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1-15 終わりと始まり、優しい大馬鹿班

賑やかな声が、公園の中に響いていた。


 その空気を切り裂くように、怖い顔をした兵士が俺たちの前に立つ。


「お前たち、ここから直ちに出ていけ!」


 有無を言わさぬ声だった。


 兵士はそう告げると、俺たちが広げていた龍脈シートを乱暴に掴み、強引に剥がした。


「なにすんだよ!」


 アスカが反射的に声を荒げる。


 兵士は、冷たく言い返した。


「ここは王国軍特殊部隊――

 “レガルドの槍”の訓練場となった。一般人は即刻立ち退け」


 そう言われても、俺とアスカには意味が分からなかった。


 だが、残りの三人は違った。


「……すみません」


 カレンが頭を下げ、ミレアも続く。

 二人は何も言わず、俺とアスカの腕を掴んでその場を離れようとした。


「ちょっと待てよ!!」


 引きずられながら、アスカが叫ぶ。


「俺たちが先にいたんだろ!

 なんであいつらに譲らなきゃなんねーんだよ!」


 カレンは無言のまま、アスカの腕を強く握っている。

 ――握り潰す、という表現が浮かぶほどだった。


 俺の方はというと、アルトとミレアに両腕を押さえられているだけで、何もされていない。


「いい? アスカ」


 歩きながら、カレンが低い声で言う。


「“レガルドの槍”はね、王国の秘密兵器なの」


 秘密兵器。


 その言葉が気になって、俺はアルトに視線を向けた。


「なあ、アルト。

 王国の秘密兵器って……なんなんだ?」


 アルトは一瞬だけ迷い、俺の腕を離した。

 そして、いつもの仕草で眼鏡を押し上げる。


「“レガルドの槍”とは、生まれながらに特別な力を持つ人間を集め、兵士として育てた特殊部隊です」


 淡々とした説明だった。


 その間にも、公園の出口が近づいてくる。


 出口の付近には、特殊部隊の隊員と思しき人々が立っていた。


 ――だが、様子がおかしい。


 誰もが、どこか苦しそうな顔をしている。

 目に、生気がない。


「なあ、アルト」


 思わず聞いていた。


「どうして、みんなあんな顔してるんだ?」


 アルトは、答えなかった。


 公園を出るまでの間、何人もの兵士とすれ違った。

 そのたびに、胸の奥がざわつく。


 まるで――

 生きる希望を削り取られた人たちを見ているようだった。


 しばらく歩いてから、アルトがようやく口を開く。


「……絶対に、口外してはいけない話ですが」


 そう前置きして、続けた。


「“レガルドの槍”では、非人道的な訓練が行われている。

 生まれた時点で、軍への入隊を強制される――そんな噂もあります」


 アルトは一度言葉を切る。


「もちろん、すべて噂だと信じたいです。

 ですが……魔族に抗うため、王国がそのような手段を選ぶ可能性を、僕は否定できません」


 そう言って、アルトは視線を落とした。


 誰も、何も言えなかった。


 さっきまでの笑い声が、

 まるで遠い昔のことのように感じられた。


 ーー王国歴143年4月5日 9:00


「本日から、王国兵器の訓練を始める!!」


 ラセルの大きな声が、グラウンド全体に響き渡った。


「お前たちはすでに一度、ジオガンを扱っている。

 王国兵器がどうすれば動くか――その理屈は理解しているはずだ!」


 そう言うと、ラセルは小屋の方へ視線で合図を送る。


 次の瞬間、小屋の扉が開き、白衣を着た男たちが現れた。

 彼らは台車を押しながら、大量の王国兵器を運び出してくる。


 ジオガン。

 大砲のような兵器。

 巨大な盾のようなもの。

 用途すら分からない、異形の装置。


 武器というより、道具とも機械ともつかない――

 そんな兵器が、ずらりと並べられていく。


「お前たち!

