2-1 第三調査隊始動、青きオーラの同乗者
ノアの派手な登場に、周囲の兵士たちはすっかり呑み込まれていた。
だが、ノインだけは違った。落ち着いた様子で顎髭を撫でながら、ゆっくりとノアに歩み寄る。
「レガルドの槍が、調査隊にどのようなご用件で?
本日は新兵の合流日でして、特別な任務の予定はありませんが」
ノアは無言のまま、じっとノインを見つめている。
その視線に、ノインはふと思い出したように軽く咳払いをし、自己紹介を始めた。
「失礼しました。自己紹介が遅れましたね。
私は第三調査隊隊長、ノインと申します」
「……ノア」
ノアはそれだけを告げると、質問には答えなかった。
ノインが次の言葉を探していると、その時――
バタン!
空から何かが落ちるような音がして、勢いよく地面に着地した人物がいた。
そこに立っていたのは、リュシアンだった。
「ノインさん、すみません。ご報告が遅れました」
「リュシアン様!? なぜこちらに……」
驚くノインに対し、リュシアンは淡々と口を開く。
「王国上層部から、急な命令を受けてまして」
「どのような任務でしょうか?
簡単なものであれば、私一人で――」
リュシアンは頭を掻きながら、少し困ったように言う。
「王国外への調査なんだ。規定通り、二班以上の編成で頼みます」
そう言って一枚の紙をノインに手渡すと、こちらを振り返り、俺たちの方へ歩いてきた。
「アスカ君とレイル君だよね。久しぶり。
調査隊でも、頑張ってね」
それだけ言うと、リュシアンは地面を蹴り、一気に空へ跳び上がった。
高度は軽く五十メートルを超え、途中で何かの機械のスイッチを入れると、そのまま城の方へ飛び去っていく。
――人間とは思えない。
身体能力が違いすぎる。
まるで、俺たちの知らないエネルギーを使っているかのようだった。
「すげー……」
アスカが、心の底から漏れ出たような声で呟く。
その俺たちの前に、ノインが近づいてきた。
「君たち二人。
リュシアン様から任されたこの任務に、参加する気はあるかい?」
――紙を見ると、そこにはクロサ地方にある森の調査と記されていた。
詳細な任務内容も書かれていたが、それを読むより早く、アスカが声を上げる。
「当然、行ってみたいです!」
いつも通りの、迷いのない返事だった。
「アスカ君は参加だね。
ではレイル君、君はどうする?」
ノインが優しく尋ねる。
アスカ、そして少し離れた場所に立つノアも、こちらを見ていた。
――アスカが行くなら、答えは一つだ。
「俺も行きます!」
「わかりました。二人とも、私の班に入ってもらおう」
ノインはそう言って微笑む。
それを見ていたノアは、少し意外そうな表情を浮かべていた。
「ところでノインさん! 班ってなんだ?」
唐突なアスカの質問に、ノインは苦笑しながら説明する。
「班というのは、五人一組のチームのことだよ。
そして、その班が十集まったものを『隊』と呼ぶんだ」
「へぇ~」
明らかに理解していなさそうな返事を聞いて、俺は思わず力が抜けた。
俺たちはノインの後ろについていき、彼が任務に同行するメンバーを次々と選んでいくのを眺めていた。
何人かに声をかけ終えると、ノインはそのまま東門へ向かう。門の外には、すでに龍脈車が二台、静かに待機していた。
「アスカくん、レイルくん。二人は先に荷台に乗っていてくれるかい」
そう言い残し、ノインは再び王国内へ戻っていく。
俺たちは顔を見合わせ、荷台に上がって腰を下ろした。
すると待ってましたと言わんばかりに、アスカが声を弾ませる。
「やっとだな!俺たち最高コンビの英雄への道が始まるな!」
あまりに楽しそうなその顔に、思わず俺も笑ってしまう。
「そうだな。ここからが始まりだ」
短く言って、拳を合わせた。
そこからはいつも通り、意味のない話をだらだらと続ける。
