱えたまま、静かに声をかけた。


「大丈夫だよ」


 ロロはそう言うと、俺の腕から離れ、壁に向かって小さな炎を放つ。

 一瞬だけ洞窟が照らされ、すぐに闇が戻る。


 足元に、小枝が落ちていた。

 俺はそれを拾い上げ、ロロに火をつけてもらう。


「この火が消える前に、探し出そう」


 そう言うと、ロロは俺の手から小枝を奪い取った。


「ここは、僕が前を歩いた方が早いでしょ」


 そう言って歩き出すロロの背中を、俺は黙って追う。


 少し進むと、天井や壁に吊るされた球状の物が見えてきた。

 ――明球。

 レガルド王国で使われていた照明だ。


「これがあるってことは……」


 ロロが明球に手を触れる。

 すると、球は淡く光り始めた。


「脈気を少し注ぐと、こうやって明るくなるんだ」

「これを僕たちは照球って呼んでるよ」


 ロロはそう言って小枝を捨て、さらに奥へ進む。


 やがて、下へ続く階段が現れた。

 俺たちはそれを降りていく。


 ――その途中。


「帰り道、どこ〜?」


 間の抜けた声が、下から響いた。


「ムウだ」


 俺は一気に階段を駆け下りる。


 降りた先に広がっていたのは――

 息を呑むような光景だった。


 淡い光を放つ水。

 その周囲には、瑞々しい草木が生い茂っている。

 水は確かに流れているのに、音は柔らかく、静かだ。


 照明はない。

 それでも、まるで昼間のように明るい。


 そして――

 その水の中で、無邪気に遊んでいるムウの姿があった。


「ムウ! 何、遊んでるんだよ」


 ロロが怒った声を上げ、ムウの方へ歩み寄る。

 ムウは俺たちに気づくと、ほっとしたように息を吐いた。


「助かったよー。ロロとレイル、迎えに来てくれたの?」


「叱りに来たんだよ」


 俺はそう言って、ムウを抱きかかえる。

 腕の中に伝わる、柔らかくて生きている感触。


「……生きててよかった」


 思わず、自然に言葉が漏れた。


「僕が死ぬわけないでしょー」


 ムウはいつも通り、無邪気に笑う。


「ところで、龍の雫は見つかった?」


 ロロがそう問いかけると、ムウはぴたりと黙り込んだ。

 視線を逸らし、口を結ぶ。


 ――分かりやすすぎる。


「レイルさん、とりあえずここからどうやって出るの」


 俺はムウを地面に降ろし、周囲を見渡す。

 勢いで来てしまった。脱出方法なんて考えていない。


 その時、ムウがにこっと笑った。


「ここね。脈気がすごく満ちてるんだよ。だから、普段よりすごいことできるの」


 そう言うと、ムウの身体が――

 ぐにゃり、と伸びた。


 ……二十メートルほどまで。


「ほらねー。村だと五メートルが限界だよー」


 なるほど。

 体を伸ばすのも、脈気の力か。


 その瞬間、ひとつの考えが頭に浮かんだ。


「ムウ、ロロ。二人とも、風を起こせるよな?」


「できるけど……なんで?」


「じゃあ、解決だ」


 俺はそう言って、塞がった出口の前まで戻る。


「二人で同時に突風を起こせ。岩を吹き飛ばす」


「無理だよー。僕たちの風、葉っぱ揺らすくらいだし……」


「そうです。こんな岩、動くわけ……」


 二人の言葉を遮るように、俺は言った。


「二人が力を合わせれば、絶対できる」


 そして、はっきりと。


「俺を信じろ」


 俺は二人の背中に手を置く。


「俺も心だけは手伝う。三人でやるぞ」


 一瞬だけ、ムウとロロが俺を見る。

 それから、同時に目を閉じた。


 ――次の瞬間。


 二人が手を突き出す。


 轟音とともに、凄まじい突風が洞窟内を駆け抜けた。


 ドゴォ。


 岩が前方へ転がり、出口が開く。


 俺は二人を抱え上げ、そのまま岩を越えて外へ飛び出した。


「……帰るか」


 そう呟いた、その先。


 真っ暗な草原の中で、

 いくつもの 赤い目 だけが、静かに光っていた。

Twitter(X)でも進捗や設定について呟いています


→ https://x.com/do16294?s=21&t=Gi9tqh5ZSyqRTyQ3uDwMHQ

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