 一度、自由に色々な武器を使ってみろ!!」


 ラセルの号令と同時に、兵士たちは一斉に動き出した。


 目を輝かせて走り出す者。

 自分に合いそうな武器を吟味する者。

 とにかく“強そうなもの”に手を伸ばす者。


 その光景を、俺は立ち尽くして見ていた。


「レイルは、なににすんの?」


 隣から、アスカが無神経に聞いてくる。


 ――正直、触りたくなかった。


 王国兵器を再び手にすることへの、理由のない恐怖。

 胸の奥に、嫌な感覚が広がる。


 返事に詰まっていると、ラセルがこちらへ歩いてきた。


「レイル。お前はやらんでもいい」


 短く、はっきりと。


「剣術でも磨いておけ」


 その言葉に、俺は息をついた。


 だが、アスカは違った。


「じゃあ俺も剣術だな!」


 笑いながら言うアスカに、ラセルは一言だけ返す。


「アスカ。お前は王国兵器の訓練だ」


 それだけ告げると、ラセルはいつものように小屋へ戻っていった。


「アスカ、悪いな」


 俺は少し気まずく言う。


「俺、一人でやるから。

 暇な時、また相手してくれ」


「おうよ!」


 アスカは軽く拳を振り上げた。


「俺も剣術のお前に負けないくらい、王国兵器鍛えてくるわ!」


 そう言って、迷いなく兵器の並ぶ方へ歩いていく。


 俺は、アスカが王国兵器を手に取るのを最後まで見届けた。


 それから、何も言わずにグラウンドの外周へ向かう。


「……基礎練からだな」


 自分に言い聞かせるように、そう呟く。


 俺は走り出した。


 ゆっくりと。

 だが、確実に。


 逃げるためじゃない。

 立ち止まらないために。


 ――あれから俺は、毎日基礎練を続けた。


 雨の日も、

 焼けつくように暑く、倒れそうになる日も。


 歩みを止めることはなかった。


 アスカに勝つために。

 みんなと、同じ場所に立ち続けるために。


 王国兵器を使えない俺には、逃げ道がない。

 だからこそ、この道を極めるしかなかった。


 そう自分に言い聞かせ、誰よりも身体を動かし続けた。


 一方で、王国兵器の訓練では――

 アスカが、相変わらず無双していた。


 王国兵器は威力が絶大なため、対人戦は想定されていない。

 求められるのは、精密さ。

 応用力。

 そして、充填の早さ。


 そのすべてにおいて、アスカは兵士たちの中で頭ひとつ抜けていた。


 それでも。


 アスカがどれだけ凄くても、

 俺は、負けるわけにはいかなかった。


 そう思い、歯を食いしばって訓練を続けているうちに――

 いつの間にか、時は流れていた。


 気づけば、終了試験の日となっていた。


 

  ーー王国歴143年6月28日 5:45

 いつも通りの、うるさいサイレンが鳴り響く。

 この部屋でこの音を聞くのも、今日で最後かと思うと――少しだけ、胸が締めつけられた。


「レイル! おはよう!!」


 アスカはいつも通り、二段ベッドの上から勢いよく飛び降りてくる。

 思い返せば、アスカも変わった。

 来た当初は朝が弱く、何度も起こしていたのに――一年経った今では、誰よりも早く起きている。


「ああ。おはよう」


 短く返し、制服に袖を通す。

 アスカも並んで着替え、俺たちはグラウンドへ向かった。


 朝礼は、普段と大きく変わらない。

 いつものラセルの、どうでもいい前置きだ。


 ただ一つだけ――今日は違った。


「本日は、修了試験を行う!!

 九時にグラウンドへ集合だ!!」


 それだけ告げると、ラセルは小屋へ戻っていく。


「……とうとう、終わりなのですね」


 背後で、アルトが小さく呟いた。


「何言ってんだよ!」


 アスカが、即座に声を張り上げる。


「終わりじゃねぇ。始まりだろ?」


 アルトを真っ直ぐ見て、アスカは続けた。


「この試験を突破して、俺たちはようやく英雄への道に立つんだ。

 ――なぁ、レイル」


 突然話を振られ、少しだけ戸惑う。

 それでも、アスカの相棒でいる答えは一つしかなかった。


「ああ。そうだな」


 自然と、笑みが浮かぶ。


「今日が――始まりだ」


 その声に、後ろからカレンの笑い声が重なる。


「あはは! なんだか昔みたいだね。二人とも、バカに戻ったみたい」


「カレンちゃん、それは言い過ぎだよ……」


 ミレアが慌ててフォローに入る。


「二人とも、すごく優しいんだから」


「ええ」


 アルトも頷き、眼鏡をクイっと上げる。


「僕も思いますよ。

 君たちは……いや、この班は、優しい大馬鹿班です」


 一瞬の間。


 そして、アルトは真剣な表情で続けた。


「だからこそ、僕はこの班が大好きでした。

 必ず、みんなで修了試験に合格しましょう」


 その言葉に、三人が同時に声を上げる。


「当たり前だろ!」

「うん! 絶対合格するよ!」

「私も……みんなが好きだった。頑張ろう!」


 宣言していないのは、俺だけだった。


 視線が集まる。


 俺は一度、目を閉じて――ゆっくり、言った。


「ああ。

 絶対、合格しよう」


 その言葉を合図に、俺たちは五人で食堂へ向かう。


 朝の光が、眩しいほどに差し込んでいた。

 まるで――ここから何かが、本当に始まるかのように。


 九時。

 俺たちは再びグラウンドに集められた。


「今から――修了試験を行う!!」


 ラセルの、聞き慣れた大声が空気を震わせる。


「今回の試験は、実戦形式だ。

 実際に魔族と戦ってもらう」


 一瞬、場が静まり返る。


「命を落とす可能性もある。

 その覚悟がない者は、今ここで辞退しろ」


 兵士たちの肩が、わずかに揺れた。

 死は、誰だって怖い。


 だが――


 俺たちは初日から、何度も死にかけてきた。

 今さら、その言葉に足をすくませる者はいない。


「各班、兵舎の指定部屋で待機しろ!!」


 命令が下り、兵士たちは一斉に動き出す。

 俺たちも言われた通り、俺とアスカの部屋へ戻った。


Twitter(X)でも進捗や設定について呟いています


→ https://x.com/do16294?s=21&t=Gi9tqh5ZSyqRTyQ3uDwMHQ

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