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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
1章 訓練編
18/33

1-18 調査隊始動、見透かす瞳の少女

俺たちが二人で目を合わせ固まったその瞬間。


 ――ガチャッ。


「ふ、二人とも!!」


 勢いよくドアが開き、アルトが飛び込んでくる。


「やりましたよ!!

 僕、兵器研究担当に配属されました!!」


 眼鏡がずれているのも気にせず、興奮したまま叫ぶアルト。


「なぁ、アルト」


 俺は、静かに唾を飲み込みながら聞いた。


「明日から……

 どこに行けばいいか、分かるか?」


「…………」


 アルトの表情が、凍りつく。


 ゆっくりと、俺とアスカを見る。


「……あ」


 三人の間に、沈黙が落ちた。


「……」


「……」


「……」


 答えは、誰も持っていなかった。


「……カレンとミレアに聞こう」


 そう言って、俺たちは顔を見合わせる。


「だな」


「そうですね……」


 三人揃って部屋を出る。


 理由は単純だ。

 この中で一番しっかりしているのが、あの二人だから。

ーー 

 「はぁ……」


 カレンは呆れたようにため息をつき、俺たち三人を見回す。


「明日どこに行けばいいか分からないって……

 ほんと、あんたたちらしいわね」


 そして、少し諦めたように言った。


「で。三人はどこに配属されたの?」


「ぼ、僕は……

 兵器の研究をする、開発部です……」


 アルトが控えめに答えると、カレンは頷いた。


「アルトはね。

 明日の九時に、レガルド城の門前集合って

 ラセル長官から貰った紙に書いてあったわよ」


「……は?」


 俺の頭に、疑問が浮かぶ。


 ――そんな紙、貰っていない。


「おい、なんだよそれ!!

 俺ら、貰ってねぇって!!」


 アスカが慌てて、アルトの口を塞ぎながら言った。


「あ、そうなの?」


 カレンは、あっさり返す。


「てっきり、文字も読めてないのかと思ったわ」


 真顔で言われて、反論できない。


「わ、私は……

 もらってないんじゃないかなって思ってたよ!」


 ミレアのフォローになっているのか分からない声が響く。


 アルトは、アスカの手を外して慌てて言った。


「ぼ、僕……

 何かもらってた気がします。

 すみません、お手数おかけしました……」


 そう言って頭を下げるアルトの肩を、アスカが叩く。


「誰だって、それくらいあるって!

 切り替えていこうぜ!」


 あっけらかんと笑うアスカを見て、俺は思わず吹き出した。


「アスカが言うことじゃないだろ!」


 俺が突っ込むと、ミレアが声を上げて笑う。

 それにつられて、カレンとアルトも笑った。


 最後に、アスカが一番大きく笑った。

「それで、みんなはどこ配属だったの?」


 カレンがそう聞くと、真っ先に口を開いたのはミレアだった。


「私は……戦闘部隊に配属になっちゃった。

 ちゃんと、やっていけるか心配で……」


 ミレアの不安を振り払うように、アスカが後ろから勢いよく背中を叩く。


「なに言ってんだよ、ミレア!

 お前の射撃の精度は、誰にも負けねぇよ!」


 力強く笑いながら言うアスカの顔を見て、

 ミレアは少し驚いた後、安心したように笑った。


「……うん!

 アスカさんがそう言ってくれるなら、安心だよ!」


「アスカくんだけではありません」


 アルトが眼鏡を押し上げながら、静かに続ける。


「僕も、同じ意見です」


 カレンはその様子を一人ずつ見回し、

 最後に俺のところで視線を止めた。


「レイルは、どこ配属になった?」


 俺が答えようと口を開いた――その瞬間。


「俺とレイルは一緒の調査隊だ!!」


 アスカの声が先に響いた。


「もう!