ノインは何度か戻ってきては荷物を積み、またどこかへ消えていった。
しばらくして、荷台がわずかに揺れる。
二人組の兵士が、俺たちの前に乗り込んできた。
「君たちか。初任務で、こんな辺鄙な土地を選んだ新兵ってのは」
そう言ったのは、岩のような体格の男だった。
隣にいるもう一人は小柄で、どこか飄々としている。二人とも三十前後に見えた。
「辺鄙な土地ってなんだよ。森はいいだろ!心が休まる!」
アスカが即座に噛みつく。
すると小柄な方の男が、楽しそうに吹き出した。
「いいなぁお前。こんなゴツいリックに真っ向から言うなんて」
男はそう言ってから、気さくに手を差し出す。
「俺はトム。で、こっちがリックだ。今回同じ班になる。よろしくな」
アスカは一瞬きょとんとした後、勢いよく手を握り返す。
「俺はアスカ!こっちは相棒のレイルだ!」
そう言って、俺の肩を掴み、強引に引き寄せた。
トムはその様子を見て、満足そうに頷く。
「いい奴らが第三調査隊に来たな。リックもそう思うだろ?」
「……俺は、トムみたいなのが増えて苦労が増えそうだ」
リックは深いため息をつき、頭を押さえた。
「トムさんとリックさんは、どれくらいここに?」
気になっていたことを、俺は二人に尋ねる。
「レイル、だったな。俺もトムも同期だ。もう十年はここにいる」
リックが答えると、トムも続ける。
「そうそう。第三調査隊のノイン隊長はな、ラセル戦闘長官と並ぶくらい強い。何かあっても安心だぜ」
その言葉を聞いて、アスカが何の迷いもなく口を開いた。
「ラセル長官くらいだったら、頼りないなぁ」
――空気が、凍りついた。
沈黙が続いた。
体感では随分長く感じたが、実際には数十秒ほどだったのだと思う。
その沈黙を破るように、ノイン隊長が俺たちの乗る龍脈車に乗り込んできた。
そのすぐ後ろには、ノアの姿もある。
「……みんな黙ってどうしたんだ?トムまで静かとは珍しいな」
そう言いながら、ノインはノアに視線を向ける。
「ノア、レイルの隣に座ってくれ」
指示を出すと、ノイン自身は龍脈車の動力部の方へ歩いていった。
しばらくして、低い振動音とともに車体が揺れ、龍脈車が動き出す。
「久しぶりに乗ったけど、やっぱすげーな」
空気を変えようとするかのように、アスカが言った。
それに呼応するように、トムが口を開く。
「アスカは純粋だなぁ。これから頼りにしてるぜ!」
そう言ってから、今度は俺を見る。
「レイルはまだあんまり喋ってないから分からないけど……大体、アスカのお世話係って感じか?」
冗談めかした口調だった。
「違います」
俺は即答する。
「アスカは、俺の相棒であり、ライバルです」
一瞬だけ、トムが目を丸くする。
それを見て、今度はリックが口を開いた。
「……お互いを高め合える存在、か。いいコンビだな」
そう言ってから、視線を横に滑らせる。
「ところで――」
リックの視線は、俺の隣に座るノアへ向けられた。
「レガルドの槍、あなたはなぜ同行しているのですか?
戦闘部隊でもない調査任務に、あなた達が協力するのは珍しい」
問いかけに、ノアは表情を変えずに答えた。
「私は、生き物のオーラを感知できる。道中の魔族避けとして派遣された」
それだけ言うと、再び口を閉じる。
「……クロサ地方は確かに魔族が多い」
リックはなおも食い下がる。
「だが、そのためだけに来るものなのか?
兵器があれば、強力な個体を除けば魔族は対処できるはずだ」
ノアは、ほんの一拍置いて答えた。
「知らない。私は派遣されただけだから」
それ以上の説明はなかった。
会話はそこで途切れ、龍脈車は黙々と進み続ける。
車輪の振動だけが、沈黙を埋めていた。
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