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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
2章 エルド村編
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2-2 異常事態の幕開け

俺たち調査隊を乗せた二台の龍脈車が、急に減速し、そのまま止まった。

 周囲には簡素な柵と詰所のような建物があり、関所らしき場所だと分かる。


 ノインは龍脈車を降り、詰所にいる兵士と短く言葉を交わしていた。

 やがて戻ってきたノインが、俺たちを見回して一言だけ告げる。


「ここから先は王国の外だ。気を引き締めてくれ。

 ノア殿、そろそろこちらで探知をお願いする」


 ノアは静かに席を立ち、動力部の方へ向かう。


「よろしく頼むぜ、ノア!感知は任せた!」


 アスカが大きな声でそう言うと、ノアは一瞬だけ足を止めた。

 振り返ることはなく、ほんの僅かに間を置いてから、また静かに歩き出す。


「絶対あの子、いいやつだと思うんだよな」


 アスカはいつもの調子で言う。


「そう思わないか、レイル?」


 根拠はない。

 けれど、アスカのこういう直感は不思議と外れたことがない。


「ああ、そうだろうな」


 俺が答えると、今度はトムが口を開いた。


「でもさ、あんな可愛いのにレガルドの槍にいるなんて、ちょっと可哀想だよな」


 それに、リックが静かに頷く。


「……そうだな。

 あの子は王国に人生を管理されている。感情が薄くなるのも、無理はない」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひやりとした。