 レイルに聞いてるんだから!」


 カレンが少しだけ怒った声を出す。


 俺は一度、気持ちを整えてから聞き返した。


「……カレンは、どこになったんだ?」


「私はね。警備隊」


 そう答えるカレンは、ほんの少しだけ寂しそうだった。


「……アスカさんとレイルさんだけなんですね。

 一緒の部隊なのは」


 ミレアが、しんみりとした声で言う。


「みんないいよな!」


 俺は、わざと明るく言った。

 本心とはまるで違う声で。


「部隊の手柄、独り占めできてさ」


 誰もすぐには反応しない。


「俺なんてさ。

 アスカがいるせいで、名を轟かせようとしても

 成果を分け合うことになるんだぜ?」


 ――冗談だ。

 少なくとも、そういうことにした。


「でもさ」


 俺は、みんなを見渡して続ける。


「みんながそれぞれの場所で全力を尽くして、

 守り続ける限り……」


 言葉を選ぶように、一拍置く。


「俺たちは、ずっと一緒のチームだろ?」


 寂しさを押し殺して言った。

 誰よりも、自分に言い聞かせるように。


「そうだな、レイル!」


 アスカが、いつもの明るさで応える。


「離れ離れになるのは仕方ねぇ!

 でも、この気持ちを忘れなければ――

 俺たちはずっと仲間だ!!」


「……じゃあ俺、部屋に戻って

 明日の準備してくる」


 そう言って立ち上がろうとした瞬間。


「だめ」


 カレンが、俺の腕を掴んで引き止めた。


「今日は、みんなで語り明かそうよ。

 未来の話を」


 引っ張られる俺に、アルトも加勢する。


「レイルくんだけ抜け駆けは、ずるいですよ。

 成果を上げるのは、明日からで十分です」


 そう言って、無理やり座らされた。


 ――ここにいたら、別れがつらくなる。


 分かっていた。

 それでも、この楽しい空間から抜け出すことはできなかった。


 その夜。

 俺たちは、兵舎の誰よりも遅くまで起きていたと思う。


 他愛もない話をして、

 夢を語って、

 未来を信じていた。


 ――俺の大切な日常は、

 間違いなく、ここにあった。


  ――王国歴143年7月1日 5:45


 俺は、固い床の感触で目を覚ました。


 顔を上げると、すぐ隣でカレンとアルトが眠っている。

 向かい側では、アスカとミレアもまだ夢の中のようだった。


 ――あんなに遅くまで起きてたもんな。


 全員が、静かに息をしている。

 すう、と規則正しい寝息だけが部屋を満たしていた。


 俺は、一人ずつ、ゆっくりと顔を見ていく。


 ミレア。

 その強さには、何度も驚かされてきた。

 普段は物静かで大人しいのに、

 何かを成し遂げると決めたときの行動力は、本当に凄い。


 アスカ。

 ――お前は、これからも俺と一緒だな。

 よろしくな。


 アルト。

 いつも俺たちの戦術を支えてくれた。

 素直で、誰よりも仲間想いなところが好きだった。


 カレン。

 竜核の試験の時は、俺が支えていたはずなのに。

 気づけば、ずっと支えられていた。

 最高のリーダーだった。


 胸の奥で、一人ずつに言葉を送ってから、

 俺はわざと明るい声を出した。


「朝だぞー!」


 その声に、みんながもぞもぞと起き出す。

 俺は寝ぼけたアスカの肩を掴んで揺らした。


「ほら、早く着替えていこうぜ!」


 ドアへ向かい、ノブに手をかける。

 ――そして、ふと立ち止まった。


 振り返る。


「みんな、本当にありがとう!!