 昔、ピクニックで見た――あの光景が脳裏をよぎったからだ。


「なーに言ってんだよ!」


 空気を切り裂くように、アスカが声を上げる。


「王国に縛られてるやつなんていねーよ。

 守りたいものがあるから、ここに命懸けで立ってるんだろ!」


 一瞬、リックは言葉を失ったように俯いた。

 そして、ゆっくりと顔を上げる。


「……そうだな」


 短く息を吐き、続ける。


「守りたいものがあるから、俺たちは命をかけて戦っている。

 その覚悟がある者を、憐れむのは違うな」


 そう言って、リックはアスカの隣へ移動した。


「アスカ。お前のこと、色々教えてくれよ」


「おう!いくらでも!」


 トムはその様子を見て笑いながら、今度は俺の腕を引っ張る。


「じゃあレイルは俺に教えてくれ!」


 俺たちの声が大きすぎたのか、動力部の方からノインの声が飛んできた。


「もしもの準備くらいは、しとくんだよ!」


 龍脈車は再び走り出す。

 枯れ果てた大地。周囲には、命を失ったような枯れ木しか立っていない。


 二台の龍脈車は、その不毛な風景の中を疾走していった。


  龍脈車は、丸二日間休むことなく大地を疾走し続けた。

 雪の降りしきる地域、果ての見えない砂漠、そして僅かに緑が戻り始めた土地――

 いくつもの気候帯を越えた末、車体はゆっくりと減速し、やがて停止する。


 目の前に広がっていたのは、大きな森だった。

 風に揺れる枝葉は静かだが、どこか息苦しい。


「……ようやく着いたな」


 リックはそう呟くと、荷台から飛び降り、周囲の索敵を始める。

 俺たちは荷台の上からその背中を眺めていた。


 その時、動力部からノインが姿を現す。


「リックくん。今回はノア殿がいる。索敵は必要ないぞ」


 続いて現れたノアが、静かに言葉を継ぐ。


「……丸二日、集中していた。少し休ませて。

 この先では、私は役に立たない」


 淡々とした声だったが、どこか掠れていた。

 ノインは髭をいじりながら、少し考える。


「休むのはいい。ただし、私たちには着いてきてもらう。

 あなたを一人でここに置いて、死なせるわけにはいかないのでね」


 そう話しているうちに、もう一台の龍脈車が遅れて到着した。

 降りてきた兵士とノインが短く打ち合わせをし、やがて戻ってくる。


「今回の森の調査内容だが――

 この一帯で、強力なエネルギー反応が漏れ出ているらしい。

 その源を探すだけだ。王国の資源にしようという魂胆だろうね」


 トムが腕を組み、口を挟む。


「なるほど。エネルギーは重要ですね。

 ですが、新兵が来る日に頼むほどでしょうか?」


「所謂、王族のわがままというやつだ。

 私的に利用したいから、早めに確保したいらしい」


 ノインは感情を挟まず、淡々と続ける。


「ノア殿が回復するまで、六時間ほどここで休憩する。

 六時間後は十三時。そこから森の調査班と、龍脈車の護衛班に分かれる。

 私たちの班が森の調査を担当する」


 一度、全員を見回す。


「準備を整え、待機・警戒を怠らないように」


 そう言うと、ノインは荷台に簡易ベッドを設置した。


「ノア殿。後で、よろしくお願いします」


「……はい」


 短く返事をしたノアは、すぐに横になり、目を閉じた。


「アスカくん、レイルくん。

 私と一緒に、待機中や休憩時の過ごし方を学ぼうか」


 それからの六時間。

 俺たち五人は交代しながら、警備と休憩を繰り返した。


 森は静かだった。

 あまりにも、静かすぎるほどに。


  ――王国歴143年7月3日 13:00


 ノアが目を覚ました。

 十三時、ちょうど。

 あまりにも正確すぎて、少しだけ気味が悪い。だが彼女は訓練された兵士だ。これくらい当然なのだろう。


「ノア殿も起きたことだし、出発しますよ」


 ノインはそう言うと、もう一台の龍脈車に合図を送り、森の中へと歩き出した。


 森の中は、王国の公園とはまるで違った。

 作られた緑ではなく、ただ在るだけの緑。

 妙に、綺麗だった。


「葉っぱ、綺麗だな」


「レイルらしいけど、呑気だなぁ」


 アスカにだけは言われたくない言葉を、アスカに言われる。


 木々の隙間から漏れる光が、時折俺たちを照らす。

 その光が、妙に温かった。


 先頭を歩くノインとノアは、一切言葉を交わさない。


 二時間ほど歩いたところで、俺たちは崖に辿り着いた。

 見上げると、首が痛くなるほど高い。


「ふーむ……。

 ここまで広い森で、情報もなしにエネルギー源を探すのは難しいですねぇ。

 一度引き返して、もう一つの班にも協力してもらい、しらみ潰しに探すしかなさそうです」


 ノインの言葉に、リックが頷きながら口を開く。


「それに、この森……おかしくありませんか?

 ここまで来て、魔族が一体も出てきていない。

 これほど広い森なのに」


 少し間を置き、続ける。


「嫌な予感がします。

 一度王国に戻り、報告してから増援を呼ぶべきかと」


 ノインは髭を触りながら考え込み、やがて口を開いた。


「そうですね……。

 確かに、この森は不気味だ。

 我々の知らない“何か”が、隠されている気がする」


 その時、ノアがそっと口を開いた。


「……魔族は、この森に生息している。

 でも、どれもこちらを避けるように動いている」


 トムの顔色が変わる。


「ノイン隊長……!

 もし、普段は知恵もなく暴れ回っている魔族が、

 何かを“理解して”動いているとしたら……!」


 ノインはそれ以上聞かなかった。

 踵を返し、走ってきた道を戻り始める。


「――急ぐぞ!」


 それだけを告げ、走り出す。


 俺たちも慌てて後を追う。

 走りながら、俺はアスカに聞いた。


「魔族って……知恵、ないんだよな?」


「レイルが知らねぇこと、俺も知らねぇよ」


 そんな会話を交わしながら走っていると、

 次第に、前を走るノインたちとの距離が開いていく。


 代わりに――

 前方を走っていたノアの背中が、やけに近くなってきた。


「おい、大丈夫かノア!」


 アスカが立ち止まり、息を荒くしているノアを振り返る。

 俺もそれにつられて足を止めた。


「……平気よ。少し、息が切れただけ」


「バカ! しんどかったら言えよ!」


 アスカはそう吐き捨てるように言うと、迷いなくノアの手を取った。


「俺とレイルで引っ張っていってやる!」


 俺も反対側の手を掴み、三人で走り出す。


「前の三人が見えなくなったら終わりだ!

 スピード上げるぞ、レイル!」


 一気に速度が上がる。

 俺は横目でノアを見て、短く声をかけた。


「……ノア、ついてこい」


 返事はなかったが、握った手に力がこもった。


 二時間かけて進んだ道を、三十分で駆け戻った。


 森の出口が見えたところで、ノインたちは立ち止まっていた。

 ――俺たちを、待っていた。


「三人とも、すまない。置いていってしまった」


 ノインはそう言うと、すぐにノアの元へ歩み寄る。


「ノア殿。この辺りで、魔族の反応はあるか?」


 ノアは深く息を吸い、目を閉じた。

 そして、間を置かずに答える。


「……すぐそこの出口に。

 見たこともないくらい、強いのがいる」


 その言葉に、場の空気が一段重くなる。


 ノインは顎に手を当て、短く考え込んだ後、命じた。


「トム、リック。

 アスカくん、レイルくん、ノア殿の三人を守れ」


 一瞬だけ、こちらを見てから続ける。


「私は外で待機していた班の様子を見てくる」


 止める間もなかった。

 ノインは一人、森の外へと走り去っていく。


「……隊長……」


 リックが、押し殺した声で呟いた。


 俺とアスカは、何も言えずに立ち尽くしていた。

 異常だ。

 それだけは、はっきりと分かった。


 ――ドン。


 地面が叩き割られたような、低く重い音。


 誰も言葉を発しなかった。


 それから、一時間。


 ノインは戻らなかった。


 

Twitter(X)でも進捗や設定について呟いています


→ https://x.com/do16294?s=21&t=Gi9tqh5ZSyqRTyQ3uDwMHQ

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