 次に会うときは、剣一本で、もっと強くなってるから」


 少し間を置いて、言い足す。


「じゃあ、俺先に行くよ!」


 そう言って、ドアを開けた。


「……変わらないね。優しいの」


 背中越しに、カレンのつぶやきが聞こえた。


 ――振り返れなかった。


 今の俺の顔は、きっと人に見せられるようなものじゃなかったから。


 廊下に足音を残しながら、自分たちの部屋へ戻る。

 新しい軍服に、ゆっくりと足を通した。


  ーー――王国歴143年7月1日 8:00

 俺とアスカは、新しい軍服に身を包み、白銀の壁に設けられた四つの門のうち、東門を目指して歩いていた。


「なあ。本当に、あの別れ方でよかったのか?」


 アスカの問いかけに、俺は少し間を置いてから答えた。


「ああ……ああしないと、俺が進めなさそうだったんだ」


 正直な気持ちを打ち明けると、アスカはふっと表情を緩め、優しく微笑んだ。


「そっか。みんな、お前が壊れないか心配してたぞ。だから俺が、バシッと言ってきてやった」


 そう言って、アスカは胸を張る。


「『俺とレイル、二人で勝てない魔族が現れても、絶対に負けねぇ』ってさ!」


 その言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。

 俺は少し、悪いことをした気分になる。


「……次に会うときには、もっと強くなってるよ」


「何言ってんだよ!」


 アスカは即座に声を上げ、俺の背中をドンと叩いた。


「それが、お前のいいところじゃねぇか。無理して消すなよ」


 その一撃は、痛くはなかったが、妙に胸に響いた。


「みんな、それぞれ自分の道に行ったんだ。しっかりしろよ。永遠にお別れってわけじゃない」


 笑いながら言われて、俺はようやく肩の力を抜いた。


「……そうだな。生きて、またみんなに会おう」


「ああ!」


 短い返事が、やけに頼もしく聞こえた。


 そうして並んで歩いているうちに、東門が見えてくる。

 門の前には、すでに調査隊と思われる人々が大勢集まっていた。


 列に近づいたところで、ひときわ威圧感のある兵士が、こちらへ歩み寄ってくる。

 顎に蓄えた髭を撫でながら、俺たちを値踏みするように眺めた。


「やあ。君たちは、調査隊配属の新兵かな?」


「はい。俺がレイルで、こっちがアスカです」


「どうも!」


 アスカも軽く手を上げて応じる。


「そうか、そうか。君たちか」


 男は満足そうに頷き、続けて名乗った。


「私はノインという。君たちも知っている、ラセル長官と同い年だ」


 柔らかな笑顔を浮かべるノインは、そのまま調査隊について簡単に説明してくれた。


 ――調査隊は、王国内の町や国外で起きる異変を調べる部隊。

 魔族との戦闘も、龍脈車を使うことで、以前より大幅に減っているらしい。


「これから、よろしくね」


 そう言うとノインは、いつの間にか背後に並んでいた他の新兵たちにも、一人ひとり丁寧に声をかけて回っていった。


  壁にもたれかかり、アスカと九時まで暇をつぶしていると、遠くから地鳴りのような音が近づいてきた。

 次の瞬間、龍脈車が信じられない速度でこちらへ突っ込んでくる。


 ――速い。


 龍脈車は、俺たち兵士のいる場所に向かって一切減速する気配を見せない。

 兵士たちは慌てて散り、ぎりぎりのところでその軌道をかわしていく。


「なんだよ、こいつら……敵か?」


 アスカが真剣な表情で身構えた、その時だった。


 龍脈車の扉が開き、中から一人の兵士が飛び降りる。


「――レガルドの槍が一人!ノア殿、到着!」


 その叫びと同時に、車内から一人の女性が姿を現した。

 肩まで伸びた青い髪が、ゆらりと揺れる。年齢は、俺たちとそう変わらないように見えた。


「レガルドの槍って……?」


 俺が小声でアスカに尋ねると、アスカは真面目な顔のまま、


「なんだっけ」


 と返してきた。


 その瞬間、緊張が一気に抜け、俺は思わず尻もちをついた。


「ちゃんと覚えとけよ……」


「ごめん、ごめん」


 アスカは軽く笑う。


 周囲の兵士たちが固まっている中で、笑っているのは俺たちだけだった。

 その様子を、青髪の女性がじっと見つめている。


 ――まるで、何かを見透かしているような目だった。


 女性は静かに歩み寄り、俺たちの前で足を止めると、顔をじっと覗き込んでくる。


「……あなた、名前は?」


 淡々とした声。

 だが、なぜか俺より先にアスカが答えた。


「こいつはレイル!俺は相棒のアスカだ」


 少し間を置いて、女性も名乗る。


「私はノア」


 感情の起伏を感じさせない口調だった。

 俺はただ、その姿を見つめることしかできなかった。


 ――この人は、何かを背負っている。


 理由は分からない。ただ、そんな予感だけが胸に残る。


 レガルドの槍にも、俺たちと同じくらいの年齢の兵士がいるのか。

 その事実が、なぜか妙に重く感じられた。

Twitter(X)でも進捗や設定について呟いています


→ https://x.com/do16294?s=21&t=Gi9tqh5ZSyqRTyQ3uDwMHQ

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